安川実(ミッキー安川)の原作を、スティル担当の斎藤耕一と倉本聰が共同脚色し、中平康が監督した、ヌーヴェルバーグを思い起こさせる風俗映画。撮影は山崎善弘で陰影の美しい白黒映画である。
主演は、当時松竹所属だった加賀まりこ。
共演は中尾彬、加藤武、梅野泰靖。
あらすじ
1964年、横浜のナイトクラブで働く18歳のホステス、ユカはジャマイカへの旅行に憧れる明るい性格で、少し頭が弱くて誰とでも寝るがキスだけは誰にも許さない娘だった。
ユカに「パパ」と呼ばれるパトロンがいた。パパは、大きな荷役会社の社長をしていた。パパが忙しい日は、ユカが若い男と付き合っても怒らなかった。
日曜日、ユカがBFの修と歩いていた時、パパが奥さんと一緒にまだ幼い娘に人形を買ってやるところを見た。パパは嬉しそうだった。ユカは、修とそんなパパ一家を一日中尾けた。そして夜空の下で、疲れ果てた修と人目を避けて愛し合った。
かつてユカが好きだった奇術師が横浜に舞い戻ってきた。彼はユカのことを愛するばかりに、ユカの愛の軽さに耐えられなくなって横浜から消えたのだ。(波多野憲の楽屋で化粧を落とすシーケンスが最も好きだ)
ユカもパパを喜ばせてあげたいと思った。ユカは、パンパン上がりの母から男に尽くせと常々教えられて育ったのだ。男を喜ばせることが、女の生きがいと信じて疑わなかった。
ユカは旅行代理店に勤める、前のBFフランクに会いに行った。フランクに私は変わったから、抱いてみてくれと言う。しかしフランクは、ユカのどこが変わったのか分からなかった。男の言いなりになることが愛だと思い込むユカにフランクは、ビートニクス酒場の男たちと遊べと命ずる。男たちを教会へ連れ込んだユカは、全裸になって順番に抱いてと言うが、彼らは気味悪がって去っていく。
家に帰り着いたユカをパパが待っていた。パパは怒ったが、ユカは疲れて眠ってしまう。パパはユカを起こさないように寝かしつけて会社に出かける。
修がやって来た。ユカは、パパを喜ばせるために日曜に母親を連れてパパと人形を買いに行くと言った。修は、日曜はパパの家族サービスデーだからダメだと言った。それならば月曜に買ってもらうとユカは言った。修は怒って出ていく。
ユカは母の入れ知恵で、花束を買って修の家の前で花びらをばら撒く。翌日には修と仲直りして、横浜港の赤灯台のたもとで愛し合う。
その頃、パパは商売に行き詰まっていた。パパが商談を持ちかけると、交換条件に外国船長はユカを一晩抱かせろと要求してきた。パパは返事を渋った。
月曜日に着飾ったユカは、母とともにパパに会いにホテルにやって来た。パパに人形を買ってもらおう、そうすればパパは喜ぶだろうと思い込んでいたのだ。だが母親のケバケバしい(いかにも商売女風の)姿を見て、外国船長と商談中だったパパは、焦った。そしてユカと母親を放置して姿を消した。
それからある夜、ユカはパパに嫌われたかもと修に言った。修は結婚しようと提案した。
その時、パパが訪ねてきて修は裏に隠れた。パパは不景気になったので商談の邪魔をされて焦っていたと謝った。その上で「船長と寝て欲しい」と頼んだ。ユカはパパを喜ばすために、船長と寝る決心をした。その代わり、10万円を要求する。それは修と一緒に暮らすアパートを借りるための敷金だった・・・。
雑感
ヌーヴェルバーグ風映画ということで、ややヨーロッパ寄りに作ったところがある。だから、バタくさくみえるのが欠点だろう。日本人にも結婚したくない女はいたわけだから、ミッキー安川の原作以外にも、題材はあったと思う。
加賀まりこは、祖父が衆議院議員であり、父や伯父、兄は映画やTVプロデューサーという芸能一家で育つ。スカウトされて最初は松竹に所属していた。
日活の中平康監督は、彼女にブリジット・バルドーの面影を見たのだろう。彼女を松竹からレンタルして、この作品の主役に抜擢したが、それがはまり役だった。
彼女のコケティッシュは有名だが、それを映画の前半に表に出して、後半は彼女が試行錯誤して愛とは何かをもがき求める姿を描いている。
彼女のバックヌードは、何度も映画の中で映されるが、全くいやらしく感じない。女性に向いている作品だと思う。
中尾彬は、日活ニューフェイスでありながらフランスに留学し帰国後は劇団民藝にも参加した変わり者だ。この映画が初の助演作で話題になった。日本人にしては、口が大きいと感じた。
他でも重要な役を新劇俳優で固めている。日活俳優は山本陽子も谷隼人もモブだった。
波多野憲は、奇術師の1シーケンスだけだけど、上手かったなあ。加賀まりこの一人語りを背中で聞き流す芝居を、加賀に見せていた。またカメラの陰影の作り方、編集どれをとってもヨーロッパ映画だった。
加藤武は粋人でのちに文学座代表になったのだが、美女と絡む芝居はやりにくかったとみえる。加賀まりこを第ている表情があがった素人っぽい。
北林谷栄の若い母親役というのはこの映画で初めて見た。凄かった。
斎藤耕一はスチル写真の担当が専門だったが、この作品では脚本を書き、1967年には自社プロを立ち上げて監督となり名作映画を世に送り出した。
スタッフ
企画 水の江瀧子
原作 安川実 (ミッキー安川の本名)
脚色、スチル 斎藤耕一
脚色 倉本聰
監督 中平康
撮影 山崎善弘
音楽 黛敏郎
キャスト
ユカ 加賀まりこ(当時松竹)
ユカの母 北林谷栄
修 中尾彬
パパ 加藤武
奇術師 波多野憲
船長 ウィリアム・バッソン
牧師 ハロルド・コンウェイ
フランク 梅野泰靖
夢の中の警官 日野道夫
ネタばれ
ユカの決意を裏から聞いていた修にユカを責める。ユカは修にキスしてもいいと告げるが、修はユカをぶって出て行く。
ユカは幼い頃母親と黒人兵のキスするのを覗いていたのを外人神父に咎められたことがトラウマになっていたのだ。
翌日、修が死んだとフランクが知らせて来た。外人船長に抗議するために船に乗り込もうとして事故死したのだ。ユカは修の遺骸にキスする。ユカは泣いていた。
パパとの約束通りユカは船長に抱かれた。しかし船長はキスをしてきて、ユカは拒んだ。逃げ出したユカは、埠頭で音楽に合わせて踊ろうとパパを誘う。踊り疲れたパパは海へ落ちてしまう。溺れるパパを放置して、無表情でユカは去って行く。