室町時代から語られてきた皿に関わる怪異譚や江戸時代の怪談「番町皿屋敷」を元にして、岡本綺堂が1916年に書いた戯曲「お菊と播磨」を八尋不二が脚色、田中徳三が監督した悲恋映画。
主演は市川雷蔵、共演は藤由紀子、菅井一郎、柳永二郎。カラーのシネスコ。

あらすじ

家綱の治世、明歴二年(1656)江戸城で前田加賀守による上覧能が催された際、旗本新藤源次郎が大欠伸をもらした。前田加賀守は、源次郎の処分を幕府に申し入れる。旗本は大久保彦左衛門、青山播磨を通して松平伊豆守にとりなしを願い出たが、外様大名に弱腰の幕府は新藤に切腹を命ずる。新藤は加賀藩江戸屋敷前(赤門前)で江戸の人々が見守る中、見事に切腹して果てた。

青山播磨は町人上がりの女中お菊と結婚を誓い合っていた。一方、外様の顔色を伺う幕府に怒った、血気盛んな旗本の次男三男などが中心となり、白柄組を結成した。彼らは粗暴な行為で市中を脅かす。播磨はこれを憂い、白柄組に加盟して頭目となり、彼らの宥め役に回った。
しかし旗本の心の拠り所大久保彦左衛門がついに亡くなった。通夜からの帰り道で白柄組と加賀藩大名行列が出逢ってしまった。白柄組が初めに無礼を働いて、両者は大乱闘を引き起した。前田家は白柄組の処分を幕府に要求した。

松平伊豆守は、前田家に縁が繋がる姫と播磨を見合いさせる。親戚や幕府重役も揃った野点の席で、播磨は姫の立てた茶を飲まずにその場に捨てる。松平伊豆はついに白柄組の責任を問うことを決心する。
播磨の気持ちを知らないお菊は、播磨が姫君との縁談を受け入れると思い込み、腹いせに青山家伝来の家宝の皿を割った。粗相ではなく故意に割ったので、播磨も庇いきれずお菊を手討ちにした。そして自分が白柄組の全責任を負って切腹するから他のものにはお咎めなきようにと幕府に申し入れる。お菊を弔う兄夫婦に会って事情を説明した後、播磨は切腹場へ向かう。

 

雑感

「一枚、二枚、・・・」で有名な怪談「番町皿屋敷」の元になった伝承を岡本綺堂が書き換えたメロドラマ。この戯曲は歌舞伎では市川左団次の当たり狂言だったし、長谷川一夫によって二度映画化されている(最初は戦前で林長二郎時代)。

藤由紀子扮する女中お菊が親戚の心配をよそに身分の程を弁えず、お旗本の殿様に対して本気で結婚できると思っている。それに対して市川雷蔵演ずる青山播磨守主膳も青っ白い男で、お菊と約束したから嫁は取らぬと言い出す。単に親戚の手前で言うだけならまだしも、旗本と外様大名の関係を取り持つ大切な縁談を蹴ってまで駄々をこねてしまう。結局、主膳は家宝の皿を割ったお菊を手討ちにする羽目になり、自らも旗本が起こした喧嘩の責任を取らされて腹を切る。要するに心中と同じ形になった訳だが、メロドラマとしても少し甘すぎる。

藤由紀子は1961年に松竹に入社して木下恵介監督「永遠の人」で高峰秀子の娘役に抜擢され注目を浴びる。大映テレビドラマになった「人間の條件」に主演加藤剛の妻役での出演したため、62年4月に松竹から独立する。12月に大映に移籍して、大映映画に出演する。この映画が公開順で言うと大映での第三作である。5ヶ月後には再び市川雷蔵が道鏡を演じた「妖僧」で共演する。大映のサラリーマン・スリラー映画「黒」のシリーズにも六作品に出演する。1965年田宮二郎と結婚して引退。最も美しい時期に潔い退け時だった。

スタッフ

企画 浅井昭三郎
原作 岡本綺堂 「お菊と播磨」
脚色 八尋不二
監督 田中徳三
撮影 牧浦地志
音楽 伊福部昭

キャスト

青山播磨   市川雷蔵
お菊    藤由紀子
松平伊豆守   柳永二郎
大久保彦左衛門   菅井一郎
菊の兄与四松   佐々十郎
菊の義姉お近   阿井美千子
播磨の叔母真弓   細川ちか子
新藤源次郎   若山富三郎
近藤登之助   成田純一郎
お仙    真城千都世
薄雲太夫   毛利郁子
牧野備後守   加藤嘉
前田加賀守   名和宏
奥平大膳太夫   杉山昌三九
小仏小平  伊達三郎
弥六   守田学

 

 

 
手討 1963 大映京都製作 大映配給

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