昨年から今年にかけて豊作のアニメーション映画でとくに面白い映画だった。ただしネットの評判を見ていると、原作既読者の中に受け入れられない人が多いようだ。たしかに大きく改変されている。これはアニメ化ではよく見られる手法だが、慣れていない人には難しいと思う。ちなみに自分は原作小説も漫画も既読だが、小説、漫画、アニメそれぞれに良さがあって面白かった。とくに秋と冬の章が面白い。

作者・森見登美彦の前作「四畳半神話大系」は天才湯浅政明監督とマッドハウス制作により2010年テレビアニメ化(フジテレビ・ノイタミナ)されている。湯浅監督が同じメンバーで今作品を作ったと言っていたので、脚本、キャラ原案、主題歌(アジカン)が同じである他に制作のサイエンスSARUはマッドハウスから分かれたのかも知れない。
ただし配役が変わっていた。京大生である主人公の声は無機質な浅沼晋太郎から俳優の星野源に、前作のヒロインは工学部の明石(声・坂本真綾)から文学部の黒髪の乙女(声・花澤香菜)に変わっている。ヒロインは、キャラ自体が変わったから声を変えて良いと思う。しかし主人公は同じキャラなのに声が変わってしまい、最初のうちは違和感が残った。星野源は俳優なのに意外だが滑舌が悪い。脳梗塞の後遺症だろうか。この役の見せ場は早口なのにそこを活かしきれていない。
他には、ひょうたん面の樋口の声が藤原啓治から中井和哉に変わっている。これは藤原が病気療養中だったからで仕方がない。
原作小説が四つの章で四季を一巡りするように、映画でも一本約20分程度のアニメを四つ繋げた展開となっている。ただし秋と冬が見せ場だけに少し長めに構成されている。
春は、先輩の結婚式に参加した主人公は別の席に座っている乙女が気になって仕方がない。しかし一人で声をかける勇気がない主人公はパンツを取られて東堂の閨房調査団(春画同好会)に入れられて、とんでもない目に遭う。一方、乙女は詭弁部の連中と詭弁踊りを踊りながら飲み明かして、最後は東堂の借金を賭けて李白老人(寿老人)と偽電気ブランの飲み比べを挑む。

夏は下鴨納涼古本まつり。乙女がある本を求めてそこへ行くという話を聞き、主人公は何としてもその本を手に入れて乙女と話をするキッカケにしたいと考えている。しかしその本は李白老人が所有しており、真夏の灼熱地獄鍋を最後まで食べたら本を与えると言う。
秋は学園祭のシーズン。京大祭も行われる。京大祭には実行委員会の警戒の目をくぐり抜けゲリラミュージカルを行うグループがあった。主演女優は次々と逮捕されて、とうとう乙女が最後の幕のヒロインとなる。相手役は好きな女性と再会するまではパンツを履き替えないパンツ総番長であり、ラブシーンも用意されている。それを知った主人公は何とか阻止しようとするが…。

冬は風邪のシーズン。誰かが風邪の見舞いに行って風邪をうつされ、連鎖反応で町中が風邪だらけだ。乙女だけは全く風邪を引かず、見舞いばかり行っている。李白老人も風邪で倒れ、乙女は見舞いに行く。そこで弱っている李白を勇気付けると、李白にもっとすごい風が吹き付けていることを教えられる。
一方、主人公も風邪になり、誰も見舞いに来てくれず、咳をしても一人。そこへ悪友の事務局長と小津から連絡が入り、乙女が主人公宅へ見舞いに来ると言う。そこから主人公の果てしない葛藤が始まる。

秋のミュージカルシーンも好き嫌いが分かれたが、ミュージカル好きなら歓迎する場面だ。そのために新妻聖子をキャスティングしたのだ。
また冬の二人が嵐の中で出会うシーンは、ディズニーやジブリのパロディである。単純なボーイ・ミーツ・ガールが好きな人ほど、ラストの見せ場として納得できる場面だろう。けれども原作の短い文章をよくここまで広げたものだと思う。
後半は映画に没頭できた。第41回オタワ国際アニメーション・フェスティバルで長編映画グランプリを受賞したが、見る人が見れば国境を超えて良いものは伝わるのだ。

監督 湯浅政明
原作 森見登美彦
脚本 上田誠
総作画監督 伊東伸高
キャラクター・デザイン 伊東伸高
音楽 大島ミチル
主題歌 ASIAN KUNG-FU GENERATION
キャラクター原案 中村佑介
声の出演
先輩(主人公) 星野源
黒髪の乙女 花澤香菜
学園祭事務局長 神谷浩史
パンツ総番長 秋山竜次
樋口師匠 中井和哉
羽貫さん 甲斐田裕子
古本市の神様 吉野裕行
紀子さん 新妻聖子
ニセ城ケ崎 諏訪部順一
プリンセスダルマ 悠木碧
ジョニー 檜山修之
東堂さん 山路和弘
李白さん 麦人