東日本大地震で爆発した東電福島第一原発で何が起きていたか?

多少の脚色をしているが、事実に即した内容を豪華な俳優陣でお送りするセミ・ドキュメンタリー
門田隆将の原作ドキュメンタリーを前川洋一が脚色し若松節朗が監督した。
主演は佐藤浩市、渡辺謙
共演は佐野史郎、篠井英介

あらすじ

平成23年3月11日午後2時46分東日本大地震が発生し、福島第一原子力発電所にも甚大な被害をもたらした。
伊崎当直長が監督する中央制御室(中操)は地震後、停電になったが非常用電源を使って復旧させる。
そのとき原発を大津波が襲い、再び停電になる。原子炉は制御不毛みまり、炉の温度は上がり始めた。
福島第一原発の吉田所長はSBO(Station Black Out)の宣言を「本店」に通知する。中操では、手動で冷却水を通すためのバルブが開かれた。

吉田は、免震棟で緊急事態対策室「緊対」が設置していたが、本店の緩慢な対応に怒りをあらわにしている。吉田は原子炉冷却用に消防車を手配しながら、伊崎と連絡を取り最終的には「ベント」を行うことで合意する。ベントとは、原子炉内の圧力を下げるために原子炉で作られた放射性物質の一部を外部に排出することである。もしメルトダウンになれば、原子炉が爆発し東日本が被曝・全滅する。それを防ぐため、10km以内の住民を避難させた後でベントを行う。

翌12日早朝、突然菅総理大臣が福島第一原発を視察する。総理の来訪は現場を混乱させた。総理は緊対にやってくると、「なぜベントをしないのか」と吠える。吉田は、できる限り丁重に対応したので、総理は去っていった。

いよいよベント作戦が始まった。第一陣としてベテラン職員がまずMO弁を開けた。第2陣は危険なAO弁に向かったが、高温と放射能に阻まれてたどり着くことができなかった。代わりに前田が出発する。
そのとき排気筒から煙が出てきたので、作業は中止になった。
実は、吉田の提案による遠隔操作での開弁が行われていた。伊崎は連絡ミスと知り、烈火の如く怒る。

午後3時半、1号機が水素爆発を起こした。これによって電源ケーブルが破損してしまう。
伊崎は若手所員たちを免震棟に撤退させる。中操に残ったのは伊崎、前田ら20名ほどの所員たちだった。

午後7時半、吉田は本店フェローの竹丸から、総理が海水は不純だから危険と信じているので、既に始めていた海水注入を止めるように指示される。無茶な命令に、吉田は従ったように見せかけ、実際は海水注入を続けた。
3号機付近では線量が急上昇したので、吉田の指示で中操は5名の交替制となり、伊崎たちは一旦免震棟に戻って来る。

14日午前11時、3号機が爆発する。作業員は一時40名が行方不明となったが、陸自のおかげで死亡者を出さずに済んだ。
午後11時すぎ、2号機の圧力が上昇する。もし2号機の格納容器が爆発すれば、チェルノブイリの10倍もの被害を出す。
翌15日午前6時、総理が本店の会議室に激昂して乗り込む様子がモニターに映し出される。噂に惑わされて、「原発からの撤退などあり得ない」とわめく総理に向かって、吉田はズボンを脱いで尻を出した。吉田と伊崎は、原発と運命を共にする覚悟だった。

そのとき、免震棟にも衝撃があった。2号機の格納容器圧力を調節する部屋の圧力がゼロになったのだ。これは非常に危険な状態である。
吉田は「避難命令」を出して、幹部たちを残し、他の所員に避難させた。最終的に緊対には50名ほどの東電決死隊が残った。
避難所にいる伊崎のひとり娘のもとに、初めて父からメールが届いた。それは結婚に反対したことを詫びるものだった・・・。

 

雑感

主人公のうち、吉田所長は実在の人物だが、伊崎当直長は実在の人物である伊沢郁夫と曳田史郎をミックスしたキャラクター。うまく二人の人間を一人を合成することで、話を簡略化している。
映画は、セミ・ドキュメンタリー風で実に圧倒された。

しかし震災からちょうど9年目の春に上映に拘りすぎて、新型コロナ禍が始まったときに封切られたので、興行収入は惨敗してしまった。
それでもみんなに見て欲しい危機管理サバイバル映画だ。

批判意見があるのはわかる。例えば旧民主党から見ると、菅首相は怒ってばかりでバカみたいだ。反東電派から見ると、東電職員を格好良く描きすぎている。また反原発派や環境派から見ても、そもそも海のそばに原発を作ったことを許せないだろう。
でも近くに海がなかったら、海水注入もできず、東京は無くなっていたよ。

個人的にも批判はある。所長役の渡辺謙がダメだった。いつも誰を演じても演技が同じ。役所広司の方が適役だった。父親役は仲代達也だろう。

佐野史郎の菅首相役も安っぽいSFになってしまい、どうにかならないかなあ。吉田鋼太郎でも、小日向文世でもよかった。三浦友和でもまだマシだ。

 

意外な発見として、マスコミで男に媚びていると言われて女性人気が全くない吉岡里帆が佐藤浩市の娘役だが、彼女が化粧っ気の薄いメイクで現れて、好演していた。やはりマスコミがいかに騒ごうが、女優は映画に出てなんぼである。

米軍将校役のダニエル・カールが役作りのためか、太った。

スタッフ

監督  若松節朗
脚本  前川洋一
原作  門田隆将『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』
製作  二宮直彦
製作総指揮  井上伸一郎
音楽  岩代太郎
撮影  江原祥二

キャスト

伊崎利夫 – 佐藤浩市(当直長、吉田の同期)
吉田昌郎 – 渡辺謙(福島第一原発所長)
前田拓実 – 吉岡秀隆(第一原発 5・6号機当直長)
野尻庄一 – 緒形直人(福島第一原発・発電班長)
大森久夫 – 火野正平(ベテラン所員)
平山茂 – 平田満(同上)
井川和夫 – 萩原聖人(所員)
伊崎遥香 – 吉岡里帆(娘)
伊崎智子 – 富田靖子(母)
滝沢大 – 斎藤工(遥香の恋人)
内閣総理大臣 – 佐野史郎(菅直人がモデル)
浅野真理 – 安田成美(総務班員)
加納勝次 – 堀部圭亮(所員)
矢野浩太 – 小倉久寛(所員)
本田彬 – 和田正人(所員)
工藤康明 – 石井正則(所員)
樋口伸行 – 皆川猿時(保全部長)
米軍将校ジョニー – ダニエル・カール(トモダチ作戦創始者)
佐々木明 – 小野了
五十嵐則一 – 金山一彦
内閣官房長官 – 金田明夫(枝野幸男がモデル)
原子力安全委員会委員長 – 小市慢太郎(都甲泰正がモデル)
経済産業大臣 – 阿南健治(海江田万里がモデル)
原子力安全保安院院長 – 矢島健一(深野弘行がモデル)
前田かな – 中村ゆり(前田の妻)
福原和彦 – 田口トモロヲ
小野寺秀樹 – 篠井英介(東電常務)
新聞記者 – ダンカン
松永 – 泉谷しげる(伊崎家の隣人)
伊崎敬造 – 津嘉山正種(父)
竹丸吾郎 – 段田安則(東電フェロー)

***

2号機に対して必死の作業が続いた。自衛隊ヘリによる上空からの放水も行われた。そして2号機建屋の壁パネルが一枚落ちて、放射性物質を外部に逃すことによって、圧力が下がり始めたのだ。最悪の事態は避けられた。
ある米軍将校は、少年時代に福島県原発地区で暮らしたことがあった。彼が「トモダチ」作戦を考案して、避難所に在日アメリカ軍の支援物資を運び込んだ。

伊崎と前田が、避難所にやってきた。ようやく家族に会えた彼らは喜び合う。そして、住民に東電社員として謝罪するが、住民はあたたかくねぎらった。

2014年春、伊崎は通行制限中の町へ帰って来た。満開の桜の下で、前年食堂ガンで亡くなった吉田からの遺言がわりの手紙を取り出して読む。吉田は「自然(地震と津波)の力をなめていた」と深く反省していた。伊崎は、桜並木の向こうにある海を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Fukushima50 (2020) 角川大映スタジオ制作 松竹+KADOKAWA配給

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