暴力映画に思われがちだが、全くそんなことはない。英国でロボトミー手術が行われていたか知らないが、犯罪者に一種の去勢手術を行い無気力人間を作る事あるいは福祉国家への批判映画だ。
スタンリー・キューブリックが製作、監督、脚本の一人三役。
主役はマルコム・マクダウェル。ポスターや予告編の凶悪な表情のおかげで、イメージが定着し仕事の幅が減ったのではないか。

あらすじ

ロンドンでは少年犯罪特にギャングが横行していた。15歳のアレックスはベートーベンの交響曲第9番を愛する少年だが、夜な夜な仲間の三人と暴れ廻っていた。ホームレスを袋だたきにしたり、ライバルの非行少年グループと衝突して敵のボスも倒してしまう。さらに郊外に住んでいる有名な作家アレクサンダー氏の眼前で若い妻を犯す。
ある日、猫を多頭飼育している老婆の家に強盗に入った後、仲間たちはアレックスを裏切って警察に売った。
刑務所でのアレックスは模範囚の振りをし続けた。政府はアレックスを気に入り、凶悪犯罪者の人格改造実験第一号に選ばれた。

暴力、セックス、音楽に対してアレックスは吐き気を催すようになり、彼は釈放された。自宅に帰ると、かつて彼の部屋にはジョーという下宿人が入りこんでいた。家を出ると2人の警官に捕まったが、彼らは以前アレックスを裏切った二人だった。暴力で支配されたアレックスに恨みを持っていた2人は森の中で、アレックスに暴行した。

這々の体で、見覚えのある家にたどり着く。目の前で妻を犯したアレクサンダーの家だったが、事件のため妻は自殺していた。アレクサンダーは反政府運動のために彼を使おうと決意した。翌朝アレックスは第九の響きで目をさます。彼は音楽に対する拒絶反応で、窓から真っ逆さまに落ちる。彼は政府の囚人無害化政策のせいで死んだというわけだ。

しかし、アレックスは重傷を負ったが一命を取りとめ、内務大臣はアレックスを元どおりに戻すと発表した。
やがてアレックスは政府の庇護のもと、前のようにいつでも好きなことができる特権が与えられる。

雑感

アイデアは面白かった。しかし「2001年宇宙の旅」同様に視聴者を混乱させる。
単なるロボトミー反対運動かと思っていたら、未来の英国ではもっと原始的な「パブロフの犬」的条件付けで凶悪犯を矯正するつもりのようだ。
さらに政治に巻き込まれていくアレックスは、保守派に捕まり元来は大好きなベートーベンの交響曲第9番によって自殺未遂に追い込まれる。
アレクスは政権に味方して世論を押さえ込むことで、安穏な生活が保障される。福祉国家に対する風刺だろうか。

しかし根本的な解決ではないから、これで良かったとはとても言えない。政権交代すれば、本質的に凶悪なアレックスは野に放たれ、どうなるか不明だ。

ベートーベンの第九は好きな曲だから、この映画は少し不愉快に感ずる。

スタッフ

製作・監督・脚本 スタンリー・キューブリック
原作 アンソニー・バージェス
撮影 ジョン・オルコット
音楽 ウォルター・カーロス
編集 ビル・バトラー
美術 ラッセル・ハッグ 、 ピーター・シールズ

キャスト

アレックス マルコム・マクダウェル
アレクサンダー氏 パトリック・マギー
仲間ディム ウォーレン・クラーク
仲間ジョージィ ジェームズ・マーカス
ブラナン医師 マッジ・ライアン
刑務所長 マイケル・ガバー
刑吏 マイケル・ベイツ
アレクサンダー夫人 エイドリアン・コリ
大臣 アンソニー・シャープ

時計仕掛けのオレンジ A Clockwerk Orange 1971 英ポラリス・プロ製作 ワーナー・ブラザーズ配給

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