石井輝男の脚本を、彼自ら監督した雪山アクション映画。撮影は吉田重業。衣装は石津謙介と設立11年目のVANである。

主演は宇津井健、三原葉子、星輝美。白黒シネスコ作品。

あらすじ

粕谷五郎はオリンピックに出場したスキーの名手だったが、恋人千代子を雪山で死なせて以来、一人で山形県の山小屋生活を送り、山岳事故防止を啓発している山男だ。麓のスキー小屋の娘千春は彼を見習って将来、冬山指導員になるつもりでいる。

クラブに勤める女昭子は五郎に山を縦走するガイドを頼んだ。連れは青年菅野、峰山と中年の大平の三人組の男たちだ。五郎は、昭子が千代子に瓜二つなことに驚く。彼は軽装で登山は無理と一旦断るが、彼と千春が山小屋へ向かう道すがらも昭子達は付いてくる。
山小屋に一晩泊めてもらった昭子は五郎の昔の写真を見る。自分そっくりの女が写っているではないか。それが彼の婚約者千代子だったのだ。
翌朝、寝ていたはずの昭子の姿が消えていた。三人組は態度を豹変させ、千春に銃を突きつけ五郎に昭子を探しに行かせる。五郎は吹雪のなかを倒れている昭子を発見した。昭子は、三人組が宝石強盗犯であり、自分は人質にされたと告白する。
五郎は千春のことを心配して山小屋にひき帰す。彼ら菅野と峰山は仲間割れを起こすが、大平が今度だけは許してやろうと収める。
その夜、五郎は伝書鳩を使って麓と連絡を取ろうとするが、その伝書鳩を大平に撃たれる。伝書鳩の数を数えると、一羽少なくなっている。山小屋に着いた日に千春が新聞を届けろと麓に伝えたためだった。麓からは猟師が新聞を持って登って来たが、耳が遠くて犯人に気付かない。それどころか五郎が犯人の存在を伝えるために斜面から滑落させたスキーを置いて、そのまま去ってしまった。犯人たちと五郎は格闘になるが、その隙に千春は斜面を滑り降りて逃亡する。

警察に連絡されるのは時間の問題だと考えた三人組は、五郎と昭子に拳銃を突きつけ、山越えを強行する。途中でへばった大平は菅野に襲われて昭子の目の前でクレバスに転落する。
雪山にガスが発生してきた。危険を察知した五郎は、他の三人ともに肩を並べてビバークする。眠くなって来た三人を見て五郎は元気付けようと歌を歌い出す。負けじと、菅野がドンパン節を唄う。雪山では犯罪者も差別されない。
夜明けには天候も回復する。あと少しで登山口に出られると聞いた菅野と峰山は用のなくなった五郎に始末しようとするが、昭子に邪魔され、五郎のパンチで菅野と峰山は斜面を滑落していく。千春の連絡でやって来た山岳警察によって二人は逮捕された。五郎と千春は昭子を連れて頂上へ行き、ヤッホーと無事を喜び合った。

雑感

この山は山形蔵王かな。
作品は、特に後半部分が名作である。
ラストに宇津井健菅原文太(又はそのスタント)が斜面を滑落しながら殴り合うなんて、ハリウッドにもなさそうな、実にスピード感あるアクション・シーンだった。石井輝男監督が撮影吉田重業、音楽渡辺宙明に的確に指示を与えていたのだろう。編集もずば抜けている。

この映画を見て宇津井健は日本初のヒーローだと思った。「スーパージャイアント」を演じたと言うだけでなく、この作品のビヴァークのシーンでギャグのような笑いを取っている。ほとんど熱中先生キャラだ。実に得難い俳優だった。
一方、菅原文太はモデル上がり当時俳優2年目でまだまだ下手くそだけど、すでにアンチヒーローの香りがしている。

翌々年、石井輝男監督は斜陽となった新東宝を離れて東宝で「黒い画集 ある遭難」の脚本を書くが、この作品を認められたのだと思う。元々東宝には「銀嶺の果てに」と言う谷口千吉監督の1948年作品があった。脚本は黒澤明なんだけど、まさか巨匠になった黒沢には頼めない。でも煩型の原作者松本清張を納得させる出来でないといけない。他にも東宝には名だたる脚本家がいたのだが、わざわざ外部の石井輝男(すぐに東映所属)に依頼したのはこの映画で石井が山に通じていることがわかったからだろう。

スタッフ

製作 大蔵貢
企画 佐川滉
原案 牧源太郎
監督・脚本石井輝男
撮影 吉田重業
音楽 渡辺宙明
衣装 石津謙介、VAN
劇中歌「雪の降る町を」

キャスト

粕谷五郎(山小屋の主人)  宇津井健
大塚千代子/双見昭子  三原葉子
桂千春(スキー小屋の娘)   星輝美
菅野(宝石強奪犯)  菅原文太
大平(兄貴分)   大友純
峰山(弟分) 宗方祐二
友吉     小森敏
捜査隊長  村山京司

 

 

 

猛吹雪の死闘 1959 新東宝製作・配給 石井輝男監督の雪山アクション

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