アガサ・クリスティ晩年のノン・シリーズ作品。1960年代に入って日本では所得倍増政策が成功してアメリカと享楽を貪っていたが、英国はというと、日本の鉄鋼業に押されて、炭鉱業も縮小していた頃だ。ちょうど1950年代後半から続いて来た保守党内閣が1964年に倒れ、労働党のウィルソン第一次内閣が力を持っていた。英国の保守党エスタブリッシュメントの地位が下がり、米国からの観光客を受け入れて外貨の足しにしていた。そう言う、とくに若者に不景気な時代であったことを思い出して読んで欲しい。

あらすじ

この本については映画「エンドレス・ナイト」がDVD化されたため、ネタバレはしない。
マイケルという貧しい英国労働者階級の主人公が一人語りしている。マイケルは学校を出て軍務にも就いたが現在はニートで、イケメンなので面白おかしく暮らしている。

そこへ米国の大富豪の娘エリーが現れる。この娘が恋には疎いが、狙った獲物は逃さないタイプで、二人きりで結婚する。エリーはジプシーが丘という場所に、友人の建築家に依頼してお洒落な自宅を建ててもらう。

ところがエリーのアメリカの親戚や友人グレタらが度々訪問して来て、二人の予定を狂わせてしまう。さらに気味の悪いジプシーが現れ、出て行かないとよくないことが起きると言いだす。
そしてとうとうエリーが乗馬中に謎の病気で亡くなる・・・。

雑感

まずマイケルが首尾一貫して一人語りしていてるが、ワトソン役を買って出るわけでもなくかえって怪しくなる。
彼にはグレタという目の上のタンコブがいた。マイケルとエリーの蜜月をことごとく邪魔するのだ。そしてエリーは病気でなくなる。
しかしアガサ・クリスティを何度も読んだ人には、このパターンは過去にも書かれており、誰が犯人か分かるはずだ。

作品としては、一人語りが冗長と言う人もいたが、これはあまり意味がない。最初の三分の二を過ぎたところで初めて事件が起きてから、立て続けに人が死に始める。そこで犯人が身の回りを警戒するなら、南米に逃げればよかった。ところがジプシーが丘にこだわってしまい、ラストは例えばクリスティの名作戯曲「検察側の証人」と比べると、切れ味がなまっているの感がある。

出来としては10点中5点と言うところか。クリスティも1967年にはすっかりおばあちゃんになっていたなと思った。ファンが望むから、無理矢理ひねりだした感じがある。

 

 

 

終わりなき夜に生まれつく Endless Night 1967 アガサ・クリスティ原作 矢沢聖子訳 ハヤカワ文庫刊

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