(◎)日本を舞台にした、イアン・フレミングの原作スパイ小説を親友である作家ロアルド・ダールが脚色し、ルイス・ギルバートが監督した007シリーズ第五作。製作はハリー・サルツマンとアルバート・R・ブロッコリ。
主演はショーン・コネリー。
共演は若林映子、丹波哲郎、浜美枝、ドナルド・プレゼンス。カラー映画。
あらすじ
アメリカとソ連の有人衛星がともに姿を消す。米・ソを仲裁したイギリスの情報部は、無国籍ロケットが日本から発射されていることを察知する。十日後にアメリカは、宇宙ロケット「ジェミニ号」を打ち上げる。もし、また事故が起きると米ソは戦争を始める可能性が高い。
コードネーム007ことジェームス・ボンドはそれまでに、敵の正体と本拠地、目的をさぐれと、上司‘M’から命令を受ける。彼は、英国軍艦で日本に向かうが、英領香港で待ち時間を過ごしていた時に敵に殺される。
軍艦でボンドの水上葬が行われる。遺体は海に落とされるが、何処から現れた潜水夫が遺体を拾いにくる。彼らは潜水艦に戻っていき、遺体袋を開けると、中から死んだはずのボンドが生きて現れる。敵の目を欺くための作戦だったのだ。
ボンドが日本に到着すると、公安調査庁のタイガー田中と秘書アキが協力してくれて、大企業である大里化学が怪しいと思われる。早速、大里化学の社長に面会に行くが、帰り道に命を狙われる。怪しい貨物船が神戸に停泊している。大里化学の船らしいが、荷をかなり積み込んでいる。
ボンドは神戸に行くと、敵に捕えられる。しかし、大里化学の社長秘書ヘルガは、ボンドの魅力に参ってしまい関係を結ぶ。そして逃亡している最中にヘルガは、ヘリから脱出する。ボンドは置き去りにされるが、ヘリを何とか不時着させる。
大里化学が契約した中国船は、日本のある島で荷を下ろしていた。その島へボンドと田中は向かうことになる。ボンドは、‘Q’に頼んで小型ヘリ「リトル・ネリー」を持って来てもらう。対岸からネリーに乗って島を偵察すると、火口にカルデラ湖ができている山があり、その辺で敵の襲撃を受ける。
別行動になるアキとは、しばらくのお別れである。最後の夜、ボンドはアキと愛しあう。就寝中、敵のスパイがボンドに天井裏から毒薬を垂らすが、誤ってアキの口に入ってしまい死んでしまう・・・。
雑感
ショーン・コネリーの007シリーズ第5弾は、舞台を日本に移して製作された。日本に過剰な幻想を抱くジャパネスク映画は、中国人を日本人に見立てることが多いので、トンデモ映画になりやすい。しかしこの作品は、ロケも真面目に日本で行っているし、日本人俳優を重要な役で使っていて、日本でも好意的に受け止められている。
日本でのロケ地は、鹿児島県霧島新燃岳(カルデラ湖)、桜島、屋久島、宮崎県えびの市、神戸港埠頭、姫路城、東京都中野新橋、赤坂、ホテル・ニューオータニ、代々木公園、蔵前国技館、銀座、和歌山県熊野大社、那智勝浦などである。新燃岳のカルデラ湖は、最近の度重なる噴火のおかげで映画の様子ではない。
これだけ真面目にロケハンをして撮影しているジャパネスク映画は他にないだろう。ヨーロッパの撮影も含めて、撮影期間も9ヶ月かかっている。
丹波哲郎が日本側のスパイ組織の長で浜美枝がボンド・ガールと言われることが多い。しかし、当時浜美枝は英語の発音が下手だったので、何回もヨーロッパ映画に招かれていた若林映子を出演時間の長いアキの役に据えて、浜美枝には出演時間の少ないキッシー鈴木の役が当てられた。若林映子は始まってから1時間余りのところで殺され、入れ替わりに残り40分のところで浜美枝が登場する。従って出演者の序列も、ショーン・コネリー、若林映子、浜美枝、丹波哲郎の順になっている。丹波哲郎も若林映子のセリフも一部は、外人の吹き替えになっているようだ。
大里科学社長役のテル・シマダは、ハリウッド映画の日本人の悪役を演じている人だ。若い頃は、ハンフリー・ボガートの映画「東京ジョー」にも重要な役で出演していた。
ドナルド・プレザンスのスペクター首領ブロシェット像は、以後の007シリーズにも影響を与え、さらにマイク・マイヤーズの「オースティン・パワーズ」に大きな影響を与えた。
イアン・フレミングは1964年に亡くなっており、監修的立場として、親友だった大作家ロアルド・ダールが脚本として入った。1968年にはイアン・フレミング原作の「チキチキバンバン」も脚本を務めている。ロアルド・ダールが他人の原作に脚本参加したのは、これらだけだ。
スタッフ
監督 ルイス・ギルバート
製作 ハリー・サルツマン、アルバート・R・ブロッコリ
脚色 ロアルド・ダール
撮影 フレディ・ヤング
音楽 ジョン・バリー
原作 イアン・フレミング
主題歌 ナンシー・シナトラ「007は二度死ぬ」
キャスト
ジェームズ・ボンド ショーン・コネリー
タイガー田中(公安調査庁) 丹波哲郎
アキ(田中の秘書) 若林映子
キッシー鈴木(味方スパイ) 浜美枝
ブロフェルド(スペクター首領) ドナルド・プレゼンス
大里(大里化学社長) テル・シマダ
ヘルガ・ブラント(大里の秘書) カリン・ドール
‘M‘(上司) バーナード・リー
マニーペニー嬢(Mの秘書) ロイス・マックスウェル
‘Q‘(武器担当者) デズモンド・ルウェリン
***
田中は、ボンドを日本人漁師に変装させ、新たな女性スパイであるキッシー鈴木と島で結婚式を挙げさせた。島の火口湖の底を調べると、ボンドは敵の秘密基地を発見した。アメリカが「ジェミニ号」発射を早めたため、彼は単身で基地に乗り込む。しかしスペクターの大幹部ブロフェルドに捕まり、ロケットを止めることはできなかった。
田中と彼の育てた特殊忍者部隊が基地に特攻し、スペクターと激しい戦闘が起きた。ボンドは、慌てた敵の目を盗みロケットの爆破スイッチを押した。ブロフェルドは逃亡する直前に、火山を爆破するスイッチを押した。
大爆発の際、海上に脱出したボンドと鈴木は、ゴム・ボートに乗って抱き合った。すると海底から英国海軍の原子力潜水艦が浮上して、彼らの行為は丸見えになった。