アカデミー作品賞を受賞した映画「マーティ」(1955)の原作者パディ・チャイエフスキーが戯曲を書き、ジョシュア・ローガンが演出をしてヒットしたブロードウェイの舞台劇を、映画「マーティ」のデルバート・マンが再び監督した作品。脚本は原作者パディ・チャイエフスキが自ら書いている。

妻を失った初老(56歳)の男(フレドリック・マーチ)が、離婚歴のあるお色気ムンムンの24歳(キム・ノヴァク)と愛し合いながら素直になれない複雑な心理を描くメロドラマ。

 

あらすじ

 

56歳のジェリー(フレドリック・マーチ)はデザイナー出身で、営業担当のロックマン(アルバート・デッカー)とニューヨークで衣料品メーカーを共同経営している。ジェリーは妻を数年前に亡くしたが、会社の専属モデルであるベティ(キム・ノヴァク)の相談に乗ったことから急速に親密になる。ついに二人は婚約を決意するが、ベティはきちんとした教育を受けておらず24歳とまだ若いため、両方の家族に大反対される。しかし反対されればされるほど、ジェリーの恋心は燃え上がるのだ。

やがて両方の家族との顔合わせも何とか無事に終り、会社の従業員たちも祝福してくれた。その頃からジェリーは血圧が上がったのか、ベティに対して嫉妬深くなり、喧嘩が絶えなくなる。そして雪の降る夜、ジェリーを幸せにする自信がないからと、ベティは婚約解消を申し出てしまう。その場はジェリーがなだめて済ませるが、その夜前夫ジョージ(リー・フィリップス)がベティを訪ねる。最初は拒絶していたベティだったが、熟れた肉体はついにジョージを受け入れてしまう。

雪が雨に変わった翌日、ベティはジェリーを呼び出す。何事かとジェリーは訝しむが、ベティは正直に前夫との関係を白状し、その上で感激した様子で「でも私、彼には感じなかったのよ」と告げた。ジェリーは突然の告白に狼狽し、ベティを放置したまま、雨の町を傘も差さずに彷徨い歩く。自宅に戻ると、ロックマンの妻から電話が掛かってきた。これからホテルで自殺すると夫が電話してきたと言って、彼女は錯乱していた。

結局、ロックマンは一命を取り留める。愛なき夫婦生活を送っていたロックマンはかねてから孤独感に駆られていたが、二年前から不能になり一人悩んでいたのを聞かされていたジェリーは、年の差ゆえに幾多の困難がこれからあるが、それでも自分にはやはりベティが必要なのだと気付く。そして深夜にベティを訪ねて、愛していることを告げ、熱く抱擁するのだった。

 

 

 

雑感

 

二人は今後も色々あるだろう。夫婦喧嘩もするだろう。しかしロックマンの自殺未遂事件を経て、喧嘩をしたって孤独の方が恐ろしいと悟り、ジェリーはベティと生きていく決意を固める。

この作品を見て「初老」という言葉の意味を考えた。パートナーと比べてセックス能力が劣ると意識したときが初老なのだろう。

56歳の主人公ジェリーは、ここでいう「初老」の男である。ベティと出会う前、40代の女性と付き合ってプロポーズまでしたが断られた。40代の女性なら性欲に応えられる自信が、ジェリーにはあったのだ。

しかし24歳のベティを愛すれば愛するほど、自らの衰えから嫉妬して喧嘩してしまう。

やがて二人は大きな試練を互いに受けて、真に結ばれる。

56歳で20代の女性と結婚することは今も珍しくない。でも離婚せずに幸せに添い遂げるかは、やってみなければ分からない。下手をすれば保険金を掛けさせられて、最後は殺されるかも知れない。

 

「マーティ」(1955)「ホスピタル」(1971)「ネットワーク」(1976)とアカデミー脚本賞を三度取ったパディ・チャイエフスキーはニューヨーク出身のロシア系ユダヤ人。実にリアルな年の差婚を描いている。舞台や映画では年の差がネックになり、老人側が身を引きサッドエンドで終わることが多い。しかしチャイエフスキは敢えて二人のその後を語らず、二人の決意の固さを見せ付けて映画の幕を閉じる。

 

戦前の大スター フレデリック・マーチは晩年にさしかかった頃の作品。かつて色男として一世を風靡した彼が60歳を過ぎてからの作品である。約30年前、「ジキル博士とハイド氏」を演じてアカデミー主演男優賞を初めて受賞した彼のワイルドさを知っていると、やはり年を取ったと実感する。

 

キム・ノヴァクはビリー・ワイルダー監督の「媚薬」(Bell, Book and Candle)の次の作品。女優としてキャリア・ピークが過ぎた辺りだ。いつも通り、煮え切らなくてナイーブなところがあるが、知らず知らずのうちに男を周りに引き寄せてしまう女性役だ。なお、クレジットではフレドリック・マーチより先に名前が出ているが、どう見ても主役はマーチである。

 

原題は「Middle of the night」で、邦題は「真夜中」となっている。

たしかに “in the middle of the night” は午前0時から午前3時ぐらいの時間の範囲を意味するが、原題の場合は前置詞inを伴っていない。従ってmidnight (=真夜中)と同じ意味に取るべきである。

 

 

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スタッフ・キャスト

 

監督 デルバート・マン (同じ脚本家の書いた映画[マーティ」で、アカデミー監督賞とカンヌ映画祭パルムドールを獲得)
製作 ジョージ・ジャスティン
戯曲・脚本 パディ・チャイエフスキー
撮影 ジョゼフ・ブラン
音楽 ジョージ・バスマン

配役

ベティ  キム・ノヴァク
ジェリー・キングスリー  フレドリック・マーチ (かつてアカデミー主演男優賞を二回受賞している)
ベティの母親  グレンダ・ファレル
妹  ジャン・ノリス
前夫ジョージ  リー・フィリップス
ベティの友人マリリン  リー・グラント (「夜の大捜査線」)
ジェリーの共同経営者ロックマン  アルバート・デッカー (「エデンの東」で主人公に儲け話を教える)

 

 

 

 

真夜中(Middle of The Night) 1959 コロンビア配給 – フレデリック・マーチとキム・ノヴァクの組合せでお送りするメロドラマ –

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