天才製作者スタンリー・クレイマーが製作兼監督した三本目の作品。互いに鎖で結ばれたまま脱走した白人と黒人が果たして何をするか?

音楽はアーネスト・ゴールドだが、音楽はラジオのジャズと主演シドニー・ポワチエが歌う民謡「ロング・ゴーン」だけしか使っていない。アカデミー脚本賞(ネーサン・E・ダグラス 、 ハロルド・ジャコブ・スミス)と白黒撮影賞(サム・リーヴィット)を受賞した。

共同主演はトニー・カーティス、共演はカーラ・ウィリアムス、セオドア・バイケル、ロン・チェイニー・Jr。白黒シネスコ作品。
シドニー・ポワチエはベルリン国際映画祭男優賞を受賞した。

あらすじ

囚人護送車が悪天候のためハンドルを切り損ない崖から転落した。白人のジャクソンと黒人のカレンの二囚人は、手首を鎖で繋がれたまま脱走した。イタリア移民の子であるジャクソンは一攫千金を夢見て強盗を犯し、黒人カレンは銃を持った白人から身を守るため相手を殴り倒して殺人未遂の罪で刑務所に放り込まれていた。

一方警察では、所轄のミュラー保安官を指揮官としてギボンス警部と警察犬、志願した民間人が加わり山狩りを開始する。
囚人達は増水した河を命からがら渡り、食用ガエルを捕まえ、逃走を続ける。二人は嫌でも協力しなければならない状況にあった。ある店に二人は食料を探しに潜り込むが、足を滑らしたジャクスンは手錠で手首を切り、派手な物音を立ててしまい、村人たちに捕まった。マックは二人の鎖を見て脱走犯と知り、自分たちで処刑しようと村の男たちに提案するが、刑務所暮らしをした経験を持つ大男サムに救われた。

ようやく解放された二人は、絶望的な気持ちになり相手に責任を擦り合い、大喧嘩になった。その時、ライフルを持った、10歳ぐらいの男の子が現れた。二人は銃を奪うと子供の家に向かった。子供の父親は家出して、美しい母親と二人暮らしだった。母親は事情を飲み込むが、一軒家のため抵抗できず、二人に食物を差し出した。息子は鎖を切る道具を二人に与えた。ようやく自由になったジャクソンだが、手首の傷に黴菌が入ったらしく、発熱して倒れた。一晩中、看病するうちに母親はイケメンであるジャクソンに色気付いてしまう。

翌朝、北に逃げたいというカレンに沼を抜ける近道を教えた。カレンが発った後、その道が実は底無し沼に通じると母親に聞かされたジャクソンは、カレンを助けようとする。しかし行かせまいとする母親ともみ合いになり、ジャクソンは少年に銃で肩を撃たれる。ジャクソンはそれでも痛みに耐えてカレンに追い着き、沼から脱出させる。
しばらく行くと、二人は鉄道にぶつかる。まさに機関車が減速して鉄橋を渡ろうとしていた。カレンはなんとか貨車に乗り移ることができる。ジャクソンはカレンの伸ばした手を握ろうとするが、力尽きて倒れ込み、その拍子にカレンも落車する。

ミュラー保安官が彼らに追いついた時、動けなくなったジャクソンを膝に、カレンは黒人民謡を小声で口ずさんでいた。

雑感

ここで描かれているのは、協力せざるを得ない環境に置かれた時に、憎しみ合うように育てられた白人と黒人は何をするかという思考実験の一つの結果だ。
しかし協力はせずに体力の優れた方がもう一方を殺したうえで、腕を切って逃げる方法もありそうだ。
さらにこの映画は、白人は黒人と仲良くすべきだが、女性は男性より劣ると見ているようにしか見えない。フェミニストから見れば、もう古臭い民主主義なのだろう。

シドニー・ポワチエの方が評価されているが、個人的にはシドニー・ポワチエよりトニー・カーチスの演技を買いたい。でもカーラ・ウィリアムスが色キチガイの母親役を演じて、彼女が助演賞をもらっても良かったミュラー保安官役のセオドア・バイケルは脱獄囚に対するリンチを避けたいが、二人を逃がすわけにも行かないジレンマをもう少し深く掘り下げて欲しかった。その代わりとして、囚人を庇う役を演じたロン・チェイニー・Jrがなかなかの名演だった。

ユダヤ人夫婦の子供としてニューヨークに生まれたスタンリー・クレイマーは戦時中からハリウッドの戦意高揚映画の制作に携わっていたが、戦後になると自分の好きな映画を作る独立プロダクションを設立し「真昼の決闘」「ケイン号の叛乱」の製作者としてアカデミー作品賞にノミネートされる。その後、製作兼監督を努めるようになって三作目が白人と黒人の融和を求める「手錠のままの脱獄」、四作目が核戦争の恐怖を描いた「渚にて」だ。その次がモンキー裁判を扱った「風の遺産」でマッカーシズムを暗に批判している。その後が「ニュールンベルク裁判」。いかにも、社会主義寄りの民主党支持者でありながら、マッカーシー上院議員からあまり攻撃に晒されなかった。

 

スタッフ

製作・監督 スタンリー・クレイマー
脚本 ネーサン・E・ダグラス 、 ハロルド・ジャコブ・スミス (アカデミー脚本賞)
撮影 サム・リーヴィット (アカデミー撮影賞)
音楽 アーネスト・ゴールド

キャスト

ジョン・ジョーカー・ジャクソン  トニー・カーティス
モア・カレン  シドニー・ポワチエ
女  カーラ・ウィリアムス
マックス・ミュラー保安官   セオドア・バイケル
フランク・ギボンズ警部   チャールズ・マッグロー
大男サム  ロン・チェイニー・Jr
マック  クロード・エイキンズ
子供   ケヴィン・コフリン

 

 

手錠のままの脱獄 The Defiant Ones 1958 スタンリー・クレイマー製作 ユナイト配給

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