1942年にウィリアム・ワイラー監督「ミニヴァー夫人」がアカデミー賞6部門独占したときは、アメリカ人にとっての第二次世界大戦はまだまだ対岸の火事だった。それが1944年になると、太平洋戦争だけでなくヨーロッパ戦線にも本格的に参戦し、人々が戦争に倦んでいた時代である。
そんな人々の心を癒やす映画として産み出されたのが、製作アーサー・フリードと監督ヴィンセント・ミネリのコンビによるミュージカル・カラー映画「若草の頃」だ。「若草の頃」は同じ四姉妹が出てくる映画「若草物語」と引っ掛けた安易なネーミング。
1904年の万博開催を前年に控えたアメリカ中西部ミズーリ州セントルイスで暮らす中産階級の家族の一年を描いたホームドラマで、観衆から喝采を持って出迎えられた。1944年から1945年までロングヒットとなり、興行成績は2位を続けた(その時の1位は常にパラマウント映画の「我が道を往く」)。
あらすじ
1903年夏、典型的中産階級スミス家の隣にトゥルーエット家が引っ越してきた。次女エスターは隣の青年ジョンが気になって仕方がない。長女ローズはウォレンと遠距離恋愛をしていたが、電話が遠くて話が進まない。長男ロンの大学入学記念パーティでエスターとジョンは出逢い、初対面から良い雰囲気になる。ところが初なジョンは気の利いた言葉を言えず、エスターをがっかりさせる。
秋になり、ハロウィンの夜、四女のトゥーティがケガをして帰ってくる。聞けばジョンにケガさせられたと言う。エスターはカチンと来て、ジョンをぶん殴る。その後、三女のアグネスが帰ってきて事の次第を伝える。トゥーティは市電を脱線させようとして警察に捕まり掛けた所をジョンに助けてもらったのだ。エスターは早速ジョンに謝罪すると、ジョンは優しく受け入れてくれた。これでエスターとジョンの距離はかなり縮まる。
セントルイス万博開催まで半年を切ったある日、勤務弁護士をしている父アロンゾに来年ニューヨーク所長への栄転話が持ち上がる。父は誇らしげだが、セントルイスをこよなく愛する家族はみんな落ち込む。エスターはセントルイス万博に行くのを楽しみにしていたのだ。
クリスマスイブに恒例の舞踏会が開かれる。ジョンはタキシードを洗濯に出していて参加出来ない。エスターはがっかりするが、兄姉、祖父と舞踏会に参加する。すると姉の恋人ウォレン、兄の想い人ルシルが突然現れ、兄姉共にダンスのお相手が出来てしまう。エスターは、冴えない青年達とイヤイヤ踊っていたが祖父が救い出し、そこへジョンがようやくタキシードを手に入れて、やって来る。そしてダンスの後、ジョンはエスターにプロポーズした。
その夜、エスターが家に帰ると、トゥーティはまだ起きてサンタクロースを待っていた。エスターに寝なければサンタクロースはやってこないと言われると、セントルイスを離れるストレスが限界に達して、皆で作った大きな雪だるまを次々と壊していく。その姿を見て父アロンゾは、家族のためにセントルイスに残り、出世を諦めることを決意する。
翌年の春、開催されたセントルイス万博会場にスミス家とウォレン、ルシル、ジョンの一行が現れ、中央会場での光のイベントを皆で眺めて、幸せに浸っていた。
アカデミー賞は四部門にノミネートされたが、受賞はならなかった。しかしトゥーティ役を演じた8歳のマーガレット・オブライエンがアカデミー子役賞を受賞した。これは特別賞に当たるもので、五年前にはジュディ・ガーランドも「オズの魔法使い」で受賞している。
歌は主にジュディ・ガーランドが歌っていて、
The Boy Next Door ジュディ・ガーランド
Under the Bamboo Tree ジュディ・ガーランド、マーガレット・オブライエン
Over the Banister ジュディ・ガーランド
The Trolley Song ジュディ・ガーランド
Have Yourself a Merry Little Christmas ジュディ・ガーランド
他インストルメンタル多数。
ジュディは「オズの魔法使」での大成功以来、MGMが超ブラック企業だったから寝かせないため、覚醒剤中毒にされてしまった。相手役トム・ドレイクの演技がしっかりしていなくて、ジュディはイライラしていた。ところが四女にマーガレット・オブライエンを起用することにより、配役に厚みが増し、監督もこの映画の持つ革新性をジュディに熱心に説得して(おかげでジュディ・ガーランドは最初の夫と別れてヴィンセント・ミネリ監督とすぐ再婚した)この映画は大成功を収めた。
ちなみに”Under the Bamboo Tree”でマーガレット・オブライエンがジュディ・ガーランドとカンカン帽を持って踊るシーンを視ていると、数年後、映画「哀しき口笛」で美空ひばりがシルクハットに燕尾服で踊っているシーンを重ねた。まだ日本では「若草の頃」上映前だったが、進駐軍映画で観たのかと思った。
美空ひばりとマーガレット・オブライエンは同じ歳だ。日本映画「二人の瞳」で1952年に共演もしている。ひばりが亡くなったとき、マーガレットはメッセージを寄せた。
かなり以前、セントルイス出身の女性とメールのやりとりをしていて、”Meet me in St. Louis” の話題が出た。彼女はこの映画をもっとも愛して、誇りに思っていたそうだ。しかし原題で急に呼ばれても、その時は何の映画かわからなかったので、「へえ、そう」としか言えなかった。それっきり音沙汰が無くなったw。
ミュージカル映画や唄のタイトルは原題で覚えておかなきゃ駄目だと悟った次第である。
監督 ヴィンセント・ミネリ
脚本 フレッド・F・フィンクルホフ、アーヴィング・ブレッチャー
製作 アーサー・フリード
配役
スミス家の人々
ローズ(長女):ルシル・ブレマー
エスター(次女):ジュディ・ガーランド
アグネス(三女):ジョーン・キャロル
トゥーティ(四女):マーガレット・オブライエン
ロン(長男):ヘンリー・ダニエルズ・Jr
アロンゾ(父):レオン・エイムズ
アンナ(母):メアリー・アスター
祖父:ハリー・デイヴンポート
メイド:マージョリー・メイン
恋人たち
ジョン・トゥルーイット:トム・ドレイク
ルシル・バラッド:ジューン・ロックハート
ウォレン・シェフィールド:ロバート・サリー
[amazonjs asin=”B0002GD4JG” locale=”JP” title=”若草の頃 スペシャル・エディション 〈2枚組〉 DVD”]