前作の時代から25年を経過した大恐慌時代に、再びメリー・ポピンズがバンクス家の危機に空から降ってくる。
CGのなかった時代にアニメと実写の見事な結合でアカデミー賞5部門(主演女優賞、編集賞、作曲賞、歌曲賞、特殊効果賞)を制覇した前作から50年が経ったが、メリー・ポピンズ50周年記念でなかなかの盛り上がりを見せた。そこでディズニーは新作を企画したが、主演に抜擢する予定だったエミリー・ブラントが妊娠していたため、企画そのものを後にずらして産休明けのエミリーを起用して撮影した。(前作もジュリー・アンドリュースが妊娠したため、企画が遅れた)
パメラ・トラバースの原作にはないオリジナル作品をデヴィッド・マギーが書き、ミュージカルに強いロブ・マーシャルが監督している。
タイトル・ロールはエミリー・ブラント。今回は時代が新しいので煙突掃除夫ではなく、ガス灯の点灯夫のジャックにリン=マニュエル・ミランダ、前作の弟だったマイケル役にベン・ウィショー、家政婦エレンにジュリー・ウィンタース、ドーズ・ジュニア役にディック・ヴァンダイク(前回はドーズ・シニア役を演じた)。他にコリン・ファース、メリル・ストリープ、アンジェラ・ランズベリーなど。

 

 

あらすじ

 
前作から25年後、1930年頃のロンドン。バンクス家の姉ジェーン(エミリー・モーティマ)と弟マイケル(ベン・ウィショー)は成長し、マイケルは3人の子持ち(ジョン、アナベル、ジョージー)の父になった。しかし昨年彼は妻を亡くしてしまい、家庭には以前の明るさはなかった。
末っ子のジョージーにとって、母が亡いことがよく分からない。その上、マイケルは自宅の勤める銀行で借金をして自宅が抵当に入っているのに、まさかの延滞をしてしまい、金曜日までにローン残額を支払わなければ立ち退きを請求される。マイケルは銀行株がどこかにあったはずと思いだし、ジェーンと一緒に家捜しを始める。汚い凧があったので、ゴミ箱に捨ててしまう。
その凧が空に飛んで行ってしまう。子供たち三人と店頭夫のジャック(リン=マニュエル・ミランダ)は凧を取り戻そうと、三人と共に凧ヒモを握っていると、凧と一緒に空から一人の女性が降りてきた。ジャックは子供の頃に彼女-メリー・ポピンズ(エミリー・ブラント)を見たことがあった。メリーは25年前に訪れたバンクス家のピンチに再び降臨したのだ。
まず子供たちに笑顔を取り戻さねばならない。彼女は子供たちを風呂に入れるが、風呂の中は海の底に繋がっていて、子供たちと泳ぎ回る。ジョージーはメリーが魔法使いだと直観したが、ジョンとアナベルはまだ信じられない。
銀行ではマイケルの嘆願に現頭取でドーズ・ジュニアの甥のウィルキンス(コリン・ファース)は金曜日の真夜中まで待つと約束するが、実はマイケルの父の株主名簿を破って燃やしていた。
その夜、ジョンは生計を助けるため、母が貴重だと言っていた鉢を売ろうと言い出したが、アナベルとジョージーに反対され喧嘩になり、壺を割ってしまう。メリーが誰が壊したかと聞くと鉢自身が三人だと答える。鉢に書かれてある絵の御者がしゃべり出し、割れたショックで車輪が外れてしまったと嘆く。そこでメリーとジャック、三人の子供は鉢の絵の中に入り込み、車輪を直す。そのうえ、ロイヤル・ドゥルトン劇場でメリーとジャックがショーを演じてくれる。ところが蒸気自動車に乗る狼にジョージーが攫われて、ジョンとアナベルが馬車に乗って追いかける。あわやのところで二人は乗り移り、ジョージーを助けることが出来る。三人は気が付くと部屋のベッドで寝ていたが、起きて母がいないことを嘆き悲しむようになる。するとメリーは、母は一旦いなくなっただけで心の中に生きていると言い、「幸せのありか」を歌ってくれる。
翌日の水曜日、メリーは従姉のトプシー(メリル・ストリープ)の家へ三人を連れて行き、鉢を直してくれるように頼む。トプシーは逆立ちした格好で出てきて、今日は「逆さまの日」だからダメと言うが、メリーは見方を変えれば逆さまも通常と変わらなくなると教えて、トプシーを納得させ鉢を渡す。その際、ジョンは鉢が高価な物かと尋ねるが、トプシーは母親にとって貴重でも値段にすると安物だと告げる。
その日はマイケルが鞄を忘れていたので、メリーと三人の子供は銀行へその鞄を持っていく。メリーと受付が話し合っている間に、子供たちは勝手に頭取に相談に行ってしまう。そこで頭取が最初から家を差し押さえるつもりだと知るが、マイケルは子供の勝手な行動を怒り出す。
家に帰ってから三人は父に怒られると思うが、マイケルは家族のために子供たちが自主的に動こうとしたことをメリーに聞かされる。「幸せのありか」を子供たちが歌うのを聞かされ、弱かったのはマイケル自身だと知り、彼は三人の子供たちを強く抱きしめる。
金曜日が来ても株券は見つからずマイケルは家から立ち退くことを決意する。ジョージーは凧を忘れたことに気付き家へ戻り、凧を取ってくる。マイケルが凧を見ると、補修するために貼った紙切れが株券であることに気付き、銀行へ飛んで行く。しかしもう刻限だ。そこでジャックとメリーはビッグ・ベンに細工をして5分ほど時間を遅らせる。
何とか刻限に間に合ったマイケルだったが、持ち込んだ株券に瑕疵があると言ってウィルキンスは受け付けない。そのとき奥から出てきたのが、会長ドース・ジュニア(ディック・ヴァン・ダイク)だった。ドース・ジュニアはウィルキンスを頭取の座から追い出し、自ら頭取に復帰する。さらにマイケルが昔銀行に貯めた2ペンスで投資信託を運用した結果、借金残高並に増えたため、家を売る必要はなくなったと告げる。
翌日、公園で風船を売っていたので、マイケルが買うと空に浮かぶ。さらに子供たちや人々も空に浮かんでいる。しかしウィルキンスだけは浮かべない。
空の旅を楽しんだ後、自宅前に着陸する。そのとき、自宅の扉がぱっと開く。その瞬間、メリーの傘が開き、何処となく飛んで行ってしまう。

 

 

 

雑感

 
マイケルは鬱病である。銀行員なのに返済ルールを忘れているなんて度が過ぎている。大恐慌下で延滞したら返済一途になるのは当然だ。しかし今から80年前であるため、鬱病の治療方法は一般に知られていなかっただろう。それを6日間という限られた期間に彼を治療するのが、今回のメリーに対するミッションだ。
そのために子供たちの信頼を得て、子供たちをできるだけ自発的に動かし、マイケルの目を覚ますという荒療治にでた。

 
前作と比べ、この作品の評価は8掛けというところだ。Rotten Tomatoes の前作の批評家点は100だが、本作は79しかない。その差は、前作におけるジュリー・アンドリュースの歌唱力と、ヒット曲の有無だ。前作は滑舌の練習に持ってこいな「スーパーカリフラギリスティックエクスピアリドーシャス」やユダヤ音楽的な「チムチムチェリー」という二曲だけ取っても、ミュージカル史に残る名曲だ。「凧を揚げよう」Let’s Go Fly a Kite だけで本作の「幸せのありか」と釣り合ってしまう。
「メリー・ポピンズ」の舞台がロングランしてるのに、「リターンズ」を舞台化するのも難しい。
従って、初めから前作に及ぶべくもなかった。でもジュリー・アンドリュースの個性(優しさ)とエミー・ブラントの個性(強さ)を比較すると、エミーの方がメリー・ポピンズには向いていると思う。歌もダンスも人並み以上だったが、ジュリー・アンドリュースと比べると可哀想だ。手書きアニメの部分もあったし、個人的には楽しんでみられたので、評価は前作の9掛け程度で良いと思う。

 
前回の出演者の内、マイケル役の少年は夭折したがジェーン役のカレン・ドートリスは道を行く貴婦人役でメリーに対して「どうもありがとう」と言う台詞もある。
 
何とアンジェラ・ランズベリーは収録時93才だそうだ。(1925年10月生)80才ぐらいにしか見えない。彼女と同じ歳(1925年12月生)でタップダンスを踊るのが、前作バート/ドーズ・シニアの二役で活躍したディック・ヴァン・ダイク
 

スタッフ・キャスト

 
監督 ロブ・マーシャル
脚本 デヴィッド・マギー
原案 デヴィッド・マギー、ロブ・マーシャル、ジョン・デルーカ
原作 パメラ・トラバース『メアリー・ポピンズ』
製作 ロブ・マーシャル、ジョン・デルーカ、マーク・プラット
製作総指揮 カラム・マクドゥガル
音楽 マーク・シャイマン
撮影 ディオン・ビーブ

 
配役
メリー・ポピンズ   エミリー・ブラント
点灯夫ジャック       リン=マニュエル・ミランダ
マイケル・バンクス   ベン・ウィショー
ジェーン・バンクス(姉)   エミリー・モーティマー
家政婦エレン      ジュリー・ウォルターズ
ウィリアム・ウィルキンス頭取   コリン・ファース
従姉トプシー        メリル・ストリープ
風船売りのおばあさん     アンジェラ・ランズベリー
ドーズ・ジュニア       ディック・ヴァン・ダイク
 

 

メリー・ポピンズ・リターンズ Mary Poppins Returns 2018 ウォルト・ディズニー製作・配給

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