中平康と増村保造は外れの少ない監督である。東大の後輩である山田洋次より打率は高い。ただ長生きしなかった。
これは名画座でよく掛かっていた中平監督の傑作。最近DVDも出ている。彼特有のスピード感あふれるカット割りとセリフ廻しを堪能できる。

クレジット順と関係なく主役は中原早苗(深作欣二の未亡人だったが2012年没)である。中原早苗のインタビュー集「女優魂中原早苗」の表紙を飾っているのがこの映画の1シーンだ。打たれているのは、劇団民藝に入る前の伊藤孝雄。何故打たれているか知りたい人は映画をご覧ください。

 

あらすじ

当時の私立大学は、真面目で貧乏な学生は高い学費のためアルバイトをしながら、寝る間を惜しんで学業に励み、不真面目で裕福な学生は大学も行かず遊び回っている。

大学の風紀を正したい理事長に招聘された真木(仲谷昇)が学長に就任する。しかし就任演説で学費の四割増しを発表したから、学生たちは大混乱。血の気が多いノエミ(中原早苗)と由枝(清水まゆみ)は自治会に協力して激しい学生運動を行う。
優等生の晃子(芦川いづみ)は学費のため、バーのバイトに応募する。しかしバイト先のオーナーのバカ息子靖夫に騙され、殴られた上にレイプされてしまう・・・。

 

 

雑感

 

アメリカべったりで安保改正に成功した岸首相(安倍首相の祖父)時代はなべ底不況の真っ最中で、大学生の就職率が非常に悪かった。まだ子だくさんの時代だったから、親の仕送りも減り、東京の私大生の生活は苦しかった。そういう時代背景を頭に入れて見て欲しい。
ラストシーンでノエミが飛行機の音を聞いて「うるせえぞ、ロッキード!」と叫ぶのは、60年安保運動まっただ中の名シーンだった。新宿出身の中原早苗は中平康とベストマッチだった。

一方、中平康は、彼のテンポと合わないのに(会社のご指名だろうが)芦川いづみをよく使った。中平映画だって最後までぶっ飛ばしていられない。小休止は必要だ。そういうコントラストの必要な場面を、芦川の魅力が支えていた。
とは言え、この映画を芦川ファンが初めて見る場合には注意が必要。台本通り23発も彼女は殴られ、脳しんとうを起こしたそうだ。だから、○○シーンも憎しみが籠もっていた。
相手役は波多野憲、この場面だけで、歴史に名前を残した。彼は劇団民藝に在籍して、悪役専門でアクション映画にも良く出ていたが、50代で亡くなった。

芦川にとっては日活にしては珍しく女性の出演者が多い作品で、同世代の新劇系の友人ができたと言って、映画に出演したことを喜んでいる。

 

スタッフ・キャスト

監督 中平康
原作 曽野綾子
脚色 山内久
企画 大塚和
撮影 山崎善弘
音楽 黛敏郎

配役
ノエミ 中原早苗
晃子 芦川いづみ
松子 岩崎ちえ
由枝 清水まゆみ
セツ 松本典子
怜子 楠侑子
朝子 高田敏江
山本 長門裕之
奥山 伊藤孝雄
黒川 武藤章生
靖夫 波多野憲
吉野 岡田眞澄
真木 仲谷昇
長岡 清水将夫
沢講師 下元勉
父完三 殿山泰司

 

 

学生野郎と娘たち 1960 日活 「うるせえぞ、ロッキード!」中平康が描く学生群像劇

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