1951年に津村謙が歌って大ヒットした名曲「上海帰りのリル」を元にした同名の連載小説を新東宝が映画化したもの。一種のメディアミックスだ。

この曲自体がジェームズ・キャグニー主演のミュージカル映画 “Footlight Parade”(1933) に使われた “Shanhai Lil” を元にしている。”Shanghai Lil” は、当時日本でも訳詞がつき「上海リル」という題名で江戸川蘭子らにより競作になった。「上海帰りのリル」は、この「上海リル」のメロディーを一部借用している。

 

 

監督は文芸作品から戦後、娯楽映画に転向した島耕二(俳優片山明彦の実父)。

リルの幻を追って自滅する主演は、ふっくらしていた水島道太郎。その親友役に森繁久彌、リル役は新東宝のニューフェースだった香川京子を起用している。

 

あらすじ

 

岡村(森繁久彌)と山本(水島道太郎)は上海でルームメイトだった。岡村は上海クリフサイド・クラブのバンドマンでドラムを叩き、山本は船舶会社で働いていた。山本は夜な夜なクリフサイド・クラブに現れ、ホステスのリル(香川京子)を指名して踊るのが好きだった。そんな山本を見つめるホステス紀子(浜田百合子)の姿もあった。ある日、山本と岡村がリルを田代というヤクザから救ったことから、三人は親密になり、とくに山本とリルの間に恋愛感情が生まれた。しかし田代に襲撃され銃撃戦が始まったときに、連合軍の爆撃が始まり山本とリルは散り散りになり、山本は失意のまま終戦を迎え、岡村と帰国する。

戦後、虚無主義に陥った山本は闇商売に手を出してはことごとく成功し、一財産を成す。しかし一人になると、リルの面影を思い浮かべていた。かつてのリルの同僚紀子は横浜の水商売で、名を挙げていた。そして上京して山本に近づき、横浜にクリフサイド・クラブを再現することを提案する。山本はリルが戻ってくるのでないかという思いから、そのアイデアに乗ってしまう。クラブのバンドマスターは当然、岡村だ。

しかし資金的にその計画は無理があった。建築代金50万円を渡した子分の二郎が、持ち逃げしてしまう。二郎は情婦克子と捕らえられるが、克子はリルに生き写しだった。山本は克子と堅気に戻って一緒になりたいという二郎を許した。

資金難につけ込む横浜のヤクザ野村組との間で、クラブの開業初日に銃撃戦が起きた。重傷を負った山本を連れて、紀子は追っ手から逃げ出す。しかし山本がリルしか愛していないことに気付いて、自棄になった紀子は山本に止めを刺し、最後に自分のこめかみを撃ち抜いて自殺した。

 

 

 

雑感

 

上海での楽しい共同生活で幕を開けた映画も、幕切れは完全にフィルムノワールだった。島耕二はさすが名監督だけあって、歌謡映画であっても単純な映画を作らない。

結局、リルは上海の抗争で死んだのだ。日本に戻った主人公山本(水島道太郎)は彼女の幻を追いかけて、横浜でのヤクザ同士の抗争に巻き込まれて死んでしまった。

一応、紀子役の浜田百合子が山本にとってのファム・ファタールに当たる。彼を唆して横浜にクラブを作らせ、自分の夢(クラブのマダムになることと、山本の妻におさまること)を叶えようとして、結果的に彼に昔の夢を思い出させ追い詰めてしまうのだから。山本と再会しなければ、山本も紀子も死ぬことはなかった。

個人的に魅力的に映ったのは、千明みゆきだ。山本の東京のバーの経営を任された昔の女役でだが、非情にも山本に経営権をむしり取られ追い出される。

それから大川平八郎が不動興業(山本組)の経理部長を、見明凡太郞が横浜での敵対する野村組組長を演じている。

 

スタッフ

 

監督 島耕二
製作 竹中美弘
原作 藤田澄子
脚色 椎名文 、 島耕二
撮影 三村明
音楽 大森盛太郎

 

 

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配役

 

山本 水島道太郎
岡村 森繁久彌
リル・鈴木克子(二役) 香川京子
紀子 浜田百合子
はる江 千明みゆき
高田 大川平八郎
野村 見明凡太朗
次郎 河合健二
歌手 津村謙
歌手(上海) 胡美芳

 

上海帰りのリル 1952 新東宝 – 津村謙の名曲を映画化

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