英国人アンソニー・ホープの1894年の小説「ゼンダ城の虜」(王子と遠戚ながら知らなかった主人公が王子を助け王位に就かせる物語)を基にして、山手樹一郎が1940年に書いた痛快時代劇小説を1952年に監督衣笠貞之助、主演長谷川一夫で映画化(前後編)したが、それを1957年に監督三隅研次、主演市川雷蔵でリメイクした作品である。
共演は浦路洋子、木暮実千代、堺駿二、河津清三郎ら。
スタンダード・カラー映画。
あらすじ
浅草に桃太郎と名乗る、滅法強くて悪い奴を倒すのが趣味という浪人が突然現れた。掏摸の小鈴は色仕掛けで桃太郎を落とそうとするが、桃太郎の方が一枚上だった。猿の伊之助はその人柄に惚れ込み、自分の長屋に住まわせる。
小鈴の伝で讃岐若木藩の次席家老伊賀半九郎から桃太郎に仕官の口がかかる。しかし桃太郎は主を持つ身になる気はないと言う。一方、悪漢に襲われるところを桃太郎に救われた百合という武家娘が讃岐若木藩の若様帰藩の際の用心棒を依頼してきた。どうやら若様はお家騒動で命を狙われているらしかった。それも桃太郎は断る。
実は桃太郎は若木家長男新之助君の双子の弟であった。当時は双子を嫌う風潮があったので、生まれてすぐ生母がお暇を出され、その際に弟(新次郎)だけ母に連れられて城を出たのだ。
しかし兄新之助が江戸で毒を飲まされて倒れたので、桃太郎は兄の枕元で不義理を恥じ詫びた。そこへ伊賀半九郎が上京してきて若様に御目通りを願いたいと言う。そこで桃太郎は兄になりすまし、会見する。実は伊賀が若君暗殺の主犯であり結果を見にきたのだが、元気な顔をして若君が姿を現したから驚いたのだ。この偽若君は予定通りお国入りすることを伊賀に告げた。
偽若君は、何度も刺客に襲われたが、百合と伊之助を連れて無事讃岐に辿り着く。その頃には伊賀も小鈴から偽若様の正体が桃太郎と聞かされていた。
偽若様は、殿が重病とのことで、かつての傅役右田外記の屋敷に宿泊する。その夜伊賀の屋敷に来なければ、小鈴を斬ると記した書状が届く。伊之助は止めるが、偽若様は聞かず単身で伊賀の屋敷に向かう。
桃太郎は多勢の家来に囲まれ、あわやのところで小鈴が桃太郎を守り撃たれる。二人は縛られて小屋に押し込まれ、伊賀は火を放った。手負いの小鈴は大火傷を負いながら桃太郎の縄を解く。今際の際に小鈴は主席家老鷲塚主膳が世継ぎに推す萬太郎が、実は愛妾お梅の方と鷲塚の不義によって産まれた子供であると明かした。そして伊之助が床下から床板をぶち抜いて桃太郎を助け出す。
外記の屋敷に戻ると、兄新之助が快復して讃岐にやってきた。新之助は弟の存在を今まで知らされていなかったことを詫び、兄弟の絆が生まれた。
そのとき登城の太鼓が鳴る。若君新之助は自ら城へ乗り込み、鷲塚と伊賀の悪事を暴く。彼らが抵抗すると、桃太郎が現れ伊賀と一対一の勝負を挑む。苦戦しながらついに桃太郎は伊賀を倒した。
そして新之助が讃岐藩の後継となるのを見届けて、桃太郎は百合とともに江戸へ発つのだった。
雑感
市川雷蔵の初期主演作だが、なかなか痛快だった。
相手役は浦路洋子だが、実質的ヒロインは木暮実千代である。貫禄が違った。浦路洋子は1956年大映入社で大映時代劇にしては、東映時代劇女優のようなタイプ。鬘が合っていないが、顔が小さいからだ。
雷蔵は格好いいが、殺陣では河津清三郎の敵ではなかった。要するに雷蔵は下手だった。この後、雷蔵だけにしかできない流麗な殺陣を作り上げていく。
スタッフ
監督 三隅研次
製作 酒井箴
原作 山手樹一郎
脚色 八尋不二
企画 高桑義生
撮影 杉山公平
音楽 齋藤一郎
キャスト
桃太郎(新次郎)/若木新之助 市川雷蔵
江戸家老の娘百合 浦路洋子
次席家老伊賀半九郎 河津清三郎
掏摸の小鈴 木暮実千代
猿(ましら)の伊之助 堺駿二
城代家老鷲塚主膳 杉山昌三九
傅役右田外記 香川良介
江戸家老神島伊織 清水元
大滝鉄心斎 細川俊夫
高垣勘兵衛 植村謙二郎
慈海和尚 荒木忍
お梅の方 若杉曜子