傑作映画だ。
アラン・アーキンが聾唖者になりきる演技を見せ、ニューヨーク映画批評家賞最優秀主演男優賞を受賞。また当時新人のソンドラ・ロックが好演し、二人はアカデミー主演男優賞と助演女優賞にノミネートされた。共演はチャック・マッカン、ステイシー・キーチ、パーシー・ロドリゲス。音楽は初期でまだフュージョンを使ってなかったデイヴ・グルーシンが担当。
あらすじ
聾唖である時計専門の彫金師シンガーは、糖尿で入院したルームメート(聾唖で知的障害者)を追ってジョージア州のジェファーソンに転居してきた。
彼は聾唖ゆえに、話し相手がついつい本音を吐き出してしまい、そのおかげで癒やされる能力を持っていた。
浮浪者のポーシアは失業して自棄になっていたが、シンガーに話を聞いてもらい、もう一度自分の足で生きてみたいと思うようになった。
下宿先の娘ミックは父が事故による半身不随で働けず、貧しさゆえに学校でも孤立していたが、音楽に対する感覚は優れていた。自分では聞けないレコードをシンガーが掛けてやると、彼女は大喜びして彼の部屋に入り浸るようになる。
黒人医師コープランドは白人嫌いで、また学のない婿を嫌っていたが、シンガーに対して心を開き、自分がガンであと僅かな命であることを明らかにする。
そんなシンガーもいつも聞き役ばかりで、言いたいことはあっても言葉に出来ない苦しさがあった。
ちょうどその頃、ルームメートが亡くなる。同じ時期、シンガーは途方に暮れる。ポーシアは街を出て行き、コープランドの娘婿は刑務所で虐待を受けて足を切り落とし、ミックは友人の兄と心ないセックスをして機嫌が悪い。
あまりにも息苦しさに、シンガーはある夜こめかみに向けて拳銃の引き金を引く。
雑感
人間は理解し合えない生き物だという主題をうたった名作。
この作品は松山善三監督脚本・高峰秀子主演で聾唖者夫婦の悲喜こもごもを描いた映画「名もなく貧しく美しく」(1961)と似ていると言われる。
しかし「愛すれど心さびしく」で聾唖者が登場する必要はない。読者・視聴者にわかりやすいから、そう設定しただけで、内容はあらゆる人に通用する主題だ。
コミュニケーションの不全性という意味では、2016年に大本命「君の名は。」キネ旬ベストテン読者第一位「この世界の片隅に」を差し置いて日本アカデミー賞最優秀アニメ賞に輝いた「聲の形」が近い内容だ。あの原作も誰にでも通用する話だった。
原作のカーソン・マッカラーズは1940年代から50年代にかけて活躍した女流作家で、フォークナーに代表される「南部ゴシック派」の一人。この作品は初めての結婚後に書かれた処女作だ。この人は同じ相手と二度結婚している。実は二人ともホモセクシャルで、特殊な関係だった。2回目の結婚後、カーソンがまず自殺未遂事件を起こす。それから数年経って夫が心中を提案するが、彼女は夫の元を去り、夫は一人で自殺する。
そんな波乱の人生を送ったマッカラーズが亡くなった翌年に、この映画は公開されている。
スタッフ・キャスト
監督 ロバート・エリス・ミラー
製作 トーマス・C・ライアン 、 マーク・マーソン
原作 カーソン・マッカラーズ
脚本 トーマス・C・ライアン
撮影 ジェームズ・ウォン・ホウ
音楽 デーヴ・グルーシン
配役
シンガー アラン・アーキン
ミック ソンドラ・ロック
アントナプロス(ルームメイト) チャック・マッカン
コープランド医師 パーシー・ロドリゲス
ポーシア ステイシー・キーチ
ケリー夫人(ミックの母) ローリンダ・バレット