斎藤耕一監督は、独立してから松竹でヴィレッジ・シンガーズのGS映画を二本撮った後、後輩のパープル・シャドウズのGS映画を撮った。主演は青春アイドル尾崎奈々と「仮面ライダー」に変身する以前の藤岡弘である。他にも珍しい人たちが出演している。
ヴィレッジシンガーズの映画は学園ものとラヴロマンスだったが、パープルを起用した第三弾はフランス映画を意識した悲恋ものになっている。
パープル・シャドウズは藤岡弘の大学の友人役で出演して「小さなスナック」を二回歌って、次のシングル曲「ラヴサイン」を一回歌っている。他にジュディ・オングヴィレッジ・シンガーズが友情出演で一曲ずつ歌っていた。

あらすじ

大学生の昭(藤岡弘)には、青山の小さなスナックにたむろする仲間たち(レーサー、画家、新劇俳優、タレント、ダンサー) がいる。彼らと夏の旅行に出かけた帰りに、そのスナ(尾崎奈々)と出会う。
何度か二人は出会ううちに、昭は美樹に対して恋心を抱く。しかし美樹は自身のことを全く語ろうとしない。ある日、美樹の後をつけた昭は、彼女が美容室に入っていくのを見て、思わず自分も入ってしまう。その店で美樹の姉や母親が働いていたが、何と最も若い美樹が経営者なのだと言う。
しばらく美樹はスナックに顔を出さなかった。美容院に会いに行っても、美樹は会わないと門前払いを食らう。傷心の昭は、勉強が手に付かず、アルバイトに精を出す。そんなある日、突然美樹がスナックに現れる。仲間たちは昭と美樹の結婚式を開いてくれる。そして美樹は初めて唇を許してくれる。
しかし美樹は再び消えてしまう。そして昭が美容室へ行くと、母親が現れ美樹はもう結婚しているから諦めろと言われる。昭は思わぬ言葉に愕然とする。
その後、美樹が交通事故を起こしたと言う知らせを聞くが、昭は敢えて見舞いに行かなかった。
仲間が結婚して田舎に帰るのでスナックでパーティーを開いた。少しセンチメンタルになった翌朝、ようやく昭は美樹を見舞う気になる。病院に行くと担当看護婦(葵京子)は美樹は自殺を図ったのだと言う。驚いた昭は美樹に自殺をしようとしたことを叱る。そこへ美樹の夫がやって来たので、昭は病院を後にする。その夜スナックから病院に電話を掛けて美樹をスナックに呼び出す。しかし美樹は来なかった。朝になって昭は自宅へ戻る。その頃美樹は手首を切って自殺していた。

雑感

前作「虹の中のレモン」で実質的なプロデューサー堀威夫社長に好き放題に編集されたので、この作品では斎藤耕一監督が好きなように色々演出しながら、カットされても最低限の筋書きは残るようにした。
前作の酷さを知らない人に斎藤耕一は下手な監督だと思われているが、与えられた予算条件の中でフランス映画的実験まで取り入れて、最後にヒロインが死を選ぶという結末につなげたのだから、立派な作品である。途中でジュディ・オングに監督がアドリブで延々と喋らせたところは、ノーカットで聞きたかった。
こう言う場を習作として「約束」「旅の重さ」「津軽じょんがら節」と次々と話題作を撮ったのだ。
藤岡弘は今も昔も変わらず藤岡弘である。筋肉以外、演技は何も変わっていない。だから名前に「、」なんて付けない方が良い。
尾崎奈々はお肌の吹き出物が酷い。あまりに忙しくて、つい甘いものを食い過ぎたか。でも好きなショートカットだったので許す。
それよりバラエティに富んだ脇役勢である。スナックの仲間の中で最も格上は、山田真二だ。学生服姿だった美青年もお腹の出っ張りを気にするお年になっていた。
ケン・サンダースは売れない画家として出演しながら朗読も聞かせていたが、その頃から現在のように声優になるつもりがあったのか。また劇中で結婚披露宴が行われ、花嫁役の徳永茅里と見事なデュエットを聞かせた。徳永も佐々木勉作詞作曲「あなたのすべてを」でブレイクしている。
異母妹役の木下節子も本業は歌手で数曲シングルを発売している。
さらに兄貴分のスナック・マスター役に石井伊吉こと毒蝮三太夫を起用している。結局はこの人が一番の大物になったと言える。
もう一つ、葵京子は山田洋次監督の監督デビュー作「二階の他人」で小坂一也と主演していたが、変わらない美しさのまま看護婦役で出演している。
流石にお笑いは一人も出てこない。

スタッフ

監督 斎藤耕一
製作 升本喜年 、 瀬島光雄
脚本 桜井義久
撮影 竹村博
企画 堀威夫
音楽 今井久

 

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配役

昭  藤岡弘
美樹  尾崎奈々
ジュディ ジュディ・オング(ゲスト出演)
江島 山田真二
飯田 ケン・サンダース
由美  斎藤チヤ子
レイ子  徳永芽里
君子  木下節子(異母妹)
沢みどり 園江梨子
三浦完  高橋昌也(美樹のパトロン)
美樹の母 荒木道子
マスター 石井伊吉(毒蝮三太夫)
柴田猛  清水将夫(父)
看護婦 葵京子
大学の友人 パープル・シャドウズ
ビレッジ・シンガーズ(友情出演)

 

 

小さなスナック 1968 松竹 – 斎藤耕一監督のGS映画第三弾

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