梅田晴夫のラジオドラマ「結婚の前夜」を元にした70分ほどの中編映画。当時は「君の名は」にしろ「チャッカリ夫人とウッカリ夫人」にしろラジオドラマが映画脚本の元になることが多かった。監督は市川崑、脚本は市川崑夫妻が書いている。

 

外交官の娘で明日銀行員との結婚を控えていた京子は、幼なじみのカメラマン遠藤を誘って銀ブラだ。ロバート・テイラービビアン・リー出演の映画「哀愁」を見た後、天ぷら屋、スケート場、ダンスホールとはしごする。そして終電を逃してしまい、京子が懐を見ると父が入れておいてくれた預金通帳が出てきた。そしてようやく京子は何故、今日になって遠藤を誘ったのか、そしてなかなか離れられなかったのか気づく。しかし遠藤は家柄の違いを気にしたのか、京子と一緒に逃げるという選択肢を選んでくれなかった。
翌日、京子は楽しそうに新婚旅行に出かけた。後日、遠藤がやって来て京子の部屋で独り、物思いに沈んでいた。

 

映画としては、少し主人公が鈍感すぎると思うが、全体としてはなかなかよくできている。

20代の久慈あさみは、とくにお気に入りである。面長でアルトだが、宝塚の男性役スターだけにスラっとしていて姿勢が良い。歌を上手くて、主題歌を灰田勝彦と歌っている(紅白歌合戦2度出場経験あり)。

池部良は当時もう30を過ぎていたが、万年青年で演技も垢抜けない。

千田是也と村瀬幸子は俳優座コンビで夫婦役をやっていたが、舞台を見ているように息ぴったりだった。

映画館で掛かっている劇中映画が名画「哀愁」なのだが、「蛍の光」が掛かっているダンスシーンをそのまま延々と流すのだ。短い映画だけにだいぶん尺をトクしている。もう著作権が消えているから放送できるのだろうが、消えていないうちは幻の映画だったのではないか?

ダンスホールのロケ地は昭和28年に火災事件で全焼した銀座・銀馬車だったようだ。そこの支配人が森繁久弥なのだが、これがメガネを外したタモリにそっくりだった。また斎田愛子という有名なアルト歌手が特別出演して哀愁漂う「ホーム・スイート・ホーム」を歌っていた。

最期は新宿駅が出てきた。当時は小田急線と京王線が並んでいたみたい。もしかしたら省線電車(今のJR)も一緒だったのだろうか?米軍用に英語だけで行き先の案内が書いてあった。

 

監督 市川崑
脚本 和田夏十、市川崑
製作 青柳信雄
原作 梅田晴夫(「チャッカリ夫人とウッカリ夫人」)

 
配役
池部良(遠藤)
久慈あさみ(京子)
千田是也(小田切)
村瀬幸子(節子)
北林谷栄(仲人)
森繁久彌(支配人)
斎田愛子(歌手)
伊藤雄之助(クリーニング屋)

 

恋人 1951 新東宝

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