鶴田浩二の遺作となったテレビドラマ。NHKでは「男たちの旅路」以来の主演である。週一回45分、6週分の放送。

下町でオーダーメイドのワイシャツを作るお店の話、議員さんを顧客に持つ腕利きの主人役が鶴田、蔑ろにされて家出する妻役は八千草薫、徒弟役に平田満、息子の恋人の父親で後に鶴田の相談相手になる村川役に杉浦直樹、家出した妻に同情する男に井川比佐志と重厚なメンバーを揃えている。

鶴田浩二が主役だから結局最後まで八千草薫は不倫に走らない。かえって回りの男たちがいろいろ気を回し鶴田の相談相手になる。そして最終回には、鶴田に妻の顔を見て「好きだ」と月一回言わせることを約束させて、二人を元の鞘に収めてしまう。

 

撮影当時はまだ60歳のはずだが、今の60歳と比べると鶴田浩二ははるかに老けていた。でもまさかこのまま死ぬとは思わなかった。主演当時ガンを発病していた手遅れだったようだ。

確かに昔のおじさんは老けていた。とくに戦争や戦後の混乱で苦労した人ほどハッキリとわかった。
鶴田浩二は戦時中は特攻隊の整備将校になり、戦後復員して大スターとなり、最初に独立プロを作り、既成権力からの嫌がらせを受けて、関係者が次々と自殺したり大変な人生を送られた方だ。並大抵の苦労じゃ無い。その心労の一つ一つが顔の皺になっていた。人の心を掴むような演技の深みを感じた。杉浦直樹も受けの演技に徹して素晴らしかった。

その彼がスナックでは酔ってママの胸をお触りするスケベ親父になったり、自分のヒット曲「傷だらけの人生」をカラオケで歌ったり、最後はかつてのアイドルスター時代のように「好きだ」と大女優に語りかけて終わるなんて、男の人生の縮図を見ているようだった。

 

女優では八千草薫(会った人によるとふだんは化粧っ気が無く平凡な顔立ちだそうだ)、美保純もさることながら、最近見なくなった松本留美が出ていたのが嬉しい。70年代はTBSの昼メロの女王と呼ばれた人で、外人とのクォーターのはずだ。80年代の田村正和ドラマでもおばさん役で活躍していた。ヒロインよりもコメディエンヌとして好きなタイプ。

 

脚本:山田太一
演出:深町幸男
音楽:山本直純
製作:近藤晋

配役
鶴田浩二
平田満
八千草薫
杉浦直樹
佐藤浩市
美保純
井川比佐志
松本留美

シャツの店 1986 ドラマ人間模様(NHK)

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