農家の納屋に隠れていた謎の男と、勘違いして彼をイエス・キリストだと思いこんだ子どもたちの交流を描いたヒューマン・ドラマ。
主演(子役)ヘイリー・ミルズの母親であるメアリー・ヘイリー・ベルジョン・ミルズ夫人)の小説をもとに、キース・ウォーターハウスウィリス・ホールが共同脚色し、ブライアン・フォーブスが初めて監督をしている。音楽は「戦場にかける橋」を手がけた現代音楽家マルコム・アーノルド
共演はベテランのバーナード・リー、若手のアラン・ベイツ

 

あらすじ

北イングランドにあるランカシャー州の畜産農家には父、三人の子供、母代わりの伯母が暮らしていた。女の子は長女キャシー、次女ナンで、末っ子チャールズは悪戯盛りの六歳の男の子だ。ある日、三匹の子猫が川に投げこまれたのを見つけた三人は水から助け出し自宅の納屋に隠した。夜になってキャシーが納屋へ子猫を見に行くと、不精髭を生やして怪我をした男が隠れているのを見つけた。「だれ?」とキャシーが尋ねると、男は「ジーザス・クライスト(畜生!)」と呟いた。そのためキャシーはその髭男がイエス・キリストだと思い込み、怪我が癒えるまでけがが言える匿って差し上げようと思う。

 

キャシーは妹ナンにこの事実を伝えたが、末弟チャールズにもバレてしまう。チャールズは友人のジャッキーにそれを教えて、ジャッキーはさらに九人の仲間に広める。会わせろとせがまれて、キャシーはジャッキーたちをイエス様に紹介する。公園で十三人が遊んでいると、不良少年レイモンドがやって来た。彼はイエスのことを信じられないが、キャシーら十三人の子供たちが尽くイエスを称えるのを聞いて、気味が悪くなり逃げ出した。

 

チャールズは、自分の子猫をイエス様に捧げる。そうすれば自分の代わりに世話をしてくれると思ったから。しかしイエス様は子猫を相手にせず、子猫は死んでしまう。それを知り、チャールズはその男がキリストとではないと思い始める。それでもキャシーは信じ切っていて、男がトンネルに隠した拳銃を取って来てあげた。
チャールズの誕生日に、兄弟の父はワインがなくなっていることに気付く。ケーキを二つも貰おうとするナンに何故かと尋ねると、「イエス様」に差し上げると言い、チャールズはあんな男は神様ではないと言い出す。それを聞いて父は、我が家で大事件が起きていることに気付く。負傷した殺人犯が逃げ込んでいたのだ。

通報を受けた警官が来て納屋を取り囲む。キャシーは裏窓から男に急を告げ、近所の子供達に応援を頼んだから、それを盾にして逃げて下さいと言った。外の騒ぎに一瞬殺気立った男は、子供たちが集まっていると聞いて冷静になる。

 

そして警官に銃を渡して、縛に付くのだった。男はパトカーに乗せられて去った。
後から女の子がやって来て、キャシーにあの方はどちらに行ったのと尋ねた。キャシーは「あの方は戻ってくる」と頷いた。

 

雑感

傑作映画である。キリストの受難を描く福音書を模した、子供向け宗教劇である。
髭の男を信じた子供たちはまるでカルト狂信者のように描かれている。キャシーはペテロであり、彼女がいたためにイエスは生まれたと言える。チャールズがイスカリオテのユダだろうか。現世での利益を願ったのに叶わないからと言って、神を恨むのはユダらしい。おそらく髭の男も最もチャールズを恐れていただろう。ジャッキーに連れられ集まってくる子供たちは10人いて、三姉弟と合わせると十三使徒だ。最後に現れる女の子たちはパウロや信者であろう。彼女らはそのとき初めて髭男のことを知るが、途端に彼のことを待望し始める。

純粋に神を信じる(=自分を信じる)人間、神頼みをして後悔する人間、神に憧れる人間などが混在している。これは現実社会を風刺した作品でもある。

福音書を読む度に何かがわかり何かがわからなくなる。その理由がわかったような気がする。
何が正しいのだろうか。真の答えを得るためには、一生を賭けて生きてみるしかない。

 

 

ヘイリー・ミルズは名優ジョン・ミルズと劇作家メアリー・ヘイリー・ベルの間に生まれた二女である(長女ジュリエットも女優。長女の方が美人である。代表作は「お熱い夜をあなたに」「ぼくらのナニー」)。この作品は、英国アカデミー新人賞を受賞した「追い詰められて」、アカデミー特別(子役)賞を受賞したディズニー映画「ポリアンナ」に続く天才子役の三作目。母親が娘ヘイリーのために描いた作品で、前二作と比べると地味な作りだが、見事な狂信者役を演じている。

アラン・ベイツはこの作品で一躍スターになり、以降「ある種の愛情」「その男ゾルバ」「まぼろしの市街戦」「遥か群衆を離れて」「フィクサー」「恋」と60〜70年代にかけてトップ俳優であり続ける。

製作のリチャード・アッテンボローは監督に名伯楽ガイ・グリーンを据えるが、グリーンは何故か降りてしまい、俳優で脚本家だったブライアン・フォーブズが初監督を務めた。

この作品の特筆すべきは音楽である。現代音楽家マルコム・アーノルドが作曲して自ら指揮をしている。ここぞと言うところで心に残る映画音楽を書いている。

なおこの原作小説をもとにして、1996年にアンドリュー・ロイド・ウェバーが同名戯曲を書いてミュージカル舞台化した。2020年3月にようやく日本語での公演が開始されるが、すぐコロナ禍のため中止、公演終了にされてしまった。主演は三浦春馬と生田絵梨花であり演出は俳優でもある白井晃だった。
三浦春馬はコロナ禍の中でこの公演を続けたことと、不倫離婚した友人東出昌大に対する擁護コメントのためSNS上の批判にさらされていた。
彼の死も受難だったのか。

スタッフ

製作 リチャード・アッテンボロー
監督 ブライアン・フォーブス
原作 メアリー・ヘイリー・ベル
脚色 キース・ウォーターハウス 、 ウィリス・ホール
撮影 アーサー・イベットソン
音楽・指揮   マルコム・アーノルド

 

キャスト

長女キャシー  ヘイリー・ミルズ
次女ナン    ダイアン・ホルゲート
長男チャールズ   アラン・バーンズ
友人ジャッキー   ロイ・ホルダー
不良レイモンド   バリー・ディーン
父ボストック氏    バーナード・リー
謎の男     アラン・ベイツ
下男エディ   ノーマン・バード
日曜学校教師ロッジ先生   ダイアン・クレア
救世軍の女性   パトリシア・ヘネガン

 

 

 

 

汚れなき瞳 Whistle down the Wind 1961 英アライド・フィルム製作 ランク・フィルム配給 日本RKO1962国内配給

投稿ナビゲーション