赤ん坊の本音を交えて子育てで右往左往する両親の姿を描く育児映画(家庭映画)。同年キネマ旬報邦画第一位に輝いた。

松田道雄の原作育児書「私は二歳」(岩波新書)を基にして和田夏十が主婦の立場で大胆に脚色し市川崑監督が映画化している。
主演は船越英二、山本富士子、鈴木博雄(子役)。
カラースタンダード映画。

あらすじ

太郎は一人っ子で父親五郎は都内の団地に住むサラリーマン、母親千代は専業主婦だ。両親は赤ん坊の頃、太郎を眼の中へ入れても痛くないほど可愛がっていたが、太郎にとってはウザかったようだ。両親に拘束されず、好き勝手に生きたいのだが、まだ体の自由が効かずそうも行かなかった。

一歳になってもすぐ風邪を引くかと思うと、家中歩き回るものだから、最後には柵に閉じ込められる。犬と戯れていると噛まれて、狂犬病の予防注射を打たれる。動物園に行っても、勝手に一人で歩き回っては大人に捕まって迷子収容所に放り込まれる。自家中毒(子供の緊張から来る嘔吐症)になってもすぐ良くなるが、昼夜逆転してしまい一晩中夜泣きしてしまう。と思うと友達のアツシ君が麻疹になってしまい、痛い麻疹の予防注射を射たれる。
兄嫁が二番目の子を生んで数日が経ち、自宅に帰ってきた。千代が訪ねるが、兄嫁は育児に困っているのに全く手伝ってくれない姑にイライラしていた。
千代の母代わりだった長姉が数年ぶりに東京に出てきた。多産だった姉は千代に子供をたくさん産めと言う。
そんなとき、五郎の兄が大阪支社への転勤が決まった。五郎は東京に居残る母の面倒を見たいと言う。結婚するときは同居を拒否した千代だったが、もう一人子供が欲しくなったのでその申し出を受ける。しかし五郎は母に太郎の世話を任せて夫婦二人きりで遊びたかったため、一瞬険悪なムードになりかける。しかし三日月を見て五郎は「バナナのお月様」と言い出し、二人の顔に笑顔が戻る。

母は太郎に甘くて、なんでも太郎の自由にさせるのが千代の気に入らない。季節の変わり目にする咳と嘔吐を見て母は医者に連れて行けと言って聞かない。それで千代は診療所に連れて行くが、医者もあまり神経質にならない方が良いと言う。ところが処方された薬を太郎が受け付けず、母は太郎を診療所に連れて行き注射を射ってくれと頼むが拒否される。すると医師と喧嘩別れして、病院に連れて行き注射を射ってもらう。万事がこうで、千代は五郎に母のことを愚痴るが、五郎には解決策がない。そこで老人の暇潰しに千代はテレビを買ったらどうかと言い出す。最近太郎も隣家のテレビで子供番組に夢中だと言う。
千代の思惑通り、太郎は子供番組に夢中だし、母は老人向け番組を見て生きがいを持つことが大切だと考えるようになり、老人会で臈纈染めをしようと話し合いを始める。中でも五郎は相撲番組ばかり見て、太郎のことを放置してしまい、太郎がビニール袋を被ったのに気付かない始末。千代の機転で太郎は一命を取り留めるが、その後母と千代から五郎はこってりと絞られた。
その頃から母と千代の関係は上手く行き始めるが、それは母の突然死により終わりを迎える。
太郎の二歳の誕生日は満月だった。丸い満月を見て太郎はおばあちゃんがあそこから見守っているように感じる。太郎の前にバースディー・ケーキが置かれた。まだ吹き消せない太郎の代わりに二本の蝋燭を五郎と千代で消した。太郎は仲の良くなった両親の姿を見ては満足そうに微笑んだ。

雑感

珍しい育児啓発映画である。決して中学生の性教育でなく、中流階級の若い夫婦向けに育児の心構えを説いている。他の国にこういうものはあるのだろうか?この映画はとくに一歳の子役を連れてきてリアルタイムで成長するのに、合わせて各シーンを時系列で撮影する。俳優の待ち時間は多かったと思う。
こういう映画をどんどん作れば良いのにと思うが、今は夫婦の形が様々になってきて、一般論で説明することがなかなか難しくなってきた。

小川家の太郎少年が一歳でよちよち歩き出す時代から簡単な文章で喋り出す二歳の誕生日までの姿を描く。太郎の心の声は中村メイコが演じているが、話芸に感しては多彩な人で何をやらせても上手い。

最も美しい日本女優だと思っている山本富士子は現代ドラマの主婦を演じても美しい。水着審査で勝ち抜いてきた元ミス日本だったが、体型は昭和日本女性であり、所帯じみたところも似合う。ただし子供の母親としては肌が美人すぎる。

一方、夫役の船越英二は1960年に妻長谷川裕美子との間に長男(船越英一郎)をもうけている。新米パパがちょうど息子と同じ年頃の幼児と共演したことになる。自宅で演技の練習ができたわけだ。素に近いところで演じていてなかなか好感が持てる。

市川崑監督はモダンでスタイリッシュのイメージが強いが、製作にも名を連ねて積極的にこの作品に参加している。市川崑は脊椎カリエスを病んだことがあり兵役免除になっている。戦中に和田夏十との間に子を成していて、子育て経験があったらしい。
劇中でバナナの形をした三日月がゴンドラになるアニメのシーンがある。戦前戦中までアニメーターでありアニメ監督だった市川崑は、さすがに作画監督やキャラデザは無理でも演出は付けられたと思う。

原作者松田道雄は京都帝国大学医学部卒業で革命歴史家であり、小児結核を専門とした元小児科医でもある。したがって当時最先端の小児医学に基づいている。文章は説明文の形式だが、それを和田夏十が上手く翻案している。

スタッフ

監督 市川崑
製作 永田秀雅 、 市川崑
原作 松田道雄
脚色 和田夏十
企画 藤井浩明
撮影 小林節雄
音楽 芥川也寸志

キャスト

ぼく(小川太郎) 鈴木博雄 (声:中村メイコ)
父五郎 船越英二
母千代 山本富士子
祖母いの 浦辺粂子
父方のおば節子 渡辺美佐子
母方の伯母 京塚昌子
アツシの母 岸田今日子
隣りの奥さん 倉田マユミ
若い医者 大辻伺郎
中年医者 浜村純
病院の医者 夏木章
クリーニング屋 潮万太郎

私は二歳 大映東京製作 大映配給 1962 市川崑監督作品

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