ビルマ・東インド国境における「インパール作戦」で部隊が全滅した悲劇を描いている。戦後初の反戦映画である。

自ら学徒出陣の経験を持つ岡田茂(東大経済学部卒業、後の社長、現会長岡田裕介の父)が入社二年目で東京大学協同組合出版部(東大生協)の出版した原作に触れてプロデュースした。だから原作ではなく、「きけ、わだつみの声」からインスパイヤされたというのが相応しい。

同じ東大出身の氏家斉一郎(のちの日本テレビ社長)、渡邊恒夫(のちの読売新聞社主)は天皇制批判を入れていないと批判し、煩型の東映時代劇俳優(当時は時代劇禁止)は誰も見ないと上映を反対するが、封を切ってみると大ヒットとなる。息子をインパール作戦で亡くした五島慶太(東急グループ総帥)に重用され、岡田は出世街道を歩き始める。

スター・システムではなく、他社の新人や新劇俳優を多く起用して制作費を下げている。なかでも伊豆肇、沼田曜一、信欣三、河野秋武、原保美の5人が共同主演の形を取っている。

 

 

Synopsis:

インパール作戦は、英国軍が最小限の戦力で日本軍を内陸部に深く誘い込み、雨期に合わせて補給線を断って多くの兵士を餓死させた作戦である。軍用自動車の台数が日英で大きな差があったため、英国に有利に働いた。

鶴田と大木は所属する隊が全滅して、柴山隊に合流する。鶴田は海千山千の上等兵でいち早く隊長の覚えを良くするが、大木は東京大学助教授だったため将校である岸野中尉に苛められる。大木を救ったのが、学徒動員で参戦している牧見習士官、実は牧は大木の教え子だった。牧は世話係として河西一等兵を大木に紹介する。戦争に懐疑的な青地軍曹もインテリ組に温かく接した。

戦況は悪化して撤退命令が出る。その際、重症患者は手榴弾を一個渡して野戦病院ごと置き去りにすることになる。撤退直前になり、鶴田が先導して隊長の軍馬を兵士だけで食べることにする。青地はそれを知り注意するが、今後の行程の困難を考えて許可する。

翌日、馬がいなくなったことがばれて、青地が犯行を自供する。岸野の青地に対する執拗な苛めに河西はひと言具申するが、岸野は我慢ができなくなり、河西を人に見られないところまで連れて行って後から射殺する。部隊が撤退後、置き去りになった傷病兵は次々と手榴弾で自決してゆく。

自動車がないため、徒歩による撤退作戦は敵の攻撃で困難を極め、隊長と岸野らだけが逃亡し、置き去りにされた牧や青地、大木らは敵の銃弾に倒れる。

 

 

Impression:

表現が後世になるほど過激になるから、戦争映画としては取り立てて言うほどのシーンはなかった。ただ、関川監督の回想シーンの挿入がうまかった。

しかし怒りが湧いてきた。学歴の高い人間を痛めつける軍部のやり方は許せない。日本軍側に髙学歴者と無学歴者の間でトラブルがあり、一枚岩で無かったことが敗戦の遠因であったことを示唆している。

しかし低学歴者から見たら、高学歴者によってリストラされてきたのだから、戦争中ぐらい腕力の強い方が勝って当たり前なのだろう。

進駐軍の時代劇禁止令で青色吐息だった東横映画(現東映)は、この映画のおかげで息を吹き返した。

これにしたって、ヤクザ映画にしたって、制作した作品は左翼よりだったが、岡田茂本人は喧嘩が強いだけのノンポリ族だそうだ。

 

 

Staff/Cast:

監督 関川秀雄
脚本 舟橋和郎
製作 マキノ満男(光男)
音楽 伊福部昭
撮影 大塚新吉

 

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出演
伊豆肇 青地軍曹 (東宝)
沼田曜一 牧見習士官
信欣三 大木二等兵
河野秋武 河西一等兵
原保美 岸野中尉 (悪役)
花沢徳衛 鶴田上等兵 (悪役)
佐野浅夫 山田軍曹 (発狂した傷病兵)
上代勇吉 柴山少佐 (隊長)
林孝一 野々村軍医
月京介 根岸兵長
高原駿雄 衛生兵
稲垣昭三 箕田一等兵 (名脇役)
杉村春子 箕田の母
英百合子 河西の母

日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声 1950 東横映画(東京映画配給=現・東映)

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