チャールズ・マーティンがオリジナル脚本を書き、ガートルード・ローレンスとジェームス・キャグニーが主演し好評を博した戦時中のラジオ・ドラマを元に、マリオン・パーソネットが映画脚本化して、1930年代に伝記映画で一世を風靡したドイツ人監督ウィリアム・ディターレが演出したメロ・ドラマ。
主演はジンジャー・ロジャースジョセフ・コットン
共演は娘役に成長したシャーリー・テンプルトム・タリーなど。白黒映画。

あらすじ

手込めにしようとして迫った雇主を突き倒して誤って殺した(過剰防衛)ため6年の罪に服していたメアリーは、模範囚であったために3年目の冬にクリスマスの仮出獄を許され、パインスヒルの叔母のもとで過ごすことになった。そこへ赴く列車で、ザックという軍曹と隣り合わせる。
ザックは招集され太平洋戦争で負傷し、身体の負傷は癒えたがPTSD(当時は戦争神経症と呼んだ)を患う。陸軍病院で療養中だが、クリスマス休暇のためリハビリを兼ねてパインスヒルのYMCA療養所に出かける途中だった。しかし彼はメアリーの手前、妹の家を訪ねると嘘をついた。

メアリーが叔母を尋ねると、義理の叔父も暖かく迎えてくれた。早速、クリスマスイブの家庭パーティーにザックを迎えて、家族と一緒に食事を摂る。その後二人で映画を見に行き、飲み屋に入る。そこの主人は第一次世界大戦でPTSDを患い、強い顔面神経麻痺が残っていた。それを見た途端に、ザックは飛び出してしまう。

その夜、十六歳の従妹バーバラは、メアリーが刑務所に入った事情を興味本位で尋ねる。メアリーが包み隠さず語ると、バーバラは女性なら誰しも同じ運命に遭うかもしれないことを理解して、深く反省した。そしてバーバラとメアリーは、一層親密になった。
翌日、ザックは昨日のお詫びにメアリーを湖に誘う。そこでザックは自分の病気について全てを告白する。そのおかげでザックはホッとして、明るい表情になった。メアリーは、それが嬉しかった。
その夜、クリスマス・プレゼントの交換をして、また一家と一緒に食卓を囲む。悪気がなくザックが牢獄と言った言葉に、メアリーは反応してしまい食卓を立つ。どうしてもメアリーは、自分が受刑者であることを打明けられなかった。

今日は、YMCAで大晦日のダンス・パーティーが行われる。バーバラは両親におねだりをして、ドレスを買うために百貨店に来ていた。店員に黒のドレスを勧められるが、バーバラは赤いドレスを選ぶ。叔母は、メアリーに黒のドレスを買ってあげた。
ダンス・パーティーでは二人で楽しく踊って楽しんだ。しかし帰途、ザックは逃げ出した犬に襲われる。ザックは無傷だったが、ショックを受けていた。
その夜、ザックがホテルの部屋に入ると、急に発作が起きて脈拍が増加した。これは医者を呼ばなければならないかも知れぬ。そう思った時、急にどこからかメアリーの声が聞こえてきた。すると動悸は静かになった。ザックは、メアリーこそ運命の人だと思った・・・。

 

雑感

思っていたより、重厚なメロドラマだった。男女のうち、いずれかが問題を抱えているドラマは数知れないほどあるが、両方とも持っているのは、W不倫ものしか知らない。

ジンジャー・ロジャースがフレッド・アステアと離れ単独でアカデミー主演女優賞を受賞してから、4年後の作品だ。だからクレジットは、「市民ケーン」に出演した程度のジョセフ・コットンより上になっている。でもジョセフ・コットンは、ブロードウェイ育ちでオーソン・ウェルズの下で散々苦労してきただけあって、演技が非常に自然だった。
ジンジャー・ロジャースは、自然な演技というよりドラマチックな演技を得意にしている。だから主演女優賞を取れたのだ。

三番目にクレジットされていたのが、十六歳になったシャーリー・テンプルだ。感情を表に出す演技は当然得意だが、演技でも当時のエリザベス・テーラーと比べても上だと思った。ただし完成度が高くて、新鮮味を感じなかった。翌年に結婚しすぐ離婚し、その数年後に再婚と同時に映画界を引退し、のちに外交官になった。本人は子役で頂点を極めてしまったので、飽きてしまったのだろう。

それより叔母夫妻のメアリーへの接し方が、気を遣わせず気を遣っている風を見せず、あまりに完璧だった。特に義理の叔父役トム・タリーはパーフェクトだった。あんな叔父さんは、実際には存在しない。

ウィリアム・ディターレはドイツの監督で、ナチスが政権を取るより早く米国にやって来た。
米国では「ゾラの生涯」「ノートルダムの傴僂男」を戦前に撮り、戦後は「ジェニーの肖像」「旅愁」などのメロドラマも撮った。しかし赤狩りが始まってのでドイツに帰った。

 

スタッフ

製作  ドア・シャーリー
監督  ウィリアム・ディターレ
脚本  マリオン・パーソネット
原作  チャールズ・マーティン
撮影  トニー・ゴーディオ
歌  サミー・フェイン、アーヴィング・カール

 

キャスト

メアリー・マーシャル  ジンジャー・ロジャース
ザッカリー・モーガン(軍曹)  ジョゼフ・コットン
バーバラ・マーシャル(従妹)  シャーリー・テンプル
マーシャル夫人(叔母)  スプリング・バイントン
トム・タリー(叔母の夫)  トム・タリー
スワンソン  チル・ウィルス
ブルース中尉(バーバラの恋人)  ジョン・デレック
列車の水兵  ケニー・バウアー

 

ネタばれ

翌日、ザックは朝の列車で病院に戻ることになった。ザックはメアリーに告白するつもりだった。しかし、バーバラがとんでもないことを口走った、「メアリーは早く刑期を終えたらいいのに」。ザックは、メアリーが仮出獄の身だなんて聞いてなかったので、ショックが大きかった。
それからメアリーに対して、はっきりした態度を見せずに去ってしまった。

メアリーは、全てをあきらめ刑務所へ帰った。扉の前にはザックが待っていた。彼は、今日初めてメアリーの苦難を知ったのだ。
ザックは、メアリーを愛している、僕も病気から回復して、この場所で君が出てくるのを待っていると言った。

恋の十日間 I’ll Be Seeing You (1944) セルズニック・インターナショナル製作 ユナイト映画配給 セントラル映画社国内配給(1946)

投稿ナビゲーション