壷井栄の書いた、小豆島を舞台に母娘の恋愛模様を描く原作小説をもとにして、棚田吾郎が脚色し野村孝が監督した青春明朗映画。(と言いながら裏がある)

主演は、吉永小百合で1961年「草を狩る娘」1962年「キューポラのある町」「赤い蕾と白い花」に次ぐ主演作になる。
共演は浜田光夫、岩本多代(ますよ)、奈良岡朋子、宇野重吉。カラー映画。

あらすじ

汐崎百合子は、小豆島に生まれ育った貧しい娘だ。幼馴染の宇太郎は三つ上だが、百合子はまるで実の妹のように遠慮がない。
その百合子が、母フヨの母校である神戸の藤陰(フジカゲ)短大に知人ゆきを保証人に立てることで入学することができた。母がその短大を選んだのは、母の母校であり青春の思い出だったからだ。
初登校の百合子を「ご隠居様」と呼ばれる寮監の瀬川がに温かく迎えられる。瀬川は母が好きな先生が出来たので学校を祖母に辞めさせられたことを知った。
学費免除の代わりに学校の雑用係のアルバイトをしながら、百合子の学校と寮生活がはじまった。明るい百合子はすっかり寮生たちの人気者になった。とくに十糸子という先輩とは馬が合った。

一方、小豆島のオリーヴ園に働く宇太郎が、大井川という中年記者の取材を受けていた。彼はかつてフヨとの間を引き裂かれて、教壇を去り出版社に勤めていた。宇太郎が気を利かせてフヨと会わせると、二人の胸に再び愛が燃え上がる。

夏休みに帰って来た百合子は、十糸子や宇太郎と遊び回った。海水浴で十糸子と宇太郎が一緒にゴーゴーを踊っていると、百合子は気に入らない(水着シーンあり)。
十糸子が神戸に帰ってお盆になって、百合子と宇太郎は盆踊りに出かけた。踊っている最中に雷が落ちて、百合子は思わず宇太郎に抱き付いた。宇太郎の抱きしめる手に力がこもる。百合子は驚いて、家まで走って帰った。祖母ハツがゆきと「フヨが秘かに大井川に会っている」と、話しているのを聞いてしまう。
雨が止んだ朝方に母フヨは帰ってくるが、百合子は十八歳の潔癖さで母を不潔と責める・・・。

雑感

映画「二十四の瞳」を書いた壷井栄は香川県小豆島の出身で、その後も小豆島を舞台にして小説を書いていた。「あすの花嫁」もその一つである。

この映画原作は、児童文学者としての壷井栄ではなく、プロレタリア文学者としての壷井栄が見え隠れする。おそらく、次のセリフを言わせたくて、この本を書いたのであろう。

宇太郎「立派な木を育てるには、土の革命が必要」
百合子「革命は嫌い」。
宇「反抗とは、我々が人間でありたいというための行動の表れ。人間らしくありたいということは、常に前向きでありたいこと、弱い人間が強い人間に、貧しい人間性が豊かな人間性に、空白の生活から充実した生活へ。これでない反抗は破滅あるのみ」

反抗という言葉は、百合子が革命嫌いだったから、言葉を変えたものだ。だから、上のセリフは全て革命論を語っている。
壷井栄自身は共産党と縁が切れたが、夫壷井繁治は共産党員で戦前に獄中生活も送った。しかし栄も革命思想を捨てた訳ではなく、人間らしくありたい、前向きに行きたい、人間性を豊かにしたい、もっと充実したいと思うことが彼女の革命なのだ。
そういう個人の前を向きたいという方向性(ベクトル)が、他の人々と合うようになったら、その時は社会全体の革命に発展するだろう。

当時は60年安保の直後で、学生運動が華やかなりし頃だったから、こういう台詞が出てきても全く不思議はない。
劇団民藝の諸先輩に囲まれて、多感だった吉永小百合は、革新的な思想をどんどん吸収していったと思う。
だから彼女の魅力の原点は、「革命」にあるのではないか。

初めはデビュー当時の岩本多代が見たくてこの作品を見たのだが、なかなか初期の吉永小百合作品は佳作揃いだ。

若い頃の岩本多代を見た感想は、「今と変わらないなあw。」
自分にとっての岩本多代の中心的イメージは、親戚の優しい叔母さんなのだ。そんな人にも色々過去はあったのかもしれない。でも過去があるから、人は優しくできるので、その後の岩本多代のイメージにぶれることはない。

ちなみに、藤蔭短大のロケ地は神戸松陰女子学院大(当時、松蔭短期大学)だと思われる方がいらっしゃるかもしれないが、実は神戸女学院大学である。
神戸松蔭女子学院は教会があってバロック音楽のコンサートに使われているので、見にいったことがある。でも映画の中の学校とは似ても似つかないものだった。
ロケ地にされた神戸女学院大学は西宮市の山のほうにある。「西宮北口」で阪急今津線に乗り換えて「門戸厄神」駅で降り、徒歩18分(山登り)。
ところが、最寄駅として「阪急御影」駅が出てくる。神戸松蔭の最寄り駅は隣の阪急六甲駅である。
おそらく神戸松陰をイメージして脚本が書かれたのだが、イングランド系の厳しいミッション・スクールだから、撮影禁止になったのだろう。

一方、

気に入ったセリフ

何故フェリーに乗っているか尋ねた百合子に、宇太郎が答えた言葉。
「(神戸の外資系会社に発注した機械の納入前確認で呼ばれて)盆も正月もお構いなしだから、困ってしまうよ、毛唐の会社は」。

スタッフ

企画  笹井英男
原作  壷井栄
脚色  棚田吾郎
監督  野村孝
撮影  横山実
音楽  池田正義
主題歌 吉永小百合「あすの花嫁」(「いつでも夢を」のB面に採用された)

キャスト

汐崎百合子  吉永小百合
佐伯宇太郎  浜田光夫
汐崎フヨ(母)  奈良岡朋子
汐崎ハツ(祖母)   村瀬幸子
大井川親光  宇野重吉
佐伯宇之助(宇太郎の兄)  玉村駿太郎
佐伯タケ(兄嫁)  堀恭子
宇太郎の父  長尾敏之助
宇太郎の母  高田栄子
酒井十糸子  岩本多代
酒井勝造   下條正巳
酒井順子   南寿美子
寮監瀬川   北林谷栄
芦沢ゆき(フヨの友人)   清川虹子

 

ネタばれ

「十糸子、自殺す」という電報がきた。慌てて神戸行きの船に乗った百合子は、不安で仕方がない。そして、仕事で船に乗り合わせた宇太郎を頼りにしていることに気付く。
睡眠薬を過剰摂取した十糸子だったが、幸い命に別状なかった。でも百合子は、十糸子を宇太郎の革命論を借りて慰める。
その後、宇太郎は百合子を大井川に会わせた。百合子は内心、大井川と会うのを楽しみにしていた。しかし、大井川は転職すると言う。しかも勤め先は東京だと言う。彼は「もうお母さんにはお会い出来ないでしょう」と語った。百合子は「さよなら」と言った。

百合子は、母の土産に夫婦茶碗を買いに行くので、土産物屋に付いてきてと、宇太郎を誘う。宇太郎は何を言っているのか、わからなかったが、やっとわかる。百合子は、フヨが大井川のもとへ嫁に行くことを認めたのだ。すると、祖母ハツの老後は百合子が面倒を見ることになる。百合子は卒業したら小豆島に帰り、お嫁に行くのだ。
母への土産を決めた百合子は、もう一組の夫婦茶碗を恥ずかしそうに宇太郎に差し出す。

 

あすの花嫁 1962 日活製作・配給 吉永小百合初期主演作(1962.9.9公開)

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