ソーシャル・ゲーム界で飛ぶ鳥を落とす勢いの「ウマ娘プリティーダービー」にハルウララが登場し、あのブームが再燃している。

この作品は、2004年に高知県競馬で連敗し続け大新聞に採り上げられて、武豊騎手が騎乗するなど、その人気が社会現象になった競走馬ハルウララの113連敗をもとに映画化された。
感動作の筈なのだが、とんだ裏話があったため高知県で先行上映されただけで、お蔵入りになった作品である。

「津軽じょんがら節」や「祭りの準備」などの脚本家中島丈博の原案・脚本を森川時久が監督した。
主演は渡瀬恒彦、共演は賀来千香子、忍成修吾、竹中直人

あらすじ

高知競馬の調教師、宗石大はどんな勝てない馬もいつまでも走らせている。しかしバブルが崩壊して、出走手当が値下げされて、厩舎の経営が困難になる。宗石とともに厩舎経営に奔走してきた妻綾子は娘を連れて家を飛び出し、実家に身を寄せる。

宗石厩舎でアルバイトをしていた藤原が騎手になりたいと言う。そこで地方競馬騎手の試験を受けて合格したらまた尋ねて来いと宗石は答える。
しかし一年後、藤原はやって来て2回受けたが共に落ちたと言う。そこで厩務員として入厩したばかりのハルウララを世話することになる。

しかしハルウララが一勝もあげられないまま、5年が経過する。
競馬組合は、ハルウララが88連敗したことを全国紙各社に流す。するとそのうちの一社が、負けても負けても走る姿を取り上げて、全国ニュースになる。そして負け続けるうちに、一大ブームとなり、ハルウララは高知競馬の救世主になる。

宗石は負けてばかりの馬が話題になって心苦しかった。競馬組合は、中央競馬の武豊騎手に騎乗依頼した。桜の咲く頃に武豊が騎乗してくれたが、やはり負けてしまった。勝利至上主義の馬主武市や中西調教師は、露骨に宗石に嫌がらせを行なった。

そこで宗石は、2004年の夏に引退レースを挙行することを競馬組合管理者に告げる。その代わり、最後に勝利を目指して藤原厩務員と綿密にトレーニング計画を練る・・・。

 

雑感

のどかな地方競馬は、勝利至上主義ではない。才能ある馬は中央競馬に取られて、残った安馬しか入厩しない。とは言え中央G1(昔は八大競走)を勝つ地方出身馬もいて、キヨフジ、ハイセイコー、オグリキャップなどが登場してきたのだが、最近は中央競馬の社台ファームとノーザンファームが強くて、地方出身の活躍馬はかなり少なくなってしまった。
大井や船橋のような大きな地方競馬場を別にして、田舎ののどかな地方競馬場でこのような才能のない馬を短い間隔で出走させるのは出走手当稼ぎが目的だった。ただ、それをはっきりと断言してしまうと、客から勝つ気がないのは八百長だと叩かれるので、口を濁している。

ところが、ハルウララは負けが混みすぎて、存在が表面化してしまった。競馬場のアナウンサーが初めに気付いたそうである。さらに高知県競馬組合が客寄せのために、このことを全国紙に流してしまった。それで宗石や藤原は、時の人として扱われ出したのだ。
持ち上げるマスコミやにわかファンと違い、調教師仲間から宗石に非難の声が上がった。武豊騎手でさえ、実際は騎乗するのを嫌がったのだ。

それもハルウララの馬主が競馬ライターの安西美穂子になるまでの話だった。だから映画の最後の部分はフィクションである。

2004年8月3日の特別戦を三着で終えたハルウララを、馬主側は休養が必要として、栃木県那須の牧場に連れ去る。その後、宗石と安西の話し合いで2005年3月に引退レースを行うという発表が行われる。
しかし安西が約束を一方的に反故にして、両者は物別れとなる。2005年には、ハルウララが引退したと言う映画が高知県で公開されてしまう。そこで映画の撮影で馬を疲れさせたという噂が流れた。結局、走ることのないままハルウララは、2006年に競走馬登録を抹消された。

そこまでならば良いのだが、ハルウララを安西が金儲けの手段としているという噂が流れ出す。実際、引退前の2005年に森田健作前千葉県知事を担ぎ出しハルウララ基金を立ち上げハルウララに全国巡業させようとしたり、2009年にハルウララと七冠馬ディープインパクトと交配させるための資金集めをしたが、いずれも挫折したため実現していない。

挙句に2013年になると、千葉県御宿町のマーサ・ファームにハルウララを捨馬したのだ。つまり預託を依頼しておきながら、預託料を途中から払わなくなり逃げてしまったのだ。
マスコミでは行方不明になったと話題になったが、マーサ・ファームは、「春うららの会」を立ち上げて、ハルウララが余生を生きていくための資金集めをしていることがわかった。木更津警察署のポスターにもハルウララは登場しており、CMタレントとしても活躍している。
さらにゲーム「ウマ娘プリティーダービー」の大ヒットである。安西は今頃畜生と思っているだろう。
ハルウララに会いたいという人は、前もって連絡が必要だ。高齢馬だから、コロナ禍のご時世は人参と林檎を贈るぐらいにして、しばらくそっとしておきましょう。

 

自分は、勝たない馬はダメな馬と思っていたが、人生も終盤に向かってくると、ダメな馬に「お前はダメなやつだ」と言えるだけの資格があるのかと自問してしまう。走ることに関してダメな馬でも、「無事是名馬」とも言えるわけだから、生き残るチャンスを与えてもいいと思うようになってきた。
大体、負け続ける馬は、最下位を何度も続けたら処分される。だから、一瞬だけ見せ場を作って、4、5着ぐらいでゴールインする。たまに3着になる時もある。それでも多くは故障する。ハルウララは、六年間故障らしい故障もなく走ったのだから、立派な無事是名馬だと思う。

俳優欄を見ると、この程度の独立映画にしては顔ぶれが揃っている。これは映画・テレビドラマの名脚本家の中島丈博が原案・脚本を書いていたからだろう。

賀来千香子は、まだお美しい。でももう少し太ったほうが、役は増えたのに。これからは、老け役で頑張ってほしい。
渡瀬恒彦は、「一杯のかけそば」でも主演していたが、胡散臭い映画に何故か呼ばれるタイプだ。これも、その筋の知り合いから乗せられたのだろう。

今や、馬券のネット販売の時代に入り、高知競馬は2016年から黒字転換して、盛り上がっている。
宗石調教師は、ハルウララの引退後、連敗記録に懲りて、2回最多出走記録を塗り替えた。現在は、門別にいるダンスセイバーが0勝200連敗以上を達成したそうだ。

スタッフ

監督:森川時久
プロデューサー:三村順一
原作:中島丈博 (彼は高知育ちである)
脚本:中島丈博 (「津軽じょんがら節」「祭りの準備」などの名脚本家)
音楽:服部克久

キャスト

渡瀬恒彦(調教師宗石大)  
賀来千香子(元妻綾子)
原知佐子(綾子の母)
忍成修吾(厩務員藤原健祐
七海まい(娘宗石美佳)
前田吟(馬主武市量樹)
ガッツ石松(ファン尾崎喜作)
竹中直人(調教師中西秀勝)
嶋大輔(高知県競馬組合課長)
高知東生(高知県競馬組合職員)
司葉子(ナレーター)
武豊(中央競馬騎手、実際のレースビデオで登場)

ネタばれ

そして迎えた最後のレースに、ハルウララの妹も弟も出走してくれた。宗石は、最高の仕上げでハルウララを送り出す。レースに見せ場を作ることはできたが、結果は二着に終わる。絶縁状態だった中西は、宗石が最後に本気でハルウララを仕上げてくれたことに感謝する。

ハルウララが牧場に引き取られて行った。娘の美佳は大阪へ美容師の修行に行くことが決まり、娘と恋仲だった藤原厩務員も退職する。急に寂しくなった宗石と元妻綾子は、久しぶりに夕食を共にする。
ハルウララは、父ニッポーテイオーのいる牧場に引き取られ、余生を過ごしている。

 

 

 

ハルウララ 2004 キネマスターフィルム製作・配給 高知県限定公開(2005.4) Gyao配信(2007)

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