(○★)文芸映画。

永井荷風の原作小説「濹東綺譚」で荷風が劇中で家族としていた小説に「失踪」と「荷風日記」を掛け合せたものを八住利雄が脚本を書き、豊田四郎が監督した。
白黒映画で、撮影は玉井正夫が担当。昭和35年度芸術祭参加作品。
主演は山本富士子。共演は芥川比呂志新珠三千代

 

雑感

小説の中で主人公大江匡(永井荷風自身の投影したキャラ)が書こうとしていた小説を映画にしてみたのは良いアイデアだと思う。
1992年の津川雅彦主演「濹東綺譚」(近代映画協会製作、ATGと東宝の共同配給)は、原作通りの映画でなおかつ1960年作品の脚本家新藤兼人が監督と脚本を務めている。2回見たがあんまり心に残っていない。やはりこの作品は原作と違って女優を主とすべきで1960年の方が出来が良い。

天下の東宝が大映から看板女優山本富士子を借りてくるなんて普通だったらあり得ない話なのだが、山本富士子と大映の間にはその頃から不協和音が流れていたのだろうな。彼女のお雪役は、なかなかの名演だった。
それに比べて、芥川比呂志の貧乏教師役は、お爺さんのようで、色気がなさ過ぎる。

 

 

キャスト

山本富士子   娼婦お雪
芥川比呂志   種田順平
新珠三千代  妻種田光子
織田新太郎   義理の息子種田稔
東野英治郎  種田の同僚山井
乙羽信子   山井の妻京子
織田政雄   叔父音吉
若宮忠三郎(大祐)   伯父巳之松
三戸部スエ  おりん
戸川暁子  老婆
宮口精二  芳造
賀原夏子   芳造の妻お種
松村達雄  宅間家の執事遠藤
淡路恵子  同僚お房
高友子  お町
日高澄子   玉枝
原知佐子  お時
岸田今日子  照子
塩沢くるみ   玉の井の女
長岡輝子   お杉
北城真記子  お飯たきのばァや
中村伸郎 主人三治
名古屋章 会社員風の男
瀬良明 刑事風の男
中村芝鶴 N散人(永井荷風らしき役)

 

スタッフ

製作 佐藤一郎
原作 永井荷風
脚色 八住利雄
監督 豊田四郎
撮影 玉井正夫
音楽 団伊玖磨
美術 伊藤熹朔

 

ストーリー

向島寺島町の私娼外である玉の井
突然の夕立、傘を広げた中学教師種田の懐につぶし島田の女お雪が潜り込む。種田は、彼女の家で休ませてもらう。
種田には、宅間家の書生をしていた頃に知り合った光子という妻君がいる。光子は主人のお手つきで子供が出来てしまったため、月々の手当を渡す代わりに種田と結婚したのだ。年を経るに従い順平は、宅間と光子のかつての関係に今さら嫉妬するが、貧乏教師のため手当を突っ返すわけにも行かない。
ある日お雪を叔父の音吉が訪ねた。行徳に預けてある義母の病気が悪く金を用立てろというのだ。
順平とお雪の関係は深まる。順平の親友である山井先生は心配になってきた・・・。

光子との生活に夢を持てない順平は、学校に辞表を出し、退職金でお雪と一緒に暮らすことを考えた。
山井に知らされた光子は、宅間家からの手当をお雪に与えて私の許に戻って欲しいと哀願する。

最後に順平はお雪を訪れたが、彼女は放置していた歯痛のため敗血症で倒れ、救急車で病院に運ばれる。順平は、もう二度と会えなくなったお雪を見捨てる形になり、後ろ髪を引かれる思いで玉ノ井を去る。

 

濹東綺譚 1960 東宝東京製作 東宝配給 – 大映の山本富士子を主演にして芸術祭に参加した作品

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