(★)大戦後すぐにヒスパニック系少年が白人少女殺人容疑で逮捕されたために起きる騒動を描いた法廷映画

ドン・M・マンキーウィッツの原作小説を彼自身で脚色し、職人マーク・ロブソンが監督した。
撮影はロバート・サーティースが担当している。

主演はグレン・フォードドロシー・マクガイア。グレン・フォードは「暴力教室」に続いて、少年をテーマにする映画を主演した。

共演はアーサー・ケネディジョン・ホディアクカティ・フララファエル・カンボス

製作は「傷だらけの栄光」のチャールズ・スクニー。白黒映画。
日本では1956年公開。

ストーリー

カリフォルニア州サン・ジュノ(多分、架空の町)という田舎町が舞台。
海岸で白人少女が死んでいた。殺人事件として、死体発見者のメキシコ系少年エンジェルが殺人犯として起訴される。
州立大学の法学部助教授ブレイクは徴兵されていたため、裁判実務の経験が足りなかった。そこで法廷経験を得るため、キャッスル法律事務所で働くことになり、初めからこの事件を任せられる。ブレイクはもっと小さな事件を扱うと思っていたので、意外だった。
キャッスル弁護士は、エンジェルの母親コンスレラに留置場で会い、絶対服従を強要した。彼は、ブレイクを主任弁護人に指名すると、弁護資金を集めるためニューヨークで募金活動を始めた。キャッスルの秘書アビーは、ブレイクの公正と正義を重んじる態度に強く共感を感じながらも、何かを隠しているようだった。

アビーは、裁判前に裁判所が決めた陪審員候補を探偵会社に依頼して人種差別主義者かどうか逐一調査した。それにより裁判開始直後に黒人判事モトリーが提示した陪審員候補十二人をブレイクは次々に拒否した。
週末にブレイクはキャッスルに呼ばれ、ニューヨークへ行った。そこでブレイクは、キャッスルに民衆党幹部と党員に紹介される。その途端、民衆党が共産主義者の集まりであり、キャッスルは幹部をしていて、裁判弁護資金の多くを政治資金として党に横流ししていることに気付いた。
サン・ジュノに帰ったブレイクは、アビーに問い詰める。そして彼女も民衆党員だったことを知った。しかし、アビーはキャッスルや党のやり方に幻滅していたと言い、彼もその言葉を信じた。

公判は再開された。ブレイクの誘導で、少女の主治医は少女がリューマチ熱の後遺症で心臓が弱く長くもたない体だったことを証言する。必ずしも暴行がなくても自然死する可能性があったのだ。ブレイクの熱意溢れる弁護のおかげで、判事や陪審員の被告に対する態度が軟化した・・・。

雑感

「アラバマ物語」(1962年)より7年早く映画化に成功した、ヒスパニック人種差別法廷劇。しかも白人でなく、ヒスパニック民族がメキシコ人であるエンジェルを私刑にしようとするあたり、人種差別の根深さを思わせる。

二年前(1953年)に赤狩りの嵐が襲ったハリウッドで、政治色の強い映画を成功させるには、労働組合や共産主義者を敵に回して政治に興味のない弁護士を主人公にするしかなかった。
しかし、この映画の見方によっては、例えば共和党であっても民主党であっても、被告の敵ならば戦うという意味にも取られる。だから、内容は結構リベラルだと思う。

また、現代では被告エンジェルの無罪判決も十分ありえたわけで、今から考えると、人種差別的な判決でしかない。裁判の進行を妨害し有罪にしてしまったキャッスルは、現代ならもっと重い罪が与えられただろう。

アーサー・ケネディは、ゴールデングローブ助演男優賞を受賞。
ドロシー・マクガイヤは、いつも煙草ばかり吸っていて、あまり好きなタイプの女優でないが、何故か見たい映画にいつも出ている。
グレン・フォードは、美味しい役をいつも貰う人だ。普通だったら、カーク・ダグラスかバート・ランカスターが取ってしまう配役だろうが、この映画の場合は低予算だったのだろう。(80)

スタッフ

製作  チャールズ・スクニー
監督  マーク・ロブソン
脚色、原作  ドン・M・マンキーウィッツ
撮影  ロバート・サーティース
音楽  ダニエル・アンフィシアトロフ

 

キャスト

デビッド・ブレイク州立大学法学部助教授  グレン・フォード
アビー(秘書)  ドロシー・マクガイア
キャッスル弁護士  アーサー・ケネディ
アームストロング地方検事  ジョン・ホディアク
コンスレラ・チャベス夫人   カティ・フラード
被告エンジェル・チャベス  ラファエル・カンポス
判事テオドア・モートリー  ファノ・ヘルナンデス
留置所長  ロバート・ミドルトン

 

***

キャッスルは、白人、ヒスパニック両方とも人種隔離政策に賛成する者がエンジェルこそが犯人だと決めつけることから、エンジェルを死刑にして殉教者を作り上げてマスコミの話題にしてもらい、さらに寄付を募って民衆党の基盤を強固にしようとしていた。
キャッスルは、ニューヨークから戻ってきて早々、共同弁護人として部下ブレイクの反対を押し切り、少年を検事の反対尋問の矢面に立たせた。
その結果、陪審員の評決は有罪となった。エンジェルの母親は、キャッスルの入れ知恵もあり、判事の判決前にブレイクを解任する。

裁判長がエンジェルに死刑を宣告しようとしたとき、ブレイクが入廷し発言を求める。彼は今度の裁判が公正さを失ったのは、キャッスルの政治活動と民衆党ら共産主義者が資金集めしたせいだと告発した。
さらにエンジェルのためには、重罪の可能性があっても刑法でなく柔軟に少年法を適用すべきことを主張した。州知事を目指すアームストロング地方検事も、死刑から不定期刑へ求刑を減刑した。そこで判事はエンジェルは少年院に収容することにした。さらに、判事は法廷を侮辱したとしてキャッスルに対して30日間の勾留を命じた。

アメリカの戦慄 Trial (1955)MGM製作・配給 グレン・フォード主演法廷劇

投稿ナビゲーション