水の都ヴェネチアを舞台とする、フランソワーズ・アルヌール出演のサスペンス映画。当時人気だったジャズグループ、モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)が音楽を担当している。サントラは英画家ターナーが描いたヴェニスの絵をジャケットにしたMJQの「たそがれのヴェニス」というアルバムである。主題歌は Golden Striker というジャズらしからぬ曲。第三のジャズ創始者として知られるジョン・ルイスが作曲してミルト・ジャクソンがバイブラフォンを演奏している。

 

あらすじ

 

ヴェネチアの屋敷でフォンベルゲン男爵はソフィーという娘を養女に迎えて育ててきた。スフォルチという子分とソフィーは付き合っていたが、やがてスフォルチは他の女に乗り換えてしまう。
そんなときソフィーはミシェルと出会う。意気投合して屋敷に連れ帰り一夜を共にする。
フォンベルゲン男爵はそれについて何も言わなかったが、彼女が屋敷から出て行くと言うと顔色が変わる。実は男爵は元ナチスであり第二次大戦中に偽ポンド札作りで財を成した。その資金を全てソフィーの名義預金として管理していたのだ。
男爵はスフォルチに全てを明かし、ソフィーからミシェルを離すように言うが、スフォルチは男爵を殺し、ソフィーと結婚して全財産を手に入れようとする。
ミッシェルはソフィーと暮らしていたが、ある日ホテルに帰るとソフィーの姿が無かった。さらに男爵殺しの容疑をかけられる。
潜入捜査をしていた警察のブゼッティは、スフォルチが犯人だと分かっていたが証拠が無かった。そこでミシェルを解放しソフィーに対する気持ちを焚きつけてスフォルチの容疑を固めようとする。
しかしミシェルは独断専行してサン・マルコ広場の時計塔の上でスフォルチと決闘を始めてしまう。

雑感

 

ヴァディム監督のオリジナル脚本のようである。何だかロジェ・ヴァディム監督らしい気色悪い作品だ(耽美的とも言う)。ベニスを舞台にしている点は、後のニコラス・ローグ作品「赤い影」に通じ、両方とも運河での葬送シーンが見られる。またデ・パルマ監督の「愛のメモリー」のイタリアでの舞台はフィレンツェだが、雰囲気は似ている。どっちにしろミステリーの才能はあまり感じられない。
ヴァディムは愛する人をいつもソフィーと呼んでいたそうで、バルドーもドヌーブもジェーン・フォンダも交際中はソフィーと呼んでいたそうだ。この映画の主役もソフィーである。ただし、バルドーと別れた原因がアルヌール嬢だとは、聞いたことがない。
フランソワーズ・アルヌールは可哀想にこの変態監督に脱がされて、痩せぎすなバックヌードを披露している。
この映画はモダン・ジャズ(ビッグバンドジャズではない)を世界で初めて映画音楽に採用している。当時はアメリカと同様にフランスでもモダンジャズが盛り上がっていたので、映画音楽に採用するのも当然の成り行きだった。ルイ・マルの「死刑台のエレベーター」(音楽マイルス・デイビス)が先に上映されたが、制作は「大運河」の方が先だ。1959年には再びロジェ・ヴァディム監督は、ジャズ映画「危険な関係」(音楽セロニアス・モンク)を撮っている。他に有名なところでは、1966年に英国映画「アルフィー」(音楽ソニー・ロリンズ)、1970年に日本映画「白昼の襲撃」(音楽日野皓正)がある。1967年に「荒野のダッチワイフ」(音楽山下洋輔)というのもあるらしい。
本家アメリカでは「黄金の腕」(音楽エルマー・バーンシュタイン)があるけれど、エルマーはモダンジャズ・ミュージシャン出身でないので、別格扱い。1957年にはエルマー・バーンシュタインがジャズ・ミュージシャンのチコ・ハミルトン・カルテットをフィーチャーした「成功の甘き香り」がある。さらに1958年ジョニー・マンデルがジェリー・マリガンをフィーチャーした名作映画「私は死にたくない」が制作される。

 

スタッフ・キャスト

 

 

監督 ロジェ・ヴァディム
製作 ラウール・J・レヴィ
原案脚色 ロジェ・ヴァディム
撮影 アルマン・ティラール 、 ルイ・ネ
音楽 ジョン・ルイス (MJQ)

配役
ソフィー  フランソワーズ・アルヌール
ミシェル  クリスチャン・マルカン
スフォルツィ  ロベール・オッセン
フォン・ベルゲン男爵  O・E・ハッセ
ブゼッティ  フランコ・ファブリッツィ

大運河 (グランド・カナル)Sait-on Jamais… 1957 フランス+イタリア合作 日本ヘラルド配給

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