「東京の屋根の下」は1949年に服部良三が作曲、佐伯孝夫が作詞し、灰田勝彦が歌った名曲だ。

その佐伯孝夫が、1962年に作詞した橋幸夫吉永小百合のデュエット曲「いつでも夢を」がレコード大賞を受賞するほどの大ヒットとなり、翌1963年にデュエット第2弾として作ったのがこの「若き東京の屋根の下」。ちなみに作曲は「いつでも夢を」に続き吉田正だ。歌詞は時代の変化に合わせているが、本質的には言い換えただけの話である。

東京オリンピック・ブームに乗ってヒットしたので、日活が映画化したのがこの曲を主題歌とした同名映画だ。ただし橋幸夫は当時暴漢に襲われて負傷したたため出演していない。

舞台は大田区久が原、池上と多摩川の間で、すぐ川崎市内である。ギリギリで東京の屋根の下だった。

 

 

Synopsis:

蕗子は桑野家四男二女の次女だ(三男は事故で夭折)。上の兄弟は結婚独立して、蕗子と末弟の四郎が両親と二階屋に同居している。サラリーマンの父親は定年を間近に控え、第二の就職先を探しているがなかなか見つからない。

そんなとき、次兄が三上という早稲田大学の学生を間借り人として紹介する。そのフランクな性格に両親や弟は死んだ三男のようだと大喜びする。しかし蕗子は、同じ年頃の異性が近くにいること自体が気に入らない。

 

蕗子は兄姉に集まってもらい、父の誕生日パーティーを開く。というのは口実だった。蕗子は両親の老後の生活費を分担することを提案する。そして毎月末には彼女自身が集金に回ることにする。

実際に兄姉の家を自転車で回ってみると、家庭の外見と内実は全く違い、それぞれに悩みや苦労を抱えていることがわかる。長兄は豊かな生活をしているが、夫婦仲は冷え切っていて、昔の恋人が病気になったために長兄は妻に内緒で支援していた。次兄は生活苦で共働きしており、時間が合わずなかなか子供が作れない。
そんな中、野球大会がもとで蕗子は三上のことを意識し始める。三上も蕗子のことが気になって試験を失敗してしまう。
蕗子に気がある、幼馴染の幸吉がお店で車を買ったので、蕗子と弟、三上をドライブに連れて行ってくれる。行き先で三上は友人渡瀬和子と出会い、勝手に蕗子の父の再就職問題を相談した。すると大会社の重役の娘である和子は早速就職先を紹介してくれると言う。しかし蕗子は和子に借りを作ったようで面白くない。
長兄の息子達夫が行方不明になる。蕗子は連絡を受け探していると、幸吉が彷徨っていて蕗子の名前を出した達夫を桑野家に連れて行くところにばったり出くわす。達夫に家出の理由を尋ねると、父母が喧嘩ばかりしている、あんな家に居たくないと言う。
蕗子は長兄宅に怒鳴り込み、夫婦が勝手なことばかり言っているから子供がグレると罵るが、達夫が今度は両親をいじめるからお姉ちゃんは嫌いと泣き出す。
三上はツンツンして機嫌の悪い蕗子のそばにいては、気が滅入ってしまうので、桑野家を出ると宣言する。蕗子は内心ショックだったが、憂さを会社の先輩相手に晴らそうとして、その先輩に抱きつかれそうになる。その様子を見た幸吉は蕗子を救い出し、三上に内心を打ち明けろと言う。ついに決心した蕗子は自宅で引越し準備を済ませて風呂に入っている三上に正々堂々と愛を告白する。

 

 

 

 

映画の内容はホームドラマであって、単なる歌謡映画ではない。吉永小百合は同じような映画を数多く撮っているが、その中でも優れた作品と言えよう。凡庸な映画という批評もあることは承知しているが、1963年の彼女にしか出来ない表情がたくさん見られる。これは凡庸ではない。フォーマットが決まったプログラムピクチャーだが、彼女の様式美は完成している。

 

蕗子は就職して、集金に回りながら兄姉の家庭の話を聞いているうちにそれぞれの事情にも通じ、夫婦というものが何となくわかってくる。それでも愛情こそが結婚にとって最も大切なものだと信じている。ここは彼女が恋愛観を形成する上で欠かせない段である。省略不可である。
さらに蕗子は、自分の気持ちのコントロールの仕方がわかっていない。だから好きな三上が他の女子と喋るから
ついツンツンしてしまう。そんな彼女の意固地な気持ちを幼馴染の幸吉はほぐして、彼女の本当の気持ちを気付かせてやる。
見方を変えると、幸吉を主役にして、自分が涙を飲んで愛し合う二人のために身を引くドラマにも見える。おそらく幸吉は橋幸夫のための配役だったが、キャンセルされたため、山内賢に回ったきたのだろう。
橋幸夫に難しい芝居でも山内は容易くこなしていた。この映画については、吉永の真の相手役はマンネリ気味で見せ場も少なかった浜田光夫でなく、振られたけれど親友の座を固めた山内賢と言いたい。
他の演者では、浮気して煮え切らない長兄の役を下元勉がものすごく好演している。わが身に浸みる演技を見せてくれるw。
山岡久乃、初井言栄の劇団青年座コンビも活躍している。
次兄の妻として出演映画数の少ない朝風みどりの顔も見られる。彼女は鳳八千代の妹でやはりタカラジェンヌだったはずだ。東映に入社するもバタくさい顔なので、日活に移り現代劇に新天地を探っていた。テレビに移った後、西尾美栄子と変名したから、日活出身のプレイガール西尾三枝子と間違われる。
主題歌以外にBGMとして「いつでも夢を」のインスト版が何度もかかる。先輩に連れられて行ったクラブで歌手として歌っているのは、キング西條由美で唄は「夜の鍵」だ。
ラストで主題歌が掛かり、入院していた恩師の内藤武敏と浜田、吉永が幸吉の車で高速道路を送るシーンがあった。1コーラスでいいのに、フルコーラス掛けて間が持たなかったが、これは前年に開通した首都高速道路が協力したCMだったのだ。前に座っている山内賢、吉永小百合、浜田光夫は運転中演技をしていたが、後ろの二人は手持ち無沙汰だった。
原作は源氏鶏太の「緑に匂う花」。そこでは蕗子はもっと兄弟が多くて8人兄弟。独立した兄姉 の家庭はやはり問題を抱えて、そこに蕗子はつい首を突っ込んでしまう。その辺は映画と同じだ。いつも自転車に乗って兄姉の家に行くのも同じ。
彼らは核家族と言いながら転勤族ではなく、実家から派生して緩やかな結合を保つ擬似大家族なのだ。そこらへんは我が家と似ている。

 

 

 

 

監督 斎藤武市
原作 源氏鶏太
脚色 才賀明
撮影 横山実
音楽 大森盛太郎
企画 児井英生

 

 

出演
吉永小百合 (桑野蕗子、19歳のビジネスガール)
浜田光夫 (三上、早稲田の貧乏学生)
山内賢 (幸吉、蕗子の幼なじみで浪人生)
伊藤雄之助 (蕗子の父謙太郎)
三宅邦子 (蕗子の母)
下元勉 (蕗子の長兄、太郎)
山岡久乃 (太郎の妻達枝)
近藤宏 (蕗子の次兄、次郎)
朝風みどり (次郎の妻、夏子 ) 鳳八千代の妹でやはりタカラジェンヌの美人
初井言栄 (蕗子の姉、北村律子)
小沢昭一 (姉の夫、利夫)
太田博之 (蕗子の弟、四郎)
松尾嘉代 (渡瀬和子、三上の大学の友人)
内藤武敏 (青山、蕗子と幸吉の高校時代の恩師)

 

 

 

 

若い東京の屋根の下 1963 日活 吉永小百合ホームドラマの傑作

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