ヴィム・ヴェンダース監督のカンヌ国際映画祭監督賞受賞作品。
ヴェンダース監督の「パリ・テキサス」は見たことがある。良い映画だったがカンヌ映画祭パルムドールを取るほどのものかなと思った。それ以来ヴェンダースは敷居が高くなって、この「ベルリン・天使の詩」もまだ見ていなかった。30年経って見てみたら、非常に素晴らしい映画だったw。アイデアといい演出といい、キャスティングといい見事な映画だ。

アイデアは簡単。天使、堕天使は本来死ねないが、いわば還俗して死すべき人間になることはできる。二度の世界大戦を起こし一度は廃墟となり東西に分裂させられたベルリン、ここにいる天使は天界を追放された堕天使だ。天使であれ堕天使の姿は子供達には見える。天使から見て世界はモノクロだが、人間から見るとカラーがついて見える。

基本的設定はここまで。脚本は殆どない。一人一人の心の中身は詩人が書いたものもあるしアドリブもある。

ホメロス というベルリンの生き字引みたいな老人が読むユダヤ系批評家ベンヤミンのエッセイを天使カシエルが聞いている。ホメロスの戦前のベルリンとポツダム広場に関する言葉(ナチス前の平和な社会とナチス後の暴力的社会)は映画全体の通奏低音になって最後まで視聴者の心に響いている。
天使の一人ダミエル(ブルーノ・ガンツ)はアメリカ人俳優ピーター・フォーク(本人)と出会い、人間になることを勧められる。(実はピーターも以前は天使だった)ダミエルは空中ブランコのマリオンを愛していた。ダミエルはサーカス団が解散した日に還俗してマリオンの前に現れる。ところがマリオンは平然としてダミエルに向かって歴史に関われとアジるのだった。要するにベルリンの壁をいつか壊そうと言ったのだ。

監督 ヴィム・ヴェンダース(カンヌ国際映画祭監督賞)
脚本 ヴィム・ヴェンダース 、 ペーター・ハントケ
製作総指揮 イングリート・ヴィンディッシュ
撮影 アンリ・アルカン(ローマの休日)
音楽 ユルゲン・クニーパー
 

Damiel ブルーノ・ガンツ
Marion ソルヴェイグ・ドマルタン
Cassiel オットー・ザンダー
Homer クルト・ボウワ
Peter Falk ピーター・フォーク

 
恋愛と戦争を結びつける発想の原点は映画「二十四時間の情事」だったらしい。そして20世紀初頭の思想家ベンヤミンと彼が大事に持っていたパウル・クレーの素朴画をヒントにして、監督はこの映画を作ったらしい。彼らはともにナチスに迫害されドイツから亡命を余儀なくされた人たちである。
 
ただ、この映画を作ったのはベンヤミンでもパウル・クレー、リルケでもない。あくまでヴィム・ヴェンダースの思想に基づいて造ったものである。
次のドイツ政権が移民排斥の方向に舵をとると、喉元過ぎて暑さ忘れることになる。
ベンヤミンは負けた側の歴史を語り部として伝えるべきと言ったに過ぎない。
壁を取り払って元に戻せば何もかも元に戻るかもしれない。しかし移住して来た民族をドイツ人がまた迫害するならば何も変わらない。
広島みたいに残した方が良いものもあるのだ。

ベルリン・天使の詩 1987 西独+フランス

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