フランスのテレビドラマ版ABC殺人事件。時代は第二次世界大戦前の1930年代だ。名探偵ポワロに当たるのが警察きっての伊達男で有能なラロジエール警視(アントワーヌ・デュレリ)、ヘイスティングス大尉に当たるのがイタリア系でホモ・セクシャルのランピオン刑事(マリウス・コルッチ)。

ABC殺人事件は、こんな渋いページを見てくださる方に説明不要だろう。Aから始まる名前の町でAから始まる名前の人が殺され、Bから始まる名前の町でBから始まる名前の人が殺される。現場に残された証拠品から連続殺人と考えられる。さらにCの町でも同じような事件が続く。全ては一見して無差別殺人のように見えたが・・・

フランスは原作を少し触っている。まず原作ではロンドンから鉄道を使わないと行けない範囲に事件は拡がっているが、フランス版ではバスの運行範囲に収まっている。海岸での絞殺事件は原作でBの町で起きたが、フランス版ではAの町で起きている。原作のポワロにはライバルが存在しないが、ラロジエール警視にはナチかぶれのライバルがいる。原作ではヘイスティングスの恋愛は描かれていないが、ランピオン刑事はそのライバルと一夜の過ちを犯してしまうw。
最大の変更点が犯人の動機である。これについては興味を削ぐから言わないが、日本人の感覚からしてありえない動機だ。おそらくイギリス人であるアガサ・クリスティでもそう考えるだろう。しかしフランス人のようなロマンティックな民族は違うらしい。

何よりこのドラマの見所は、ドニ・ラヴァンが出演していることである。レオス・カラックス監督の「ボーイ・ミーツ・ガール」「汚れた血」「ポンヌフの恋人」というアレックス三部作でアレックスを演じている名物俳優だ。見るだけで気分を悪くさせることができる稀有な役者である。映画ではよく出ているが、テレビドラマで初めて見た。

放送時間は1時間40分ほどだが、この事件には時間が足りない。デビッド・スーシェのABC殺人事件でも同じことだった。事件の量が多すぎるのだ。
唯一、放送時間の枠にハマったのは日本のアニメ「名探偵ポワロとマープル」のABC殺人事件だけだ。この場合、四回に分かれて放送されたが、OP/EDを抜いて一回あたり20分あまりの放送だから1時間40分もかかっていない。子供にもわかるように難しかったり無駄な台詞を使っていないからだ。