雑誌宝石に1957年から1959年1月まで連載された横溝正史の同名推理小説を結束信二が大幅に書き換えて脚本化し、渡辺邦男が監督したミステリー映画

先輩片岡千恵蔵譲りのダンディな主役金田一耕助高倉健が演ずる。共演は小野透、志村妙子、永田靖、中村是好ら。白黒シネスコ映像。

 

あらすじ

故郷鬼塚への途にあったアイドル和泉須磨子とマネージャーが殺害される。鬼首町警察に捜査本部が置かれて磯川警部が捜査に当たる。須磨子の父親由良剛造に心当たりを尋ねるが、何かを隠しているようである。
スポーツカーに乗ったサングラス姿の金田一耕助が颯爽と登場し、亀之湯旅館に泊まる。隣の部屋には足の悪い石山が湯治で長く泊まっており、暇があれば謡曲を唸っている。由良里子(須磨子の妹)の恋人遠藤が弔問にやって来た。
葬儀後、かつて鬼塚に暮らしていた辰造が剛造を訪ねてきた。何やら剛造との間に遺恨があるようである。亡くなった須磨子の追悼番組で、彼女が匿名のリクエストで歌った手毬唄が流される。その唄を聞いた剛造は、何かを思い出したように激しくうろたえる。
その翌日の夜、石山が部屋で謡曲を歌っている最中に、金田一は異変に気がつく。旅館の非常階段に通じる扉が開かれたのだ。誰かがここを通り外に出たらしい。
すると急に異常を知らせる半鐘が鳴らされる。仁礼源一郎(剛造の長男)が殺されたのだ。銃声がして、剛造が源一郎の部屋に行くと、息子は撃たれて死んでいた。磯川警部の現場検証中に金田一が現れ、これは猟銃自殺に見せかけた毒殺だと示唆する。実は今は亡き須磨子から依頼されていた。

里子は、警察など大勢が出入りする屋敷から恐怖で逃げ出し、遠藤と金田一を頼って亀の湯にやって来る。剛造には半年前に誰かから脅迫状が届いていたのだ。金田一と遠藤は里子を屋敷に送るが、途中道路にオイルを撒いてあり金田一の車はスリップを起こし、あと少しで底なし沼に落ちそうになる。

翌日、金田一は遠藤を助手に任命して、放庵老人に手毬唄を教えてもらう。放庵によると辰造を世話していたが、前日から帰ってこないという。青戸牧場の跡に放置された牧舎を金田一たちが覗くと、辰三は酔っ払っていたが、源一郎が殺されたことを知らなかった。そのころ剛造は何かを庭先から拾い上げる。犯人の証拠らしい。
昔話によると戦時中、青池という男が自分に仕えていた剛造に実印を偽造されて財産をだまし取られ、妻子は手毬唄を歌いながら、沼の周りに咲いている沢桔梗の毒を飲んで心中したという事件があり、青池の夫も死んだと思われていた。
その後辰蔵も金田一の目の前で、飲んだ酒に含まれていた沢桔梗の毒で死ぬ。

<ネタばれ>

実は青池は20年前に死んではおらず浮浪者として辛酸を舐めたのだ。今は石山と名を変え亀之湯の2階で暮らしている。かつて妻子が飲んだのと同じサワギキョウの毒を飲ませて源一郎に服毒させ意識朦朧としたところを猟銃自殺に見せかけて殺した。辰蔵は、そのあと、道路に撒くためガソリンを牧舎に取りに来た青戸を見かけたが、黙っていた。

辰蔵殺しは、青戸と辰造が一味だと思い込んだ剛造の犯行であり剛造は逮捕される。青池は、剛造の犯行が明らかになると毒入り酒を飲んで自殺した。

雑感

1977年の市川崑監督・東宝映画「悪魔の手毬唄」と言えば、日本ミステリー映画史上ナンバーワンに輝く名作だ。
しかしこの原作を16年前に東映の子会社であるニュー東映が、初めて映画化していた。その作品が今となっては、原作と別物のカルト映画になっている。DVD化もされていない。

まずは鬼首村ではなく岡山県鬼首町字鬼塚と設定が変わっている。故郷に錦を飾るアイドル歌手(原作ではヒロインである別所千恵子)が真っ先に殺される。仁礼家のライバルである由良家は登場しない。亀の湯の女将も姿を見せない。

これだけ何もかも違っていると、タイトルを貸しただけの映画ということになる。
原作を読んだり、1977年の東宝作品と比べると、かなり出来は悪い。
しかしそれは早撮りで俳優がセリフの意味を理解していないからであり、第三の被害者役を演じた中村是好は早撮りにも関わらず、きちんと役柄を把握して立派な芝居をしていたと思う。

さらに撮影は要所での犯人の行動を映しており、全く問題がない
脚本は例えば20年前のエピソードが、金田一の回想シーンのように描かれているが、これは彼が既に調査してきて推理した内容なのだ。私が監督ならば、こんな撮り方はしない。
しかし渡辺邦男監督も上映時間を1時間半に抑えなければならず、こういう編集になってしまったと思われる。

高倉健が、原作と離れた金田一耕助を演じていると難癖をつける人がいるが、片岡千恵蔵もダンディ金田一を演じたことがあり、東映の伝統だったのだ。東映だけでなく、東宝も明智小五郎と同じような金田一耕助を作っていた。これは探偵と言えば明智小五郎の時代があったのだから、仕方がない。

始まって30分で非常扉が開いたことから旅館内部からの犯行だと金田一にはわかってしまう。だから里子に屋敷の方が安全と言って返したのだが、里子は護衛の栗林を嫌がって、何かにつけて金田一と遠藤を頼ってくる。それが騒ぎの元になる。

金田一が、部屋にこもって姿を見せない○○が怪しいと思うのは当然だ。ただその時点で金田一は、辰蔵とどう関係しているかが、わからなかったのだ。
監督や脚本はこの映画を犯人当て映画としてきちんと考えていた。原作の似ても似つかないと考えるよりは、原作を読んだ人に与えられた練習問題的に考えたらどうか。原作を読んでいない人に文句を言われる筋合いはない。

スタッフ

企画 猪又永一
原作 横溝正史
監督・脚本 渡辺邦男
脚本 結束信二
撮影 渡辺孝
音楽 山田栄一

キャスト

金田一耕助 – 高倉健
秘書白木静子 – 北原しげみ
磯川警部 – 神田隆
遠藤和雄 – 小野透 (美空ひばりの実弟)
仁礼剛造 – 永田靖
仁礼源一郎 – 大村文武 (映画月光仮面主演)
仁礼里子 – 志村妙子
仁礼宮子 – 不忍郷子
歌手和泉須磨子 – 八代万智子
石山伍堂 – 石黒達也
多々羅放庵 – 花沢徳衛
辰蔵 – 中村是好
湯治客五郎 – 菅原壮吉
湯治客日下部 – 山口勇
湯治客吉田 – 増田順司
仁礼の番頭栗林 – 山本麟一

 

 

 

 

 

 

 

悪魔の手毬唄 1961 ニュー東映製作 東映配給 高倉健主演

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