ドン・シーゲル監督が映画「マンハッタン無宿」と「ダーティー・ハリー」製作以前にNYPD(ニューヨーク市警)を舞台にした映画作品。

リチャード・ウィドマーク演ずる分署勤めの平刑事とヘンリー・フォンダ演ずる市警本部長それぞれの三日間の苦悩をパラレルに描く、いわば警察群像劇のようなもの。

 

NYPDのマディガン刑事は金曜日の早朝に同僚のボナーロと一緒に、ベネッシュを一旦逮捕するが、逆襲され銃まで奪われ逃走される。問題は直接の上司から連絡が回り回ってトップのラッセル本部長に伝わる。彼らは謹慎処分が妥当だったが、マディガンをよく知っていたラッセルは三日以内の犯人逮捕を命ずる。マディガンたちは寝る暇も惜しんで手がかりを求めるが空振りだらけ。マディガンの若妻ジュリアは欲求不満が貯まって爆発寸前だが、マディガンにそんな元気はない。ラッセルはラッセルでマディガンの件以外に長年の友であるケイン警視長に収賄容疑が発覚し、その上不倫相手と別れ話が持ち上がっている。マディガンはジュリアが行きたがっていたパーティーへ連れて行くが、すぐ捜査に戻らなければならない。怒り心頭のジュリアはやもめ男と一線を越えそうになる。しかし警邏中の巡査がマディガンの銃で撃たれる。日曜日、マディガンはようやくベネッシュの居所を掴み、防弾チョッキを着けずに部屋に乗り込んでいく。

 

マディガンは強面だが、適当に要領が良くて憎めない。彼のこまめな捜査が空振り続きになるところは、リアルだった。しかしプライベートでは若い美人妻をもらったおかげでかえって苦労続き。

一方、ラッセル本部長は銃の盗難事件だけでなく部下の贈収賄疑惑や捜査時の人種差別問題(当時は公民権運動が盛んだった)に頭を悩ませ、唯一の救いだった不倫相手にも逃げられそうだ。

この映画には生々しさはないが、渋いリアルさがある。昔から好きで何度も見ている作品だ。

半分悪が混じっているリチャード・ウィドマークと正義を標榜するゆえに悩むヘンリー・フォンダの組み合わせが妙味。警察と考えず、自分の会社に置き換えればわかりやすい。いわば有能だがちょっと不良な社員とたたき上げ社長の対立、そして右腕である専務も少し悪に手を染めている。「ダーティー・ハリー」のようなドンパチよりも人間くさいこの作品の方が良い。

インガー・スティーブンスは他の作品では見ない顔だが、映画映えのする美人だ。スーザン・クラークでもとうてい敵わない。

なお、NYPDの職制は複雑だが、Comissioner は警視総監ではなく本部長と訳し、部下の本部長と呼ばれた役職を警視長と訳した。
監督 ドン・シーゲル
脚本 ヘンリー・シムーン、エイブラハム・ポロンスキー
原作 リチャード・ドハティ
製作 フランク・P・ローゼンバーグ
音楽 ドン・コスタ
撮影 ラッセル・メティ
配役
リチャード・ウィドマーク
ヘンリー・フォンダ
インガー・スティーヴンス
ハリー・ガーディノ
ジェームズ・ホイットモア
スーザン・クラーク

 

刑事マディガン 1968 Universal

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