1950年台湾(中華民国)からのバナナ輸入が再開されたため、バナナのPRも兼ねてサトウハチローが連載小説を書いた。
この映画はそれを元に作られたもので、主題歌は「リンゴの唄」トリオの作詞サトウハチロー、作曲万城目正、台湾育ちの並木路子が歌っている。並木路子は主演を兼ねた。
共演は柳家金語楼、星美智子、川喜田小六
監督は志村敏夫

あらすじ

人の往来が多くなった銀座ライオン前から映画は始まる。
「オニ金」として恐れられている高利貸の山下は、町で、チンピラに絡まれていたミチコを助け、足を負傷していたので自分のアパート緑荘の一室に置く。台湾から引き上げ、戦死した兄の友人木村を探しているという彼女に、山下の今は男と逃げていった娘みどりの面影を見る。ミチコは親切に感謝するも「鬼キンの若い愛人」と陰口を叩かれるのに我慢できず、不二越果実店支配人を紹介してもらい台湾バナナ売りとして働く。
山下の店子が踊り子をやっていて、クラブ・フロリダに出演した。そのとき、そこでホステスとして働いているみどりを見かける。
ミチコがバナナ売りの口上を練習していると、隣室で北野がギターで「黄昏も楽しく」を奏でている。思わずミチコは歌い出して美声をアパートの人たちに披露してしまう。歌い終わったとき、聴衆は思わず拍手した。
翌日から口上販売していると、知人で今はレコード会社の文芸部に籍を置く森田と再会する。彼女もミチコの美声をよく知っていて、木村との再会のためにもコロムビアへの売り込みを引き受ける。
サトウハチローも万城目正もミチコの声を気に入り、早速「バナナ娘」という曲を書き、早速楽隊を入れてレコーディングする。発売するやたちまちヒットしてミチコは一躍スターとなる。
三文文士北野の書いた「バナナ娘」のノベライズ版もヒットして、これを機会に小紅と所帯を持つ。
一方、不二越果実店ではミチコの抜けた穴に臨時販売員を採用するが、これがバナナに目がなくて売り物を全部食べてしまい、即日解雇される。仕方なく翌日からは再びミチコが歌う販売員として復帰する。そこへ先日病気の兄が見舞いのバナナを食べたいと言ったので、代わりに買いに来た少年が礼を言いにやって来た。キャバレーで働いていると言う兄嫁も一緒に礼を言った。その兄嫁の顔が、部屋にあった写真と同じものだったので、ミチコは兄嫁がみどりだと知った。みどりの夫は結核で大きな手術をしなければならなかった。ミチコはみどりの父山下に会うことを勧める。ところがその夫が木村だった。
ミチコはショックのあまり森田マネージャーに翌日のバナナ祭りで歌うことを拒否した。それを知った店子一同はがっかりして、大家を突き上げミチコに歌うように説得させる。しかし自分の娘がミチコの許嫁と結婚していたことを知らされ、ミチコに顔向けができず、嫌なものを歌わなくて良いと言ってしまう。ミチコは拝むように自分を見ている店子を見て、思わず笑みが溢れて、歌うことを決心する。
そしてバナナ祭りで櫓の上に上がり、「バナナ娘」を披露する。山下や店子、債務者は櫓の回りに向かい合って円を描いてダンスをして楽しむ。The End.。

雑感

サトウハチロー作詞、万城目正作曲、並木路子唄という「リンゴの唄」のゴールデン・トリオによる歌謡映画。今度の歌は、並木路子ベスト盤にも収載されている「バナナ娘」である。松竹と新東宝と製作会社は違うが、「リンゴの唄」で有名な映画「そよかぜ 」の姉妹編と言える。本作の前半でも、並木が「リンゴの唄」3コーラスを、アレンジを少しずつ変えて歌うシーンがある。

先ず、「バナナ娘」という歌ありきの企画なので、この手の歌謡映画は、どうしても脚本が平板になりやすい。その割には、この脚本は一捻り入れてあり、主人公はあわや闇堕ちかと思わせるが、かつて悪口を並べた女房連中が心配そうに主人公の顔色を見ていて、それに主人公は思わず笑ってしまう。

この映画は、ぽっちゃりしていた映画「そよかぜ」からの並木路子の容姿の変化と、終戦から5年経ち逞しさが戻ってきた日本人の姿を描くことで、この五年間にともに艱難辛苦に乗り越えてきた日本人の同志愛を訴えているのではないだろうか。
確かに、「バナナ娘」の歌は、必ずしも明るいメロディと違うが、それでも何陽う音楽特有の前向きな姿勢がある。

志村敏夫監督の演出は、テンポが良すぎて登場人物たちを巧く捌いているが、カットが多すぎる。もう15分ぐらいあったほうがわかりやすい映画になったと思う。「バナナ娘」を歌うシーンが何度も合って、返って印象に残らないのが気になる。

トラック・ショット、クレーン・ショットなどを使った三村明のキャメラも戦前ならまだしも戦後映画では時代遅れの感がある。
しかし総合すると、好ましい小品になっている。

並木路子の演技は歌劇風を引きずってしまい、一人だけ重い。

若くて痩せていた田崎潤の登場するのは冒頭の回想シーンでバナナを食べているところのみ。
川喜田小六って「君の名は」もそうだけど、ろくな役ができない運命なのだな。
柳家金語楼の演技を論評したところを見たことがないが、大衆演劇丸出しだが、この時代の雷親父には不可欠な人材である。父性の欠乏の時代だけに、基準になる人物としてどんな映画にも一人必要だと思う。新劇の人がこれをやっても、説教臭くなるだけ。

後にこの映画を40分と短縮した版は、「初恋バナナ娘」と改題された。不二越果実店は今も竹橋に存在する店である。

スタッフ

製作青柳信雄
監督志村敏夫
原作サトウハチロー
脚本佃順(潤色)、南亭骨太郎
撮影三村明
音楽万城目正
主題歌 バナナ娘 並木路子(作詞サトウハチロー、作曲万城目正)
挿入歌 黄昏も楽しく 鶴田六郎(作詞サトウハチロー、作曲万城目正)

 

キャスト

ミチコ(波野三千子) …………… 並木路子
鬼金こと山下 …………… 柳家金語楼 (金プロ)
不二越果実店支配人 …………… 江川宇礼雄
ミチコの兄 …………… 田崎潤
臨時店員 …………… 岸井明
マネージャー森田 …………… 清川虹子
山下の元愛人小紅 …………… 千明みゆき
山下の娘みどり …………… 星美千子 (大映) のちに美智子
北野 …………… キドシン
木村 …………… 川喜多小六
管理人 …………… 渡辺篤
管理人の妻 …………… 一の宮あつ子
本人役(特別出演) 万城目正、鶴田六郎、フロリダヤダニヤーズ

 

 

 

 

 

バナナ娘 1950 青柳プロ+新東宝製作 新東宝配給 並木路子の歌謡映画

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