等位は珍しかった東宝映画の忠臣蔵。

各社が忠臣蔵映画を競って作る中、現代劇中心の東宝はなかなか作れなかった。ところがシェークスピア劇など歌舞伎の枠を離れた活動をしていた八代目松本幸四郎が菊田一夫に招かれ、松竹から東宝に移籍したため、同社にとって格好の内蔵助役者が現れた。

実は幸四郎は1954年に一度松竹映画で「忠臣蔵・花の巻雪の巻」に内蔵助として主演している。同じ題名でも脚本をがらりと変えて、幸四郎が再挑戦したものだ。

とは言え、忠臣蔵はオールスター映画である以上、東宝では現代劇役者を使わないわけにはいかず、他社と比べると多少違和感はある。

 

あらすじ

 

花の巻

勅使供応役を仰せつかった浅野内匠頭は社交性の無い坊っちゃんゆえに上司である吉良上野介の嫌がらせにブチ切れて、江戸城松の廊下において刃傷を働く。将軍綱吉の沙汰は即日切腹、お家取り潰し。連絡を受けた播州赤穂城は大騒ぎとなる。大野九郎兵衛ら腹心とするものが逃散する中、国家老大石内蔵助はわずかに残った腹心のものに城明け渡し、お家再興を第一の目的として、それがならぬ時は片手落ちの御成敗を正すため吉良上野介に対する仇討ちを決定する。

 

雪の巻

内蔵助は吉良家及びその子が養子に行った上杉家の目をくらませるため、山科に隠居した振りをして毎夜、廓で遊ぶ。一方、江戸では上野介の屋敷替えが行われた。何とかして新しい屋敷の図面が得たい。そこで岡野金右衛門(夏木陽介)が町人に化けて、屋敷を作った大工(フランキー堺)の娘(星由里子)に近付き、色仕掛けで手に入れることが出来る。さらに槍の使い手である俵星玄蕃(三船敏郎)が吉良家に抱えられそうだと噂を耳にした堀部安兵衛(三橋達也)は辻斬りに化けて夜襲を掛ける。しかし玄蕃は安兵衛の正体をお見通しで吉良家には仕官せぬから安心せえと豪放磊落に笑い飛ばす。

いよいよ討ち入り日時が決まる。当日内蔵助も上京して、そば屋の二階に集まるが、一部の同士は親戚により脱盟させられ、寺坂は病死、高田は愛人との情死を選ぶ。残った46士は深夜吉良屋敷へ向かった・・・

 

雑感

 

私は,妙に色っぽい長谷川一夫の大石内蔵助よりも八代目松本幸四郎の内蔵助の方が好きだ。座る姿から絵になっている。この味わいは九代目、十代目幸四郎には一生掛けても出せない味わいだ。

ただ、八代目松本幸四郎のお芝居としてこの映画のどこが良かったと問われると困ってしまう。敢えて言えば赤穂の評定で藩士に有無を言わせぬ存在感を示したところか。

一方、八代目市川中車の吉良上野介が出る場面はどれも引き締まって見えた。正直言って吉良勢は役者の力不足を感じたが、上野介がこれでもかと言うほどヒールに徹した役を演じて、現代劇役者であろうと有無を言わせず、時代劇の世界に引きずり込んでしまう。そういう意味でこの映画は市川中車の忠臣蔵とも言える。滝沢修の上野介より良いと思う。何故NHK大河ドラマは長谷川一夫滝沢修を起用したのか不思議である。九代目市川中車(香川照之)も精進して、ここまで出世してもらいたい。

しかし残念な点もある。最初から加山雄三の内匠頭と司葉子の瑤泉院が時代劇に全くマッチしていない。

浪々の身になってからの江戸での藩士の生活ぶりもどこか現代的でのんびりしている。どうも突っ込み不足を感じた。

脚本家八住利雄のオリジナリティは様々な点で発揮された。

お軽三平のエピソードには団令子市川万之助(二代目中村吉右衛門)を起用している。ここでは仇として狙われる三平は大義のために敢えて自決を選ぶ。

高田郡兵衛(宝田明)のエピソードは、愛人お文(池内淳子)との心中に描き直されている。

あと、寺坂吉右衛門(加東大介)は討ち入り当日病死している。垣見五郎兵衛の段は、本陣の主人(森繁久彌)が正体を隠し、家宝である勅使中納言の直筆を手渡すことに変わっている。

いずれも盛り上がりに欠けて、長い割には役者の顔ぶれ以外には見所の少ない平板な作品だった。

 

スタッフ

 

監督 稲垣浩
製作 藤本真澄 、 田中友幸 、 稲垣浩
脚本 八住利雄
撮影 山田一夫
音楽 伊福部昭
美術 植田寛
編集 岩下廣一

 

 

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配役

 

大石内蔵助 八代目松本幸四郎
大石妻・りく 原節子 (引退作)
大石松之丞 市川団子(猿之助)
浮雲太夫 新珠三千代
幇間 三木のり平
寺坂吉右衛門 加東大介
吉右衛門妹お軽 団令子

浅野内匠頭 加山雄三
内匠頭妻・瑶泉院 司葉子
戸田の局 草笛光子
浅野大学 江原達怡
吉良の間者うめ 白川由美
瑶泉院侍女みゆき 藤山陽子

片岡源吾右衛門 市川段四郎
堀部安兵衛 三橋達也
堀部弥兵衛 小杉義男
岡野金右衛門 夏木陽介
岡島八十右衛門 平田昭彦
不破数右衛門 佐藤允
矢頭右衛門七 市川染五郎
吉田忠左衛門 河津清三郎
大高源吾 小泉博
武林唯七 藤木悠
潮田又之丞 土屋嘉男
間十次郎 高島忠夫
早水藤左衛門 三島耕

萱野三平 中村万之助(二代目中村吉右衛門)
高田郡兵衛 宝田明
大野九郎兵衛 中村芝鶴

吉良上野介 市川中車
上野介妻・富子 沢村貞子
吉良家用人  益田喜頓
清水一角 戸上城太郎(東映)
小林平八郎 中丸忠雄
上杉綱憲 太刀川寛
千坂兵部 志村喬

将軍徳川綱吉 中村又五郎
柳沢出羽守 山茶花究
院使清閑寺中納言 上原謙

梶川与惣兵衛 藤田進
脇坂淡路守 小林桂樹
多門伝八郎 有島一郎
伊達左京亮 久保明

俵星玄蕃 三船敏郎
畳屋音吉 柳家金語楼
居酒屋の女お玉 中島そのみ
大工平五郎 フランキー堺
平五郎妹お艶 星由里子

本陣主人・半兵衛 森繁久彌
半兵衛女房お時 淡路恵子

潮田の妹佐保 水野久美
水茶屋の女お文 池内淳子

土屋主税 池部良
植木屋徳三 八波むと志

 

 

 

忠臣蔵 花の巻・雪の巻 1962 東宝 – 八代目松本幸四郎=大石内蔵助の第二作

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