志村けんのご冥福をお祈りします。志村は映画出演に熱心ではなかった。そんな彼が、2020年山田洋次監督の「キネマの天地」の主演を引き受けていたが新型コロナ肺炎のため出演辞退の余儀無くなった。さぞ無念なことだったろう。今日は日本全体が喪に服しているようだった。
この作品は浅田次郎の直木賞受賞作を降旗康男が監督して映画化したのだ。主演高倉健との個人的な縁で出演を応諾したそうだ。
共演は妻役に大竹しのぶ、幼くして亡くなったが主人公の心の中で成長した娘役に広末涼子、親友役に小林稔侍。撮影監督は木村大作

あらすじ

運転士を勤めた後、幌舞線幌舞駅で長年駅長を勤めた佐藤乙松は定年の日が近づく。かつては炭鉱街で人口も多かった幌舞も炭鉱の閉鎖とともに寂れ、客の一人も乗っていない列車を出迎えた後、何故か彼は娘の葬式を回想する。妻と国鉄の仲間が見送っている。
美寄駅でかつての同期杉浦が駅長を勤めている。息子秀男一家が札幌から正月の里帰りで帰ってきたが、乙松の定年後の身の振り方を心配していた。なかなか厳しくて行き先がないようだ。
幌舞駅ではだるま食堂の主人加藤ムネと孫の敏行が年始の挨拶に来た。敏行は近くイタリアレストランを出店する。ムネも孫についていくそうで、だるま食堂を乙松に引き受けてもらいたがっている。
次の列車が出発すると、線路で人形を持った女の子が遊んでいる。いつの間にか女の子はいなくなるが、人形だけが置き去りにされていた。
美寄駅では杉浦が今晩乙松に正月の挨拶をするため幌舞線の列車に乗り込む。杉浦は乙松の妻静枝の葬式や静枝の最後の様子を思い出す。あの時は杉浦の妻明子が、乙松が仕事にかまけて妻の危篤にも現れなかったと食ってかかったのだった。
杉浦が土産を持って幌舞駅に乙松を訪ねた。今日は泊まり込みで飲み明かすつもりだ。乙松は静枝が出産したときも杉浦夫妻が付き添ってくれたこと、その娘も幼くして風邪を拗らせて急死したことを思い出す。娘が入院するときも乙松は駅長の仕事を優先した。そして急死した後妻は一人で遺体を抱いて幌舞線で帰ってきた。
杉浦が来た目的は年始だけでなかった。杉浦は定年後近くのリゾート地の役員として横滑りが決まっていた。彼は乙松もそこで一緒に働いて欲しかったのだ。しかし乙松は返事を渋るのだった。
真夜中になって先ほどの娘の姉という小学六年生が現れる。姉妹は近くの寺の住職の孫らしい。人形を取りに来たのだ。彼女を見て乙松はふと思い出した、娘が生まれたときも人形を買ってやったのを。しかしその姉も消えてしまい、人形を忘れて帰る。
杉浦が起きてきて、乙松は今あったことを話すと、こんな夜中に女の子が雪の中外出するわけがないと一生に伏す。歳をとった杉浦を見ていると、乙松はかつての杉浦の大の男を何人も投げ飛ばした豪腕ぶりを懐かしく思い出す。流れてきた炭坑夫吉岡が敏行とだるま食堂に現れたときもそうだった。元からいる炭坑夫たちにスト破りと絡まれたとき、助けたのは杉浦だった。乙松は敏行を庇って見ていただけだった。それ以来母のない敏行の世話を静江に見させていた。吉岡が炭鉱の爆発で死んでから、敏行を養子に迎えようと考えた乙松夫妻だったが、クリスマスの日に静枝が倒れて、結局敏行の面倒はムネが看るようになった。やがて敏行は成長してシェフになるため、ボローニャに旅立つ日、ムネと乙松夫妻で見送ったものだった。
翌日、音松と杉浦は静枝の墓参に行く。駅に帰ると敏行が現れ、出店する店の名前を「ロコモティーバ」としたと伝えに来る。敏行と杉浦は幌舞線の始発列車キハ56に乗って帰宅の途に着く。
そこへJR北海道本社から杉浦の息子秀男が電話を掛けてきた。幌舞線の廃線が決まったと言う。さすがの乙松もショックは大きかった。
吹雪の中、乙松がホームにいると、かつて静枝が妊娠したと言って抱きついてきたときのことを思い出した。駅に戻ると、昨日来た二人の姉妹のさらに姉である女子高生が現れる。鉄オタで鉄道について非常に詳しい。二人は思わず話で盛り上がる。
列車の来る時間になって、乙松は娘を置いて再びホームに出る。そして静枝が悪くなり最後の入院をするときも駅に残って付いて行かなかったことを思い出した。
駅に戻ると、先ほどの娘が冷蔵庫の残り物で鍋を作ってくれて、ビールも注いでくれる。素敵なプレゼントに乙松は思わず涙する。そこへ寺の住職から電話が掛かって来る。それで自分の死んだ娘が徐々に成長した姿を見せに来てくれたことを知った。人形は娘の棺桶に入れてやったものだった。娘雪子が消えた後、乙松は業務日誌に本日も「異常なし」と記載する。

その後、乙松は定年を待たずにすぐ亡くなった。体調はずっと悪かったのだ。駅から杉浦が先導し秀男と敏行が棺桶を担いで列車に乗り込む。運転士に代わって今日は杉浦がキハを運転していく。

雑感

定年前の駅長の最後の勤めを描く。残念ながらピエトロ・ジェルミの「鉄道員」のようなリアリズムではなくファンタジー調だ。それでも高倉健さんが出たファンタジー作品として長く語り継がれるだろう。

最初のシーンで「テネシーワルツ」の口笛を吹いている。テネシーワルツを歌うシーンはこの後も大竹しのぶが口ずさむシーンが出てくる。テネシーワルツはカバーソングだが高倉健の元妻だった江利チエミの代表曲でもある。健さんが監督に頼んでこの曲を使ってもらったそうだ。

志村けんの演技は少し若いが、コメディアン特有の感の良さを活かせば、すぐにでも一線級になれるだけのものを持っていた。最初はシリアスな芝居を見せたかと思うとドリフ伝統の酔っ払い芸を高倉健、小林稔侍の前で披露している。

舞台の幌舞線幌舞駅のロケは、根室本線の幾寅駅で行われた。今でも幌舞駅やダルマ食堂のセットが残されていて、健さんの衣装を飾っている。美寄駅という大きな駅も出てくるが架空の駅であり、ロケ地は滝川駅だ。炭鉱は夕張炭鉱をイメージしている。

スタッフ

監督 降旗康男
製作 高岩淡
プロデューサー 石川通生 、 進藤淳一 、 角田朝雄 、 木村純一
原作 浅田次郎
脚色 岩間芳樹 、 降旗康男
企画 坂上順
撮影 木村大作
音楽 国吉良一
主題歌 坂本美雨

キャスト

駅長佐藤乙松 高倉健
国鉄時代の同期杉浦仙次 小林稔侍
妻佐藤静枝 大竹しのぶ
娘佐藤雪子(高校生に成長した姿) 広末涼子
食堂の主人加藤ムネ 奈良岡朋子
杉浦の妻明子 田中好子
新シェフ吉岡敏行 安藤政信
敏行の父で炭坑夫吉岡肇 志村けん
杉浦の息子秀男 吉岡秀隆
運転士川口 平田満
運転士飯田 中本賢
店員 中原理恵
新聞集配人 坂東英二
牛乳配達 きたろう
坑夫 本田博太郎
坑夫 木下ほうか
坑夫 田中要次
町長 石橋蓮司
新村 江藤潤
杉浦由美 大沢さやか
アニー  アリーナ・フクシマ

鉄道員(ぽっぽや) 1999 東映東京撮影所製作 東映配給

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