長谷川一夫の十八番である「銭形平次捕物控」シリーズは、新東宝大映京都で18作品が作られた。大映での第8作は1935年に発表された野村胡堂の短編小説「ご落胤殺し」をベースに大幅に小国英雄が脚色し、19歳になった美空ひばりが共演している。残念ながらカラーではなく、モノクロ映画。

 

 

(あらすじ)江戸の軽業師、悟自斉には四人の美しい娘がいた。お鶴は悟自斉と先妻の娘で軽業が得意だ。あとの三人お雪、お妙、お千代は後妻お滝の連れ子である。お滝は既に亡くなり、お千代は呑み屋に、お妙はさる大店に養女として出されていた。

ある日、仙台伊達藩の剣持礼之進が悟自斉の一座を訪れる。主君頼宗は世継がないが、腰元との間に娘が一人生まれていた。嫉妬に狂う正室の手前、乳母お滝が里に下がって連れ子として育てた。その後お滝は悟自斉と結婚したことがわかったのだ。殿は結局世嗣が出来ず、娘を手許に戻したいと言い出している。その娘には乳房に痣があるという。悟自斉によるとお滝は誰がご落胤か言わずに死んだと言う。

しかし三人娘の一人お雪が銭湯で殺される。世継の座を狙う伊達主水正が命じて、愛人お歌が暗殺したのだった。続いてお千代も殺され、お妙は拐かされる。実は主水正が世継の可能性のあるものを皆殺しにするつもりだった。しかしお妙の美貌に惚れ込み、手込めにして自分が婿になることに作戦を変更した。お妙の養親には彼女が伊達頼宗公のご落胤であることを明かし、ついにご登城の日を待つばかりとなった。

銭形平次は当初この事件に積極的に関わる気がしなかった。伊達藩の問題だから、町方は泣き寝入りするしかないからだ。しかし乳房に痣がある娘の連続殺人事件が起きた上に、鍵を握る軽業師の悟自斉まで消えてしまった。さらに平次には、お妙が本当にご落胤なのかという疑念があった。そこで平次は、悟自斉の娘お鶴を下っ引きとして、剣持礼之進と協力し伊達家江戸屋敷に潜入する。

そこに拷問を受け瀕死の悟自斉がいて、「しち」とひと言言って事切れる。平次は「しち」が質札のことであり、大切なものを質屋に預けたのだと推理する。質札はお鶴が持っていて、質に入れたのは安物の短刀に過ぎなかった。
しかし平次はもう一度関係者に聞き込みをかけ、ついに恐るべき真実に到達する。

 

 

扇情的なサブタイトルを持つこの作品は、犯人が前もって明らかにされているし、ご落胤が誰かも分かった。当時のポスターにもちゃんと答えは載っている。でも痛快娯楽時代劇と思っていたのに、途中からまったく別のものに変わってしまった。

血の繋がらぬ下賤の者はたとえ同じ釜の飯を食おうとも、自分の代わりに犠牲になって構わない。そんな責任感の欠片もない身分の高い人間が、ヒロインのような顔をして町人に混ざり気楽に暮らしている。

時代劇でこれほどイヤミスのような感覚を覚えたのは珍しい。それも長谷川一夫と美空ひばりの共演作品で、これをするのだ。長谷川一夫は時として、意外なほど闇の深い作品を作り出す。平凡な原作をここまで大胆に脚色したのは、黒澤明監督が擁する脚本家集団の中心人物、小国英雄である。

一人ヒロインだったとは言え、美空ひばりも、よくこの脚本で出演オーケーを出したと思う。シリーズ次々作の「銭形平次捕物控・まだら蛇」にも出演しているから案外楽しんで演じていたのかも知れない。

 

 

監督 加戸敏
製作 酒井箴
原作 野村胡堂
脚色 小国英雄

主題歌 旅の軽業娘 唄・美空ひばり
挿入歌 お江戸八丁堀 唄・美空ひばり

 

配役
銭形平次 長谷川一夫
お鶴 美空ひばり
剣持礼之進(仙台藩士) 大河内傳次郎
八五郎 川田晴久
お静(平次の女房) 阿井美千子
伊達主水正 市川小太夫
悟自斎 寺島雄作
お妙 三田登喜子
お千代 小町瑠美子
お雪 真風圭子
お歌(主水正の愛人) 浜世津子
熊八 (お歌の子分)山茶花究
伊達陸奥守頼宗 葛木香一

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銭形平次捕物控 死美人風呂 1956 大映京都 長谷川一夫と美空ひばりの豪華顔合わせ

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