先日亡くなった宍戸錠を追悼してお送りする。
歌謡映画の形式を採っているが、映画自体は芦川いづみの事実上単独主演作品。彼女は知的障害者で女衒に売り飛ばされる難役だ。共演は宍戸錠とアイ・ジョージ。宍戸錠は競輪の予想屋で、アイ・ジョージは彼女を売り飛ばす女衒役。しかし二人とも彼女の無垢さを愛してしまう。
蔵原惟繕監督の名作「憎いあンちくしょう」(主演石原裕次郎、浅丘ルリ子)の次回作で、脚本は山田信夫。芸術祭参加白黒映画。

あらすじ

稚内の漁村では、知的障害を持つみふねはろくに働けず、一家は貧しく子沢山のため、女衒秋本に売られて本土へ連れて行かれる。潔癖症のため男に触れられたくないみふねは、函館近くで逃げ出し列車に乗り込みジョーに匿われる。
ジョーは競輪の予想屋だが、宏という選手に惚れ込み、彼について回っている。今日からは函館競輪に乗り込む。競輪場側の宿屋にみふねと泊まったジョーは毎日宏の練習を見ている。そこには宏の情婦もかつてジョーと関係を持っていた由美もいた。
ある日、一人でみふねがブラブラしているところを松本に見つかる。その場はジョーが松本を倒してくれたが、宏に競輪自転車の新車を無心されて5万円が必要となり、みふねを娼館のおきくに売り飛ばした金で宏と小樽競輪へ行く。置き去りにされたみふねは、松本に捕まるが列車に乗せられそうになるところを、松本を恨んでいる男が現れ、松本を刺してしまう。松本は人身売買で逮捕され、警察監視下の病院に入れられる。行くところのなくなったみふねは今度は松本の世話をするが、彼がギターを弾きたいというので買ってきてやる。みふねが口ずさむ「硝子のジョニー」を歌ってやると、みふねはその上でその歌にまつわる悲しい話を告げる。松本もみふねに歌をやめたのが妻が逃げたからと教える。
やがて松本は収監される日となったが、友人から松本の妻がいたという話を聞く。そこで松本は警察から逃れて妻を探しに行く。
一人になったみふねは母恋しやで函館から稚内に向かって飲まず食わずで歩き出した。
ジョーは小樽に着く前に宏と情婦に騙されて逃げられてしまう。みふねの元に帰るが彼女はいなくなり、仕方なく元の板前に戻っていたが、筋肉を落とした宏と再会しそれまでの情熱を失ってしまう。
松本も流しをしながら、盛場を妻を探して歌うが、ある日中年女になった妻と再会し、一言言葉を交わしただけで別れてしまう。
そしてジョーも松本も足は自然とみふねの故郷稚内に向いた。みふねは稚内に帰ったが、一家は直前に逃げており、みふねは孤独に耐えられず、北の海で入水自殺した。それを知ったジョーは海に向かってみふねの名を叫び、松本は何も言わず去っていった。

雑感

大筋はフェリーニの映画「道」のようなものだ。主演のジュリエッタ・マッシーナほどの演技力が芦川いづみにはないけれど、それでも彼女なりに懸命に演技をしている。知恵遅れぶりが彼女の表情から読み取れてしまう。
宍戸錠アイ・ジョージも似たような役どころでともにどちらも彼女を売り飛ばそうとするが、また愛してしまう。何故二人とも同じ相手(主人公みふね)を愛したのだろう。どちらか一人にした方が話が分かりやすかっただろう。
おそらくアイ・ジョージを相手役に起用したのはレコード会社とのタイアップだろう。しかしジョージの演技力が若干落ちるため、宍戸錠も相手役に使いたくて最終的にどっちつかずになったようだ。
予定稿ではみふねはジョーに救われるが、本編の映画はみふねが入水自殺する形でサッドエンドで終わっている。

なお、音楽を担当する黛敏郎の奥方桂木洋子がチラッと出演している。アイ・ジョージの元女房役で場末のクラブで彼が流しとして歌っているところで顔を合わせる。

そのシーンでアイ・ジョージは「さいはての海」(作曲六條隆、作詞藤田繁夫)を歌っている。またみふねがギターを買ってきたときに、その前年にヒットして紅白歌合戦に出場した「硝子のジョニー」を歌っていた。芦川いづみも「ティファニーで朝食を」のオードリー・ヘップバーンのように、「硝子のジョニー」をしばしば口ずさんでいた。

スタッフ

監督 蔵原惟繕
脚本 山田信夫
企画 水の江瀧子
撮影 間宮義雄
音楽 黛敏郎

キャスト

みふね 芦川いづみ
予想屋ジョー 宍戸錠
秋本孝二 アイ・ジョージ
由美 南田洋子
娼館の女将おきく婆さん 武智豊子
競輪選手宏  平田大三郎
宏の情婦和子 松本典子
秋本の元女房千春 桂木洋子
みふねの母 田中筆子

硝子のジョニー・野獣のように見えて 1962 日活製作・配給 追悼・宍戸錠

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