今村昌平監督が、失踪した男性の行方を婚約者と一緒に日本中を追って、撮ったドキュメンタリー(or モキュメンタリー)映画。製作の裏側までカメラは侵入する。
この年度のキネマ旬報ベストテン第2位。
出演は露口茂ほか。撮影は石黒健治で16ミリ・カメラを使った。
あらすじ
俳優露口茂が失踪者大島裁(ただし)の婚約者早川佳江(通称ネズミ)を連れて失踪の原因を探るべく関係者を訪ねる形で映画は進んでいく。
大島裁は1965年4月岡産業に勤めていて福島に出張した後、失踪した。一体なぜ彼は消えたのか?岡社長は既に清算しているのだが2年前に使い込みがあったことが原因の一つと考えていた。社長夫人、仲人、裁の姉にも意見を求めた。大島は仕事のできないタイプで、愚図愚図している割に酒が入ると人が変わるようだ。そしてネズミには大島への未練が残っていることを確認する。
そこで二度目のオープニングタイトルが入る。
大島の実家は新潟県の直江津、当時は占い婆に大島の行方を尋ねるような村落である。裁は四男だが母親の様子から、息子の生死を案じている気配はない(どうも大島は実家と連絡を取っているのではないかと思った)。その村落は封建的な土地柄で、当時の皇太子御成婚の前にテレビをクジで当てたことがあったが、本家筋がまだテレビを持たないため、大島家でもテレビを封印したそうだ。長兄は家出経験があったが、結局は実家に戻って後を継いだ。他の兄には、月給が15000円の時代に使い込みの金の埋め合わせに10万円を借りていた。
東京に戻った露口たちは再び岡産業の同僚、取引先を尋ねて回る。そこで公子という女性が浮かび上がる。ネズミと見合いする前に大島は公子と付き合っていたが、公子が大卒のエリート小沢の方を選んでしまう。結局、小沢とも別れて公子は故郷岩手県に帰ってしまう。そのとき、大島は社長夫人の前でビール瓶を2本叩き割って男泣きに泣いた。公子は、良い歳をして幼稚に見えたと、大島について語り、ネズミの知らないことを知っていると捨て台詞を残して去る。露口には、公子の方が大島の好みに見えた。
ここで企画会議が映し出される。次は失踪直前の福島の足取りをあたることになる。すると4月16日の行動が全くわからないなど、不審な点が多く出てくる。それに対して今村昌平は「捜査映画みたいで嫌だ、情念を描きたい」とドラマ監督らしいことを口にする。
福島から東京に戻ってきた大島は、一旦部屋に戻ってからすぐ失踪していた。1965年の4月上旬に会った東京の友人に大島は、しばらく結婚しないと語った。さらにネズミの姉早川サヨ(通称ウサギ)が芸妓上がりで、ある社長の2号として囲われていることを大島は気にしていたと言う。他の友人も同様の証言をした。
映画開始1時間経過あたりで、ネズミが同居しているウサギを責め始める。ウサギはのらりくらりと交わすだけで、ネズミは泣き出してしまう。
そこで早川家のルーツを探りにいく。
早川家は士族であり、父は潔癖な人柄で母はだらしのない人柄だと言う。姉のウサギは母にそっくりで、ネズミは父にそっくりだそうだ。父が早く亡くなり早川家は生活していけなくなり、ウサギは奉公に出なければならなくなり、置屋の養女になった。そして芸妓になったわけである。それをネズミは汚いと言って嫌がった。ウサギの方はやがてある中小企業の社長の世話になり、バーを任されるが、バーを閉めた後は社長の運転手となっている。
ネズミがNETテレビのワイドショー、人探しのコーナーに出演した。映画の記者会見も受けた。この頃から、ネズミの顔つきは変わり出した。女優の顔になったのである。
実はネズミはウサギに対して強い疑念を抱いていた。ネズミはカメラを前にしてウサギに対する追及劇を映し出そうとする気なのかもしれないと今村監督は言う。さらに監督と露口は、ネズミが大島のことはどうでも良くなり露口のことを愛し始めていることに気付く。露口は困惑し始めた。二人で海辺を歩いて、露口はネズミから愛の告白を受ける。
露口や監督はウサギとネズミが同居していたアパートに向かう。
ウサギの旦那が社用に借りたアパートだが、大家によるとウサギを住まわせるようになったらしい。
露口はウサギをクラブに連れ出して酒を飲ませ、いろいろと聞き出そうとする。しかしウサギは口を割らない。
ネズミのいない時に、ウサギが大島を部屋に連れ込んでいたという情報が各方面から入ってきた。
ネズミはウサギを部屋に訪ね、再び追い込んだ。まず岡産業の交換手からウサギが大島を呼び出したことがないか尋ねる。交換手はウサギの声を覚えていた。さらに魚屋を連れてきて、直接面通しする。それでもウサギは知らぬ存ぜぬで通した。
そのとき、今村監督が入ってきて、今までウサギの部屋だと思っていたものを取り壊し始めた。何とそれは映画セットの一部だったのだ。
最後に今村監督はこれで最後の撮影だと言いながら、万人監視の中、アパートの入り口の前に関係者を集めている。ネズミはウサギにさらに目撃者を用意して、問い詰める。さらに魚屋さんが再びやって来てウサギを追い詰める。岡産業の社長が2年前の話だから、確信を持って証言できるわけはないと主張するが、魚屋は聞かない。最後は喧々囂々となった。
雑感
始まって4分のところで仲人が言っているが、ネズミが大島にきつく当たった為、嫌気が差して消えたのだろう。ネズミは、年の離れた姉ウサギにも子供の頃から暴力を振るっていたぐらいだ。原因は彼女のDVあるいはモラハラだ。しかも彼は使い込みという脛に傷を持つ身なのだ。それがバレたら、どういう事態になるか?
当時はちょっと嫌なことがあると蒸発したものなのだ。それでも生きて行けたのだ。今は拉致問題があり、核家族化や少子化もあり、社会がそう簡単に失踪を許さなくなったから、自殺の増加につながっている。
始まって4分で結論を出したって婚約者ネズミは納得できない。今村昌平監督は彼女を納得させて、別の人生に向かわせたいのだから、様々な土地へ旅させて、彼女に気持ちの整理をつけさせねばならない。そのためあちこち露口と今村はネズミを連れ回す。そのうち、ネズミは大島のことを気にならなくなる。
ところがネズミの肉親であるウサギに対する憎しみは消えなかった。後半はウサギが大島の失踪に絡んでいると信ずるネズミが追及の手を緩めない。
しかしウサギも年上の分、二人きりであったことを決して認めない。結局、両者の意見は平行線のまま終わる。
肉体関係があったかどうかは別にして、おそらく姉は大島からネズミについての相談を受けていたのは真実だろう。大島の新潟の親族は、大島の行方を知っているだろう。しかし真実を明らかにすることはネズミを傷つけると考えたから、秘密にしたのではないか?
またドキュメンタリーとして始まったこの映画も、途中で「フィクションなんだから」と今村監督が叫んでいるように、ある点からモキュメンタリー(ドキュメンタリーに見せかけたフィクション)になったはずで、監督のやらせがあったに違いない。
ちなみに大島を九州で見たという人がいたのだが、姉妹が何故か猛然と反対したため、そのことには映画で一切触れなかった。
露口茂が、大島について或いはウサギに直接質問する様子は「太陽にほえろ」の「落としの山さん」のポーズそっくりだった。
スタッフ
企画、監督 今村昌平
撮影 石黒健治
音楽 黛敏郎
録音 武重邦夫
編集 丹治睦夫
キャスト
露口茂 (後見人)
早川佳江 失踪人の婚約者
早川サヨ その姉
今村昌平