クライスラー社のダッジ・チャレンジャーに乗って、デンバーからサンフランシスコまでぶっ飛ばそうとする男と、応援するディスク・ジョッキーや市民たち。それを警察はメンツを掛けて追い詰める。ベトナム戦争で反体制に走り、覚醒剤を常習するなった人々を描くアメリカン・ニューシネマ

製作はノーマン・スペンサー、監督はリチャード・C・サラフィアン
スタッフも優秀で、マルコム・ハートの原作小説をギラモ・ケインが脚色し、ジョン・A・アロンゾが見事に撮影している。
音楽はデラニー&ボニー&フレンズ、マウンテン、ジェリー・リード、ビグ・ママ・ソーントン、キム・アンド・デイブが参加している。

主演はバリー・ニューマン、共演はディーン・ジャガー、トニー賞を受賞したことがあるクリーヴォン・リトルビクトリア・メドリンティモシー・スコットギルダ・テクスター
デラックスカラー、パナビジョン。

あらすじ

コワルスキーは、ベトナム戦争に海兵隊員として参戦し負傷して、名誉の除隊となった。その後、警察官、オートレースのドライバー、カーレースのドライバーと職を転々とした。今は車の陸送業をやっている。車の修理屋から、ダッジ・チャレンジャーをレース用に改造した車を、デンバーからサンフランシスコまで陸送するように頼まれる。修理屋からは泊まって行けと言われたが、イカした車を眠らずにぶっ飛ばしたいので覚醒剤を取りに、コワルスキーはバーに立ち寄った。そこで彼は、サンフランシスコまで15時間で着くという賭けを店の主人とした。

ヤクで恐怖心を失ったコワルスキーは早速デンバーから、信号のない道路で爆走する。オートバイ警官が追跡し始めた。しかし道路から外れダートに入ると、オートバイは転倒してしまった。ユタ州に入る州境では、警察により、バリケードが張られた。しかしコワルスキーは、改造チャレンジャーでバリケードを突破してしまう。

その知らせを聞いた盲目のDJスーパーソウルは、警察無線を傍受して、コワルスキーに情報を流した。ユタ州からネバダ州に入ると、再び警官がパトカーでしつこく追跡してきた。警察に追い詰められ、パトカーでは入れない砂漠にコワルスキーは逃げ込んだ。
しかし悪路のためチャレンジャーのタイヤがパンクした。彼はタイヤを交換したが、横を見るとガラガラ蛇が牙を剥いていた。歴戦の雄コワルスキーもヘビには弱かった。危機一髪のところを砂金取りの老人が通り掛かり、捕まえてくれる。老人は、砂漠を脱出する道を教えてくれ、ガソリンの持っているヒッピーの集団に紹介してくれる。
コワルスキーは、老人に砂漠からの脱出コースを教えてもらい、さらに逃亡を続けた。彼は、アメリカン・バイクに乗った男エンジェルと出会う。エンジェルは、コワルスキーのファンで、何か手伝えることはないかと尋ねる。そこでコワルスキーは、効き目が切れ始めていた覚醒剤をエンジェルから分けてもらう・・・。

雑感

アメリカン・ニューシネマの一つ。スピード狂のユダヤ人が巻き起こす暴走劇の顛末を描いている。興味深いことは、何故こんな事件を起こしたか最後まで分からないこと。おそらく、徹夜で運転するため、覚醒剤を飲んでハイになってやらかしてしまったのだろう。それでも彼の背景を知ると、単にそれだけとは言えない「何か」がある。

映画の最初のうちは、コワルスキーのことを何も知らない。話が進むにつれ、彼は何度もフラッシュバックを起こして、その度に記憶の断片を思い出すのだ。
オートバイ・レースで転倒したが起き上がって再出発したこと。カー・レースでも事故ったこと。警察官だった時、同僚が娘に乱暴しようとしたので、助けたこと(その娘が、道中のガソリンスタンドで働いているのを見つけたが、何も言わずに去った)。別れる思い出に、付き合っていたGFと海に行ったが、止めるのを聞かずに彼女はサーフィンをして遭難したこと。
そう言うランダムな回想を散りばめることにより、コワルスキーという人物がわかってくる。ベトナム戦争へ行って、名誉の負傷で米国に帰ってきて、警察に就職できる。しかしそこは、不正まみれの場所であり、喧嘩して解雇され、オートレーサー、カーレーサーと転職しながら勝てず、最後は車の陸送業者になっている。
実は脚本家ギラモ・ケインは、カストロ政権キューバに育ち、自由に対して、普通の米人と違う味方を持っていた。

そこまでわかると、観衆はコワルスキーを応援したくなる。映画の中の観衆と同じ気持ちにシンクロするわけだ。

何故、コワルスキーはサンフランシスコで死んだのか?
二台のパワーショベルの間に夕日の光が見えていた。その光に近づきたかったのだろう。越えさえすれば、抑圧のない自由があると考えたのではないか?

話題になったのは、ラリって全裸でオートバイに乗っている少女ギルダ・テクスターだ。ポール・コスロと付き合っていて、監督と会って採用されたシンデレラ・ガールだ。
技術的には、ジョン・アロンゾの撮影が良かった。車のスピード感がよく出ていた。

それから新興宗教のヒッピー集団の中で歌っていたのが、エリック・クラプトンとも一緒に演奏していたデラニー&ボニー&フレンズである。

フォックスの重役たちの試写会では酷評され、アメリカ国内ではすぐ公開が打ち切られた。
ところが、ヨーロッパや日本で大絶賛されて、アメリカで再公開が望まれるようになり、1972年「フレンチ・コネクション」の併映としてアメリカ国内の劇場で再び上映されて、「バニシング・ポイント」は不滅の映画となった。

同年7月公開の「断絶」も似た映画だったが、筆者は「バニシング・ポイント」の方が好きだ。

ロケ地は、コロラド、ユタ、ネバダ。

スタッフ

製作総指揮  マイケル・ピアソン
製作  ノーマン・スペンサー
監督  リチャード・C・サラフィアン
脚色  ギラモ・ケイン
原作  マルコム・ハート
撮影  ジョン・アロンゾ 
チャレンジャーのエンジニア  マックス・バルコフスキー
コワルスキーのスタント ケアリー・ロフティン 

キャスト

コワルスキー運転手  バリー・ニューマン
スーパーソウル(盲目のDJ)  クリーヴォン・リトル
砂金取りの老人  ディーン・ジャガー
ベラ・ソーントン  ビクトリア・メドリン
若い警察官  ポール・コスロ
年上の警察官  ボブ・ドナー
エンジェル(砂漠のヒッピー)  ティモシー・スコット
全裸ライダー  ギルダ・テクスター
新興宗教の司祭ホヴァー  セヴァーン・ダーデン
ホヴァーの歌手たち  デラニー&ボニー&フレンズ

 

***

そのとき、スーパーソウルから脱出コースを教える通信があった。しかし、彼の感覚が研ぎ澄まされたのか、いつもと雰囲気が違う気がする。そこで、エンジェルが偵察を買って出る。彼の偵察中、バイクに乗った全裸娘がいて、コワルスキーを誘うが、いつエンジェルが戻ってくるか分からないので断った。
コワルスキーの読み通り、警察は罠を張っていた。エンジェルは、捨ててあったサイレンをチャレンジャーに取り付けることを提案した。そこで覆面パトカーに化けて、非常線を突破する。
カリフォルニア州に入り、コワルスキーのチャレンジャーは、サンフランシスコに近付く。州警察は、最後の手段として巨大なパワー・ショベル二台で行手を塞いだ。コワルスキーは微笑を浮かべながら、パワー・ショベルに突っ込んだ。彼のチャレンジャーは、衝突して火を吹きながら空を舞った。

 

 

 

 

バニシング・ポイント Vanishing Point (1971) キューピッド・プロ製作 20世紀フォックス配給 ダッジ・チャレンジャーを世界的名車にした映画

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