カンヌ映画祭に来場した各国の名監督をホテルの一室に閉じ込めて、ヴィム・ヴェンダース監督が用意した質問を渡して答えてもらう。室内にはカメラマンもいないから、収録が終われば監督自身がカメラを切らないといけない。
 

 

 

あらすじ

 
映画の未来について、各監督にカメラの前で語ってもらった。
ジャン=リュック・ゴダール 仏
代表作「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」
ヴェンダースの質問に対して回答するかたちで、映画とテレビとの対比を語る。「テレビは生まれた時から政府(逓信省)の管轄下にあったため、政府の宣伝道具としての役目を持つ。テレビドラマには面白さはあっても内容はない。映画は劇場を埋めるため大作主義になって、小作品が滅亡しかけている」

ポール・モリセイ 米
代表作「フレッシュ」「処女の生血」
「テレビは面白い、キャラクターがあるから。トーク番組がその際たる例。映画はキャラクターに魅力がなく、監督の自己主張が強すぎて面白くない」

マイク・デ・レオン 比
代表作「キサプアマタ」
「フィリピン映画の未来は、祖国の未来そのもの」

モンテ・ヘルマン 米
代表作「断絶」
「最近の映画は面白くない。しかしこれは一過性の問題だろう」

ロマン・グーピル 仏
代表作「30歳の死」で、82年カンヌ映画祭カメラドール受賞
「映画はもう古い、ビデオや衛星放送にこそ未来がある」

スーザン・シーデルマン 米
代表作「マドンナのスーザンを探して」
「美術と同じで、映画も監督がパッションをカタチにすることである」

ノエル・シムソロ 仏
代表作「ジャン・コクトー真実と虚構」
「映画でなく映画人が死に瀕している」

R・W・ファスビンター 西独
代表作「マリア・ブラウンの結婚」 82年6月コカインのオーバードーズで亡くなる。
「テレビと同等のつまらない映画がいくらあっても構わないが、傑作映画が一つあれば良い」

ヴェルナー・ヘルツォーク 西独
代表作「アギーレ神の怒り」「フィッツカラルド」
「アメリカの友人は何もかもがビデオ録画されているようで恐ろしいというが、私は映画は不滅だと考えており、楽観的だ。フィルムに命を吹き込めるのは、映画だけだ」

ロバート・クレイマー 米
代表作「アイス」
「昔、小説を書いているときは、伝統的制約に悩まされた。その点、映画は自由で可能性がある」

アナ・カロリナ 伯
代表作「マルス・デ・ロザス」
「今の映画製作をやめようと思う。デジタル映像にも興味がない。俳優もそれではつまらないと思う」

マルーン・バグダディ (レバノン)
代表作「無防備都市ベイルートからの証言」
「映画人も映画ファンも実生活を大切にすべきだ。映画と現実を混同してはならない」

スティーブン・スピルバーグ 米
代表作「ジョーズ」「ET」
「私はハリウッド一の楽観主義者だ。大作映画は今後も繁栄する。もっとも小作品はドル安になると、コストが掛かって製作できるか不安である。
それより大きな問題は製作側にある。彼らがより大きな配当を求めることにより、万人向けの平凡な映画を作るように求め始める」

ミケランジェロ・アントニオーニ 伊
代表作「情事」「太陽はひとりぼっち」
「今の映画作家に求められているのは、若者や新しいニーズに応えること。新しい技術も受け入れるべきだ。スコセッシも言っていたが、今更フィルムによる撮影や保存は古い。新技術を取り入れれば、より多くの人が映画を楽しめる。未来の人がどんな映画を必要とするかに応じて、柔軟に対応すべき。高品質大画面テレビができれば、映画館は不要になるかもしれない。時代に適応することが大切だ」

ユルマズ・ギュネイ 土
代表作「路」で82年のパルムドール受賞。二年後、亡命先のフランスで胃癌により死去。当時はトルコから脱走して逃亡中だったので、録音で登場した。
「商業映画と芸術映画のつながりが切れて、製作者がお金のためだけに映画を作るようになると、みんなが不幸になる。トルコのように反政府的な映画を作るだけで投獄されることも起きる」

 

雑感

 
テレビやビデオに過剰に反応する人、楽観的にテレビ・ビデオを見てる人、ガン無視する人、テレビを積極的に利用する人など様々な人がいた。未来をずばり予想している人はいなかったが、アントニオーニ監督の考え方が良いところまで当たっていた。とくに映画館がなくなり、フィルムに用がなくなる時代が来ると予言している。実際はまだそこまで行っていないが、今の映画館が特殊なものは注意しなければならない。

 
また制作と監督は昨日今日の問題でないが、今後映画を劣化させるとしたら、製作者が金のことだけ考えて映画を作り、現実からどんどん離れていくことだろう。それでは自主映画に資金は流れないし、もっとも怖いのは作る側が政府の言いなりになることだ。

 

 

スタッフ・キャスト

 
監督: ヴィム・ヴェンダース
製作: クリス・ジーヴァニヒ
撮影: アニエス・ゴダール
音楽: バーナード・ハーマン、ユルゲン・クニーパー

出演

ジャン=リュック・ゴダール
ポール・モリセイ 米
マイク・デ・レオン 比
モンテ・ヘルマン 米
ロマン・グーピル 仏
スーザン・シーデルマン 米
ノエル・シムソロ 仏
R・W・ファスビンター 西独
ヴェルナー・ヘルツォーク 西独
ロバート・クレイマー 米
アナ・カロリナ 伯
マルーン・バグダディ (レバノン)
スティーブン・スピルバーグ 米
ミケランジェロ・アントニオーニ 伊
ヴィム・ヴェンダース 西ドイツ
ユルマズ・ギュメイ 土

 

 

666号室 (Room 666) 1982 TVM フランス+西ドイツ製作

投稿ナビゲーション