(△☆)詩人室生犀星が自身と娘のことを綴ったベスト・セラー原作小説を、田中澄江成瀬巳喜男が共同脚色し、成瀬巳喜男が監督した文芸映画
白黒映画で撮影は玉井正夫

主演は香川京子、山村聡
共演は木村功、夏川静江

雑感

原作は、大きく分けて三部に分かれる。最初は、戦前に私生児として生まれた平四郎(モデルは室生犀星自身)が苦労して詩人・作家として成功する。続いて杏子(モデルは随筆家室生朝子)が生まれ、平四郎夫婦のもとですくすくと育つ。最後に、杏子は亮吉と結婚するが、その生活は決して実りあるものではなく最後は離婚する。
昭和33年の映画だから、亮吉の家庭内暴力は控えめに描かれているが、男性の方が偉いという意識が当時残っていたから、実際は今よりも苛烈なものだったはずだ。
それでも、なかなか男と縁を切れない女の哀しさを香川京子の演技からは感じる。
山村聰は、それをできるだけ娘の気持ちを重んじ、客観的な立場で見守ろうとする。父親として見習いたい態度だ。
しかし、そう言う超然とした態度も亮吉には気に入らないで杏子に当たる。
才能のない人間は自覚、自重しなければ、つまらない人間になってしまうということだ。

キャスト

山村聡  作家平山平四郎
夏川静江  妻平山りえ子
香川京子  娘平山杏子
太刀川寛  息子平山平之助
木村功  婿漆山亮吉
中北千枝子  婿の姉漆山すみ子
三井美奈  山本りさ子
中村伸郎  編集者八木原俊雄
小林桂樹  モグリの金貸し田山茂
加東大介  放浪詩人菅猛雄
賀原夏子  村井えん子
沢村貞子  鳩井夫人
佐原健二  鳩井の息子
千秋実  吉田三郎
土屋嘉男  官僚伊島

スタッフ

製作  田中友幸
原作  室生犀星
脚色  田中澄江
脚色、監督  成瀬巳喜男
撮影 玉井正夫
音楽 齋藤一郎

 

ストーリー

昭和22年、作家の平山平四郎は、まだ田舎で妻のりえ子、娘の杏子、息子の平之助の四人で疎開暮らしをしていた。ラジオ修理業をやりながら独学で小説を書いている漆山亮吉は、杏子が好きだったが、言い出せなかった。しかし、杏子が戦友だった法務省の官僚伊島と見合いしたと聞き、対抗意識から俄然告白した。杏子も気心に知れた仲だからと、結婚を承知した・・・。

亮吉夫婦は、本郷に新居をもったが、二年経っても小説家への道を捨てられない彼は、毎日酒をのみ定職につかない。杏子は、筍生活しながら家計をやり繰りした。平四郎は娘に対して放任主義者だったが、暴力を振るわれる娘を見かねて、編集者八木原に紹介した。しかし、八木原は一読し作品が古いと言って掲載を断る。
生活の荒れる亮吉を見かねて、平四郎は家の離れに杏子夫婦を住まわせた。しかし亮吉は、平四郎に対して劣等感を抱き、杏子と喧嘩が絶えなかった。放浪詩人の菅が平山家を訪れたとき、亮吉と口論となり、亮吉は平四郎の庭を壊してしまう。
平四郎のもとを去った亮吉夫婦は、下宿生活でますます生活がすさんでいった。亮吉は荒れて、杏子が実家に帰りがちになってきた。しかし、一週間もすると、杏子は荒んだ下宿に帰って行った。

杏っ子 1958 東宝東京製作 東宝配給 室生犀星のベストセラー小説を成瀬巳喜男監督が映画化

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