(★)新聞報道される児童営利誘拐事件を描いた傑作テレビ・ドラマの映画化。
そのテレビ・ドラマと同じくシリル・ヒュームとリチャード・メイボウムが脚本を担当し、やはりテレビ・ドラマの演出を務めたアレックス・シーガルが初の映画監督を務めた。撮影はアーサー・E・アーリング。
主演はグレン・フォード、ドナ・リード。
共演はロバート・キース、レスリー・ニールセン。白黒映画。
1996年に公開されたロン・ハワード監督、メル・ギブソン主演映画「身代金」は、この映画のリメイクであるが、ラストは違う。
1955年9月から11月に撮影され、1956年1月にアメリカで公開される。日本では同年7月から公開された。
ストーリー
掃除機メーカーの社長デビッド・スタナードが息子アンディと遊ぶ約束をしたので早めに帰るが、息子アンディはまだ帰ってなかった。担任の先生は、ゴーマン医師の看護婦と言う女が健康診断を受けさせると言って連れ出したと主張するが、デビッドの友人ゴーマンはそんなはずはないと言う。
デビッドと妻エディスは、直ちに警察署長バケットに連絡する。バケットは計画的な誘拐と考え、スタナード家中の電話に逆探知装置が取り付ける。そこへタイム・クロニクル紙の記者チャーリーが情報を得て、どこからかスタナード家に入り込む。デビッドは、チャーリーに独占取材を許可する代わりに記事にするのをしばらく待たせる。
やがて犯人から50万ドルを要求する電話が掛かった。デビッドは会社の重役である兄アルに金の手配を依頼する。逆探知でも犯人の手掛りはつかめずエディスは半狂乱となり、鎮静剤を使い眠らされる。デビッドは今夜、スタナード社がスポンサーを行っているテレビ番組で犯人に身代金を払う意思表示をしようと決心する。
だが署長とチャーリーは、金を払うと約束すると子供を殺す確率が増えると言う。その言葉にショックを受けたデビッドは、テレビで身代金は払わない代わりに、子供が戻らぬ場合50万ドルを犯人逮捕の懸賞金にして追い詰めると犯人にテレビの生放送で語り掛けた・・・。
雑感
グレン・フォードならではの営利児童誘拐事件を描いたクライム・ムービー。被害者側がわざわざテレビに登場して、劇場型犯罪にしてしまっている。
アメリカでは身代金を払うときこそが逮捕の好機だが、その際に被害者は足手まといになるので既に殺されている可能性が高い。
子供の命を守るために、誘拐脅迫に屈せず身代金を払わない方が良い。
しかし、その理想を受け入れる父親が1950年代のアメリカにいたのにはビックリした。共和党アイゼンハワー政権のもとで、誘拐事件のたびに身代金を払うな、コピーキャットが現れると警察は主張していたのだろう。
また社長の決断として考えると、西部劇の時代ではないのだから身代金を払わないことは現実離れしている。例えば、マスコミから情報を得た掃除機販売会社の顧客(主に主婦層)に悪感情を与えるだろう。こうなると会社の業績は悪化し、従業員の生活を脅かす。
それでもわずかな確率に賭けて息子を助ける父親は偉い。しかし、これから先も平穏に暮らせるとは思えない。もちろん将来どうなっても、親子三人だけの生活を守る利己主義もアメリカ的だと思った。
レスリー・ニールセンは、映画デビューだったらしい。新聞記者ながら、父親に的確なアドバイスを送る、良い人の役だった。(65)
スタッフ
監督 アレックス・シーガル
製作 ニコラス・ネイファック
脚本 シリル・ヒューム、リチャード・メイバウム
撮影 アーサー・E・アーリング
音楽 ジェフ・アレクサンダー
キャスト
デビッド・G・スタナード(社長) グレン・フォード
エディット・スタナード(妻) ドナ・リード
チャーリー・テルファー(新聞記者) レスリー・ニールセン
ジェシー・チャプマン(執事) ファノ・ヘルナンデス
バケット署長 ロバート・キース
ラングリー(デビッドの兄) リチャード・ゲインズ
パートリッジ教師 メイベル・アルバートソン
ゴーマン医師 アレクサンダー・スクービー
エリザベス(兄嫁) ロリ・マーチ
キーシング保安官 ロバート・バートン
シャーリー・ロレーヌ(メイド) ジャニタ・ムーア
看護婦 メアリー・アラン・ホカンソン
***
新聞はクロニクル紙を除いて、どこも彼を非難する。起きて新聞を読んだエディスさえ、近くにある兄アルの家に移った。その上、アンディの服が血まみれで見つかった。アンディが殺されたと思ったデビッドは、心痛のあまりソファーに倒れ込む。
だがその夜、庭の遊具を見て呆然とするデビッドの前に突然アンディが無事な姿で現れる。アル宅からすぐエディスも飛んできて涙を流し、久しぶりに親子三人で抱き合ったところで映画は終わる。