イラク戦争でアメリカ史上最多狙撃数を誇るスナイパー、クリス・カイルがいかに戦い、いかに死んだかを描くことにより戦争の虚しさを語る問題作だ。
監督はクリント・イーストウッドで、クリス・カイルの伝記を元にしてジェイソン・ホールが脚本を書いた。アカデミー音響編集賞を受賞。
主演はブラッドリー・クーパー。妻役はシエナ・ミラー。
あらすじ
テキサス生まれのクリス・カイルは、父親から狩猟を教えられる。ロデオを生業にしていたカイルは、1998年のアメリカ大使館爆破事件をきっかけに三十歳にして海軍へ志願する。厳しい訓練を終えて、エリートの特殊部隊シールズに配属される。
2001年アメリカ同時多発テロをきっかけにして、イラク・アルカイダとの戦争が2003年に始まり、カイルも戦地への派遣が決まり、恋人タヤと慌てて合同結婚式に参加する。
射撃の腕を買われて、イラク戦争で狙撃兵となったカイルは軍内で「レジェンド」と称賛される。しかし敵から「悪魔」呼ばわりされ、賞金首にされてしまう。
アルカイダの大幹部ザルカーウィーを探索する過程で、カイルは1000mもの距離を楽々狙撃してしまう元オリンピック射撃競技メダリスト「ムスタファ」と何度も死闘を行う。
戦友が戦死し、弟が心を病み戦場を離れる様子を見て、カイルは戦地から一時帰国を許されるたびにカイルと妻子の心の溝が広がった。彼もPTSDを病んでいたのだ。
2009年最後の派遣時にカイルは、ついに1キロ以上離れた地点にムスタファの姿を捉まえる。死んでいった仲間のために撃った銃弾はムスタファの頭を貫通する。こうして長い戦いは終わった。
帰国したカイルにPTSDの診断が下り、医師の勧めで傷痍軍人たちと交流を始める。ある日、射撃訓練場で同じPTSDを患う退役軍人に射殺される。
雑感
英雄が最後に伏兵に倒されるとは、リアルなマカロニ・ウェスタンのような話だが、これは彼の自伝と死後に作家が書き継いだ伝記に基づいて、ほぼ実話である。クリント・イーストウッド監督は現代ガンマンの実話を描きたかったのだろう。
ゲイリー・クーパーが主演してアカデミー主演男優賞を受賞した「ヨーク軍曹」は二十五名を射殺して百三十名を戦意喪失させて捕虜にした。
それと比べると、自己申告だがカイルは百六十名を射殺か行動不能にしたそうだ。それだけ殺すと、逆に仲間も狙われて殺される。PTSDは主に自分の死に対する恐怖だろうが、仲間の死に対しても自分の身代わりで死んだ罪悪感があったのではないか。
彼は自分だけは大丈夫と思っているし、狙撃兵は伏兵を撃つことにより仲間を守ると言う信念がある。だからこそPTSDを患っても戦い続けたわけだろう。
ちなみにイスラム教徒に対して殺したことに罪悪感をかけらも感じなかったそうだ。まるで十字軍の騎士である。
ブラッドリー・クーパーは、実際のクリス・カイルより細身だったので、ウェイトを付けて撮影に臨んだ。かなり鍛えていて、頑丈そうに見える。
スタッフ
監督 クリント・イーストウッド
原作 クリス・カイル 、 スコット・マクイーウェン 、 ジム・デフェリス
脚本 ジェイソン・ホール
製作総指揮 ジェイソン・ホール 、 ティム・ムーア 、 シェロウム・キム 、 ブルース・バーマン
製作 クリント・イーストウッド 、 ロバート・ロレンツ 、 アンドリュー・ラザー 、 ブラッドリー・クーパー 、 ピーター・モーガン
撮影 トム・スターン
キャスト
クリス・カイル ブラッドリー・クーパー
妻タヤ シエナ・ミラー
戦友マーク・リー ルーク・グライムス
戦友ビグルズ ジェイク・マクドーマン
ダンドリッジ コリー・ハードリクト
父ジェフ・カイル キーア・オドネル
ウィンストン カイル・ガルナー
ウエイン・カイル ベン・リード
母デビー・カイル エリース・ロバートソン
敵狙撃手ムスタファ サミー・シーク
アルカイダ幹部ブッチャー ミド・ハマダ