米国映画会社RKOが版権を持ち、出演料8000万円もするキングコングを招いて東宝が制作し、「ゴジラの逆襲」以来7年ぶりで初めてカラーとなったゴジラ映画の最高傑作。そのためか、映画は商品の宣伝や会社名で一杯である。しかし映画は興行収入だけでコングの使用料を容易く回収してお釣りが出るほどで、ゴジラ映画としては第一位の興業成績だった。
本稿は紛失したテープの一部を補った後の1時間37分版について語るが、近い将来美しい4K完全版(上映時間はほぼ変わらない)が販売されると期待している。
監督は本多猪四郎、製作は田中友幸、特技は円谷英二。主演は高島忠夫、佐倉健二、有島一郎、浜美枝、若林英子。
あらすじ
科学番組で何故か北極の氷が溶けたじめたと言っている。ゴジラ映画はいつも環境問題に鋭いメスを入れる。国連は原潜シーホーク号を派遣して原因究明を図っている。彼らが見たことは、何とゴジラが北極海で目を覚まし、氷を溶かしていたのだ。ゴジラは帰巣本能に従って、日本に進路を取る。
しかしパシフィック製薬多胡宣伝部長はスポンサーをしているテレビ局員桜井、古江をソロモン諸島のファロ島に派遣して巨大な魔神を捕まえてこいと言う。早速ファロ島民のご機嫌を取り、魔神捕獲隊を結成する。魔神の正体はキングコングだった。現れたキングコングは人里まで降りて大ダコと対決して追い払うが、眠り酒を飲んでぐっすり寝てしまう。その間に桜井らは曳航して日本に連れ帰ろうとする。
パシフィック製薬では、ライバルのセントラル製薬が取材しているゴジラばかりが注目されてキングコングが注目されないのが面白くない。そこで多胡部長はキングコング対ゴジラを企画して、自ら曳航船に乗り込む。
函館に向かう船がゴジラによって沈没させられる。その船には桜井の妹ふみ子の恋人で東京製鋼社員藤田が乗っているはずだった。藤田の無事を確かめに青森行きの急行津軽に乗るふみ子だったが、ゴジラが松島に上陸した。入れ違いになって藤田が帰って来る。根室で下船していたのだが、早速藤田がふみ子を迎えに行く。急行電車はゴジラに襲われ、乗客はパニックを起こす。一人だけ捨て置かれたふみ子は恐怖のあまり泣き叫ぶが、危ういところを藤田が救出した。
一方、キングコングも目覚めてしまい暴れた出したので、繋いでいる綱を切断するため、爆薬に銃を放って爆発させる。それにより自由になったキングコングは動物的勘でゴジラの気配を察して日本に向かう。
ゴジラは那須高原にいた。自衛隊はゴジラ対策として埋没作戦を実行しようとしていた。そこへ袖ヶ浦からキングコングが上陸して、ゴジラのいる那須へやって来る。
「キングコングとゴジラの一回戦」
パシフィック製薬の面々も観戦する中、両雄は初めて相見える。しかし放射能光線を持ったゴジラが優勢に戦いを進め、キングコングは一旦退却してしまう。
自衛隊は埋没作戦(落とし穴に落としてガス中毒させる)を実行するが、ゴジラには全く効かなかった。
次に松戸ラインで、高圧線を使ってゴジラを足止めする100万V作戦を実行すると、ゴジラを止めることができた。しかしキングコングは生来帯電体質だったようで効果がなく、松戸ラインは簡単に突破されてしまう。
ついにキングコングは東京に入る。何故か丸の内線に乗り避難しようとしたふみ子は、キングコングに捕まってしまう。ふみ子を握ったままキングコングは国会議事堂の屋根に上り、見下ろしている。そこで桜井と藤田は、ファロ島で採取した眠り酒と、東京製鋼が開発したワイヤーを使ってふみ子をキングコングから引き離し、ゴジラがいる富士山にコングを連れて行き再び戦わせることを自衛隊東部総監に進言する。総監はその案を即実行に移す。風船とワイヤーに吊るされてコングは富士山頂上近くを登山するゴジラの前で落とされる。
「キングコング対ゴジラ二回戦」
ゴジラの後ろに回って急襲して尻尾を取ったコングは、一時マウントを取るほどだったが、やはりゴジラに分が悪いのか斜面を転がり落ちる。しかし帯電体質のコングには恵みの雨が降って来る。電気を嫌うゴジラに対して、コングが優勢に戦いを進める。ついに熱海まで降りてきて、三年前建立された観光施設熱海城を挟んで殴り合いとなり、最後は崖から縺れあって海に落ちてしまう。その衝撃で津波と地震が起きて熱海の街は廃墟と化し、観光名所お宮の松も海の藻屑と消える。コングは浮かび上がりファロ島に向かって泳いで帰ってゆく。ゴジラは海深く潜ってしまったようだ。
雑感
ゴジラシリーズで最も好きな作品である。
映画は全編に本家「キングコング」(1933)へのオマージが散りばめられている。
でも1962年当時から極地の氷が溶けて、地球温暖化が始まっていたのが分かる。近代文明などよりも、そもそも産業革命が起きたことが災厄の種だった。
映像はカクカクしてるところがあった。4K完全版に程遠い。それでも前半の東宝が大の得意としていたサラリーマン喜劇と後半の怪獣合戦と、両極端なものを持ってきて、子供から年寄りまで一家で楽しめる作品にしている。大人から見ると、怪獣対決も力道山対ルー・テーズの1962年5月25日世紀の一戦にしか見えず、全く怖くない。というより、全編コメディである。
キングコングの着ぐるみは、オリジナルに似ていない。RKOの注文でそうした。その代わり、日本猿に近付けて造形したそうだ。
とくに浜美枝が怪獣に襲われ本気で泣き叫ぶシーンが多い。こう言うところは、全く子供向けに作っていない。
浜美枝と若林英子はこの作品でアメリカの目に留まり、5年後の映画「007は二度死ぬ」に出演することになる。でもこの時代の垢抜けないメイクの方が好きだ。
団地夫人として疎開する母子は、東郷晴子と無名時代の金子吉延だ。
ファロ島の群舞では久しぶりに、現地人に扮した根岸明美のセクシーダンスが見られる。音楽はもちろん伊福部昭だ。これも楽しみ。
しかし酋長にベテランの小杉義雄を使うとは、完全にコメディ・シフトの配役だ。バックで大勢の島民がダンスしているのは学生バイトらしい。島民は全員茶色い顔にしているから、ブラックフェイスだ人種差別だと言われて、現在では放送しにくいだろう。
スタッフ・キャスト
監督 本多猪四郎
製作 田中友幸
脚本 関沢新一
撮影 小泉一
特技撮影 有川貞昌 、 富岡素敬
特技監督 円谷英二
音楽 伊福部昭
美術 北猛夫 、 安倍輝明
編集 兼子玲子
配役
テレビカメラマン桜井修 高島忠夫
桜井ふみ子 浜美枝
東京製鋼研究員藤田一雄 佐原健二
テレビプロデューサー古江金三郎 藤木悠
宣伝部多湖部長 有島一郎
重沢博士 平田昭彦
東部方面隊総監 田崎潤
たみ江 若林映子
通訳コンノ 大村千吉
酋長 小杉義男
祈祷師 松村いき雄
チキロの母 根岸明美
牧岡博士 松村達雄
大貫博士 松本染升
宣伝部大林 堺左千夫
シーホーク号船長 D・フェーン