佐野洋の原作推理小説「重い札束」を高岩肇が脚色し、村山三男が監督した、贋札作りを扱った犯罪映画
主演は川崎敬三
共演は三條江梨子、高松英郎、見明凡太郎。白黒映画。

あらすじ

経営不振に陥り銀行が役員を送り込んだアジア化工は、やむなくリストラを行なった。若くして係長に就任するほど旧経営陣に近かった桧山賢二が閑職に回されるのは目に見えていた。桧山の恋人瑛子は、美容院に勤めているが、自棄になっていた桧山を必死に支えた。
桧山のもとに印刷屋宮川新平が訪ねて来た。宮川は、自作の千円札の贋札一万枚を百万円で買って欲しいと言う。紙幣にはナンバーの欄だけが空白になっている。桧山は、この誘惑にのってしまい、会社に辞任届を叩きつける。(退職金わずか20万円)

資金は、瑛子が美容院の先生に借りたものだが、元はと言えば近所の電気商から借りたものであり、もし瑛子が1ヶ月以内に返せない場合は電気商の愛人にならなければならない。瑛子は桧山に喝を入れたかったのだ。しかし桧山が贋札を扱うことは知らなかった。
桧山は、1ヶ月以内に一人で全ての札を捌けないと悟った。かつて学生運動に打ち込んでいた、同窓の石渡謙吉が今では易者見習いに落ちぶれていると桧山は知り、仲間に招く。しかし石渡の内妻千鶴子、千鶴子の情夫山口も秘密を知ったため、やむなく仲間に加えた。

四人は、石渡の部屋でCBから始まる番号を日夜札に印刷していった。そして出来上った贋札は、毎日のように商店で代金を払うのに使った。使用された贋札は発見され、ラジオ、新聞に「CB券事件」として報道された。そこで今度は印刷する番号を変えて、競輪場で偽千円札十枚を1万円に次々と両替していった。

そんな時、新聞に宮川の愛人樋口澄江が贋札を見つけたという記事が載った。もしや桧山を呼ぶ合図なのか?翌日、桧山は東京に戻った。澄江のバーに行った桧山は、宮川が贋札の共同製作者だった男を殺したことを知る。桧山は、宮川に知恵をつけて男の死体を東京湾に捨てさせた・・・。

雑感

前作までサラリーマン・スリラー・シリーズだったが、この辺りから「黒の○○」という題名の映画を「黒シリーズ」とまとめたようだ。この作品は、サラリーマン・スリラー第四弾「背広の忍者」の次の作品なので、「黒シリーズ」第五弾と呼ぶ人もいた。いつの間にか「黒の試走車」「黒の報告書」に続く第三弾とみなされるようになった。

1962年の中平康監督演出の日活映画「危いことなら銭になる」と同じ贋札作りがテーマだ。当時は精巧な偽造千円札が散蒔かれた「チー37号事件」(戦後37番目の偽造千円札事件の意味。未解決事件)など贋札事件が多発して、千円札のモデルが偽造防止のため、聖徳太子から伊藤博文に切変えられた程だった。

大映はその贋札というテーマ映画を中平康と同じ東大出の増村保造でなく職人の村山三男に撮らせた。
そのせいか手堅い一作なのだが、高松英郎たちの人間のギラギラした欲望が見えてこない。逆に主役の川崎敬三は、もっと気の弱さを見せて欲しかった。
要するにキャラクタの個性に抑揚がなかった。

ヒロイン三條江梨子は、フランソワーズ・アルヌール主演のスパイ映画「女猫」公開に因んで、三條魔子という芸名で新東宝からデビューするが、新東宝倒産後に大映に移籍した。そして1962年、橋幸夫の映画「江梨子」でタイトルロールとして橋と共演した。主題歌「江梨子」が大ヒットしたため、魔子は「三條江梨子」と改名した。
この映画でも彼女は華やかでなかったが、必死に演じていて好感が持てた。歌も上手く準ヒロイン級になれた人材だったが、残念ながら最初の所属会社に恵まれなかった。
初めから松竹か日活に入社した方が、もっと大きな役が付いたのではないか。

大映で歌手に挑戦したが、余りに正調過ぎたため、面白みに欠けてヒットせず、映画界に舞い戻った。そして大映が倒産したときに引退して渡米し結婚し、ラスベガスでカラオケ教室を開いているそうだ。

スタッフ

企画 藤井浩明
原作 佐野洋
脚色 高岩肇
監督 村山三男
撮影 宗川信夫
音楽 土橋啓二

キャスト

桧山賢二(課長)  川崎敬三
恋人柏木瑛子(美容師)  三條江梨子
石渡謙吉(占い師)  高松英郎
妻千鶴子  宮川和子
山口三郎(千鶴子の愛人)  杉田康
宮川新平(印刷屋)  見明凡太朗
樋口澄江(宮川の愛人)  藤原礼子
井上捜査三課長  北城寿太郎
桧山の同僚吉田(のちの課長)  中条静夫
檜山の部下渡辺  藤山浩二
交番の警官  大辻伺郎
アジア化工総務課長  丸山修
アジア化工新専務  花布辰男

ネタばれ

だが警察は、偽造札の印刷工としてマークしていた宮川を捜していた。捜査3課が宮川の愛人澄江の店に入った途端に異常に気付き、鑑識を呼んで宮川を殺人容疑で逮捕した。宮川は偽造犯に疑われて、真の偽造犯桧山の名前を吐露してしまった。
そのころ桧山らは、残った偽札の束を全て一万円札に両替するために伊東競輪場に集っていた。桧山は、これが終わったら一緒に旅行に出るため、瑛子を伊東競輪場に呼んでいた。警察は、恋人瑛子に尾行を付けていたので、伊東で桧山一味を一網打尽にした。

 

 

 

黒の札束 1963 大映東京製作 大映配給 黒のシリーズ第三弾

投稿ナビゲーション