閉鎖的な山村部落を舞台にした横溝正史風ミステリーと思わせて、実は松本清張作品のような捜査二課担当の経済犯罪。見事に逆転の発想で水上勉が著した処女作、社会派推理小説「霧と影」を新東宝からの移籍組である石井輝男が演出する。
主演はやはり新東宝からフリーとなった丹波哲郎、東映ニューフェイス出身梅宮辰夫。ヒロインは宝塚歌劇団からフリーになった鳳八千代、鍵を握る社長役に日活がアクション路線に切り替えたのを機にフリーとなった安井昌二(後に新派入り)。
ここでニュー東映というのは、時代劇路線に陰りを感じていた大川博社長が現代劇を中心に制作させた東映の子会社。それまでは東映テレビプロダクション、東映テレビ映画、第二東映と商号変更され1961年だけニュー東映と名乗った。その年に東映本社が吸収合併して消滅した。

あらすじ

新聞記者の小宮の友人で教師だった笠原が崖から墜落死する。警察は事故と認定するが、高所恐怖症だった笠原がそんなところへ行くわけがないと、小宮は調査を始めた。ところが小宮以外にも興信所が調べているようだ。また笠原が富山の薬売りと一緒にいたという証言も得られた。
しかし宇田部落の閉鎖性に限界を感じて一旦帰京する。興信所の線から、手形パクリ事件で衣料貿易会社が一軒倒産したことが分かる。その事件に篤志家として有名な会社社長宇田甚平が絡んでいた。宇田部落の人間が東京で悪事を働いているようだ。さらにパクリ事件に関与していたと思われる男が工事現場で殺される。小宮はその情婦を捕まえて、パクリ事件の真実を聞き出す。
一方、小宮を引き継いで笠原事件の調査を引き継いだ坂根通信員は、宇田部落に不審人物が潜んでいることを知る。

雑感

流石に水上文学だけあって、プロットにワクワクさせるものがあった。何しろ都会で事件が起きて田舎に行く流れが推理小説の基本だが、ここでは田舎で殺人事件が起きて、それが東京で起きた手形のパクリ事件につながっていくという順番。
ロジカルに犯人を追い詰めていくなんてところは、気持ちよかった。敵の内紛から手がかりを掴み、犯人を追い込みアクションに持ち込むところは少し前の2時間サスペンス風だった。新東宝の残党が従来の2時間サスペンスの枠組を作ったと言っても過言ではない。
当時は新東宝やニュー東映の制作手法を粗製乱造と呼んでバカにしたそうだ。しかし結果的にテレフィーチャー(二時間サスペンスドラマなど) 制作体制を作り上げた意味はあまりにも大きい。そして令和になり、昭和末期に活躍したテレビ監督やプロデューサーが次々と亡くなって、二時間サスペンスも終焉を迎えようとしている。
日本は自分たちが当たり前にやってきたことを後輩に伝えることができない社会になっている。

スタッフ・キャスト

監督 石井輝男
原作 水上勉
脚色 高岩肇 、 石井輝男
企画 亀田耕司 、 片桐譲
撮影 佐藤三郎
音楽 木下忠司

配役
小宮 丹波哲郎
坂根 梅宮辰夫
雪子 鳳八千代
良子 水上竜子
宇田甚平 安井昌二
津野鳥枝 故里やよい
野見山 八名信夫
宇田弥平 富田仲次郎
豪田 柳永二郎
井関 亀石征一郎
キャップ 永井智雄
金田教師 織本順吉
家主 中村是好

霧と影 1961 ニュー東映制作 殺人事件の謎を丹波哲郎と梅宮辰夫が解決する!

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