1962年7月に梶山季之原作、増村保造監督、田宮二郎主演映画「黒の試走車」(くろのテストカー)が大ヒットして、翌8月に再びサラリーマンをターゲットにした、黒岩重吾原作小説の富本荘吉による映画化作品「真昼の罠」を再び主演田宮二郎でぶつけてきた。

大手金属メーカーのエリートコースを驀進する藤は女医殺人事件に巻き込まれる。状況証拠は藤が犯人だと示しており、藤が逮捕から逃れるために自ら犯人を探す羽目に・・・。
監督は富本荘吉。共演は叶順子、高松英郎、村上不二夫。白黒スコープ映画。

あらすじ

八千代金属に勤める藤悟は30代前半で課長の座を狙うエリート・サラリーマン。唯一の彼の弱みは女癖が悪いこと。手当たり次第に女を食い散らかしていたが、その中でも飛び切り美しい女性である尚子と出会う。彼女とは射撃クラブで一緒になった仲で、欧州出張を前に彼女に会って午後のひとときを情を交わして過ごす。ところが尚子は財界のフィクサーである霞の愛人だった。
藤が尚子と愛し合っていたとき、金を借りていた女医赤塚が殺される。尚子に打ち明けると、霞にバレると大変だから情事のことは言わないで欲しいと言う。藤も霞の機嫌を損ねると彼まで酷い目に遭わされることはよく知っていた。
警察から彼に問い合わせがあったとき、デッチ上げのアリバイを答えるが、そのアリバイが簡単に突き崩されてしまう。そんなとき、一晩寝たバーのホステスから課長は大金を必要としていたという話を聞く。社内でも課長から注意を受け、欧州出張どころか大阪の子会社への出向を命じられる。
女医の私生活を調べて行くうち、彼女の下で働いていた看護婦恵美子と寝て話を聞きだすことができた。課長は女医から300万円を借りていたのだ。そのことをネタに課長を強請ると、殺人の起きた直後、女医の元から借用書を取り返した、しかし自分は犯人ではないと言い張る。
そのうちに尚子との情事が霞の知るところとなり、藤は呼び出される。霞は夕崎部長から土地取引の資料を盗んで来いと藤に依頼する。藤は霞の権力に逆らえず夜会社に居残り、夕崎部長のロッカーを探すが何も出て来ない。
翌日、出社すると素行不良により退職処分を言い渡される。しかし課長が廃棄処分となった土地取引資料を藤に手渡す。藤はその書類を霞に差し出すが、廃棄書類になったと言うことは土地取引自体が無くなったと言うことだからもう不要だと言われる。しかし依頼を果たしたことで霞は警察に藤のアリバイを証明してくれる。藤が土地取引資料を見ると、取引相手は女医であり取引を進めていた会社側の責任者は夕崎部長だと知る。部長が、女医との間に入ってマージンを取るつもりだったに違いない。ところが女医が取引中止を持ち出したので、既に裏金を下工作に使っていた部長が殺したのだ。
しかし証拠がなかった。そこで尚子に10万円を借りて部長に尻尾を出させるための費用を作る。事情を話すと尚子に借りることはできたが、そこまでするかと呆れられてしまう。看護婦恵美子と寝て、3万円で頼むと夕崎を誘き出す手伝いをしてくれる。しかし時間になっても部長は動かなかった。ついに、恵美子は帰って行った。ところがホテルの外で恵美子が部長に拐われていた。そこを張り込んでいた警視庁捜査一課の刑事たちが取り囲んで、部長は現行犯で逮捕された。
翌日、部長が犯人だったのだから藤は復職できると思って出社すると、同僚の古谷が昨日役員会があり、社の名誉を汚した部長、課長と一緒に藤も退職処分となったと耳打ちした。古谷はチャッカリ藤の後釜になり係長の席に座っていた。
失意を抱えて退社する藤を、霞と別れたという尚子が出迎える。彼女だけは藤を見捨てていなかった。二人並んで歩く藤は憑物が取れたように晴れ晴れした顔をなった。

雑感

藤と尚子は財界の大立者を敵に回して、もう上場企業に勤められないが、これから何をして生きていくのだろうか。30過ぎて裸一貫からの出直しになるだろう。

でもそろそろ女癖を治さないと、尚子からも呆れられて捨てられる。だって、尚子と寝た後、何人の証人と寝た?寝たおかげで割安で犯人を捕まえることは出来たが、今後はそこが変わらなければ、同じ失敗を繰り返しそうだ。

大映宣伝部は「黒の試走車」に続き、「サラリーマン・スリラー」シリーズ第二弾としてこの映画を宣伝していた。実際、「映画は大映」予告編で「サラリーマン・スリラー第二弾」と銘打ってご丁寧に犯人が誰か丸わかりの内容を流していた。だから興行的には失敗したと思っている。

続く第三作が「黒の報告書」(主演宇津井健)、第四作が「背広の忍者」(主演田宮二郎)になる。第五作の「黒の札束」(主演川崎敬三)以降黒シリーズがずっと続き、宣伝部も分かりやすい黒シリーズに統一して宣伝したため、「真昼の罠」と「背広の忍者」も同じシリーズだったと言うことを忘れ去られてしまった。

スタッフ

監督 富本壮吉
原作 黒岩重吾
脚色 高岩肇
企画 塚口一雄
撮影 宗川信夫
音楽 池野成

キャスト

係長藤悟 田宮二郎
謎の女霞尚子 叶順子
夕崎部長 高松英郎
見山課長 村上不二夫
同期古谷 友田輝
看護婦遠山恵美子 弓恵子
女医赤塚弥生 角梨枝子
会社の部下 守屋那須江 渋沢詩子
フィクサー霞雄介 小沢栄太郎
業界紙記者 大辻伺郎
田所警部 中条静夫
バーの女加奈 穂高のり子

真昼の罠 1962.8 大映製作・配給 黒岩重吾原作社会派推理小説の映画化

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