東京家裁
真知子(岸恵子)は離婚調停に乗り出した。しかし当時の調停制度では、なかなか別れられそうにない。また春樹(佐田啓二)を濱口(川喜多雄二)は民事告訴していた。
真知子とおば(望月優子)は、綾(淡島千景)の店に厄介になっていた。真知子は春樹の裁判のことを考えると眠れない。そのとき上司の永橋(柳永二郎)が真知子を呼び出す。彼は真知子の味方だったが、濱口と話し合った。そして身柄を九州に赴任している彼が預かり、一旦調停を取り下げ冷静になってお互いに考えることを提案した。結局、彼女は九州行きの話を飲まざるを得なくなった。一方、春樹も苦い思い出のある北海道を去り、上京する。
九州編
真知子は雲仙のホテルで事務員として勤めている。今日は副知事になっている永橋がやって来て、濱口の伝言を伝える。春樹以外の男と結婚するのであれば、離婚を認めると言うのだ。愕然とする真知子だったが、ホテルの客副島(大坂志郎) が慰める。
東京では春樹が勤める婦人雑誌社に濱口が現れ離婚条件を提示する。実は濱口は再婚を考える相手が現れたのだ。美子(紙京子)と言う事務次官のお嬢様だ。
梢(小林トシ子)の混血の息子が車に撥ねられる。執刀した医師野島(三橋達也)は今日が峠だと言う。梢と野島は一晩中、付きっきりで見守り峠を越えるが、以後二人は急接近する。
真知子は、副島に結婚を申し込まれる。しかも濱口に離婚を認めさせるために形式的結婚をしようと言う。濱口家に美子がやって来て、結婚の第一条件は姑との別居だと言う。驚くべきことに濱口が美子に同調したのである。
姑は突然雲仙へ真知子を訪ねるが、強行軍だったのでホテルに着くなり肺炎で倒れる。さらに春樹までやって来る。春樹は仕事で欧州へ行くことになって、別れの挨拶をしてまた去っていった。意識が戻った姑は、真知子に家に戻ってくれと泣いて頼む。今更姑に謝られても言葉がない真知子だった。ついに真知子まで病で倒れてしまい、永橋の世話で阿蘇の高原へ保養に行く。そこに副島がやって来て再び形式結婚の話を持ち出す。しかし彼女は夫を騙してまで再婚したくなかった。
濱口もやはりマザコンであった。美子との縁談を断って母との静かな生活を送ろうと思い直す。
最後の東京編:
真知子は綾と野島の尽力で東京の病院へ転院する。そこへ濱口が母の礼を言いに来て、離婚届を渡す。
綾が春樹の早期帰国のため尽力していたとき、真知子は無理を押して思い出の数寄屋橋へ一人で行き、肺炎で倒れてしまう。野島はあとは気力といい、綾とおばは不眠不休で看護する。その甲斐あって真知子は持ち直し、帰国した春樹と晴れて結婚することになる。最後は綾が数寄屋橋に佇み「忘却とは忘れ去ることなり」と呟くのだった。
東京での闘病シーンは、すべての俳優さんに力が入ってなかなか泣かせる芝居だった。そして最後まで二人に振り回された綾が忘却のセリフを言うシーンが、一番好きだ。綾は自分の愛する春樹と頼りない真知子を一緒にするために懸命に看病し、その結果忘却のセリフが出て来るのだ。「忘却とは忘れ去ることなり。(忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ)」綾は自分の幸せに目を瞑って人の幸せを願ってしまった。人生劇場か唐獅子牡丹なみの男前な台詞ではないか、民主主義にも残酷な一面があるというわけだ。
回想シーンとして第一部映像を再利用していた。だから実際の尺は1時間50分足らず。新メンバーも大坂志郎と紙京子。地方ロケは美幌、雲仙、阿蘇ぐらいか。プロデューサーはあまりコストを掛けていない。そこがこの第3部を地味にしている原因か。
しかし地味とは言え、「君の名は」の王道を進み、会えそうで会えない、会ったのにすぐ別れて観客をやきもきさせる。
この映画がかかっているとき、果たしてどれだけの人が結末を知らずに見たのだろう。ラジオドラマは4月4日に終わり、映画は4月27日に始まっている。ほとんどの人が結論を知っていて見たはずだ。それでも当時は目を赤くした人が映画館から出て来たと思う。
それと比べ最近の人は映画の中の病気ぐらいでは泣けない。冷たくなったものだ。
監督 大庭秀雄
製作 山口松三郎
原作 菊田一夫
脚色 柳井隆雄
撮影 斎藤毅
音楽 古関裕而
配役
後宮春樹 佐田啓二
浜口真知子 岸惠子
石川綾 淡島千景
浜口勝則 川喜多雄二
浜口徳枝 市川春代
角倉信枝 望月優子
副島渡 大坂志郎
永橋 柳永二郎
野島八郎 三橋達也
梢 小林トシ子
清宮美子 紙京子
仁科悠起枝 月丘夢路
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