名匠デイヴィッド・リーンが製作・監督した、英国での超音速ジェット機開発成功までの開発者やパイロット、家族の努力を描く白黒航空映画
脚本はテレンス・ラティガン、撮影はジャック・ヒルドヤード、作曲はマルコム・アーノルド

主演は名優ラルフ・リチャードソン、アン・トッド、共演ナイジェル・パトリック、ジョン・ジャスティン、ジョゼフ・トメルティ

あらすじ

1943年英国空軍将校トニー・ガースウエイトは、婦人部隊スーザン・リッジフィールドと結婚した。スーザンの父ジョン・リッジフィールドは巨大航空メーカーの社長で、最新式工場を所有し、超音速ジェット機の実験を繰り返していた。
スーザンの弟クリスは、父の期待に応えようとして初の単独練習飛行で亡くなった。そんなときでもスーザンには信じられないことだったが、ジョンは飛行機の設計を続けていた。

終戦とともに、トニーはジョンの会社にテスト・パイロットとして就職した。研究所では新型機プロメテウス号を開発していたが、この機が「音速の壁」をぶつかるとき、何が機体に起っているか不明だった。スーザンは、二人の間に生まれてくる子供のためにもトニーが試験飛行を止めるようにと頼んだが、聞き入れられなかった。トニーの操縦するプロメテウス号は音速に近づくとバランスを崩し、脱出する暇もなく墜落した。開発責任者ウィルには事故現場でトニーには想像力がなかったと言われる。スーザンはトニーの同僚フィリップと妻ジェスの家で悲しんでいるときに産気づいて、男の子を生み落とす。彼女はそのまま、フィリップとジェスの家に居つく。

ジョンは、フィリップにプロメテウス2号の試験飛行を命じた。フィリップには一つのアイデアがあった。かつて大戦中に戦闘機で音速近く出した時に、操縦桿を普通は引いて減速・下降するものだが、彼は操縦桿を押して加速・上昇する事で危機を回避したのだ。四度目のチャレンジで、二号機は遂に音速を突破した。
スーザンは試験中に父が震えているのを見て、老父の飛行機開発にかけた複雑な思いを初めて理解することが出来た。スーザンは父と同居することを決意する。

雑感

今から見ると、地味な映画である。しかし英国アカデミー総合作品賞(全世界映画を対象)および主演男優賞ラルフ・リチャードソン)、米国アカデミー録音賞を受賞しているように、当時は評価され大ヒットした。

最後にスーザンが父の気持ちを知る段は、親子役だけに説得力ある演技は素晴らしく見えた。しかし弟と夫の命を奪われたことも事実である。これからもテスト・パイロットの命を奪い続けるかもしれぬ父親を許せるのか。あるいは会社のマネージメントを引き受ける気なのか。その辺の脚本は甘いね。

常識で考えると、操縦桿を引くと機体のバランスが崩れるのは、空気抵抗だと思う。上昇することで空気が薄くなり、空気抵抗が小さくなり、かえって機体は安定すると思う。トニーは下降して加速しながらマッハ1を目指しているから、操縦桿を引かなければならないことに拘ってしまった。そこが「トニーには創造力がなかった」と言うウィルの台詞につながるのだろう。その割にウィルもフィリップが操縦桿を押すことに批判的だったが。

戦争前に英国の開発者フランク・ホイットルと彼が設立したパワージェット社を基にした物語である。ただし世界で最初に音速の壁を破ったのは、アメリカ空軍で1947年のことだった。当時は秘密主義だったので、アメリカに先を越されているとわからなかった。映画「ライトスタッフ」(1983)にちゃんと描かれている。

音楽は現代音楽家のマルコム・アーノルド(「戦場にかける橋」)の手になる。モーリス・ジャールと比較すると、この映画音楽は全く目立つところがない。しかし音楽が映画よりも良かった「アラビアのロレンス」は本末転倒だと思っている。

女優アン・トッドと監督である夫デビッド・リーンの共作と仕手は、最終作になる。その後、二人は離婚する。

スタッフ

監督・製作 デイヴィッド・リーン
原作・脚色 テレンス・ラティガン
撮影 ジャック・ヒルドヤード
作曲 マルコム・アーノルド
空中撮影 アンソニー・スクワイア
録音 ロンドン・フィルム・サウンド部 (アカデミー録音賞

キャスト

ジョン・リッジフィールド  ラルフ・リチャードソン
娘スーザン  アン・トッド
婿トニー・ガースワイト  ナイジェル・パトリック
同僚フィリップ・ピール  ジョン・ジャスティン
妻ジェス   ダイナ・シェリダン
開発者ウィル・スパークス   ジョゼフ・トメルティ
ジョンの息子クリス  デンホルム・エリオット
ウィンディ・ウィリアムズ  ジャック・アレン
フレッチャー   ラルフ・マイケル

超音ジェット機 Breaking The Sound Barrier 1952 ロンドン・フィルム製作 ブリティッシュ・ライオン・フィルム配給 東和1953年国内配給

投稿ナビゲーション